権威付け
「はぁ、結婚だぁ? アルス、お前、俺より先に結婚するってか」
「そういうことになったみたいだ、バイト兄」
「ふっざけんなよ。しかも、貴族のお嬢様とかお前どんだけ勝ち組だよ」
「そういや、バイト兄はお姫様を助ける英雄になりたいとか言ってたことあったな」
「そりゃあ、男の夢だろ。あーあ、やってらんねー」
「多分リリーナと一緒にメイドさんなんかもバルカに来るみたいだから、いい人見つかるかもよ」
「バカか。俺はこれからもっと手柄をたててとびっきりの美女と結婚してやる。みてろよ、アルス」
フォンターナの街での新年の祝いを終え、バルカニアに戻ってきた俺は家族に結婚話を伝えた。
それを聞いてバイト兄がプンプンと怒っている。
だが、他の家族は割と寛容にこの結婚話を受け入れてくれた。
というか、農民出身でいいところの女性と結婚するというのはやはり大手柄だと考えるようだ。
まだ俺が子供だということをすっ飛ばして、みんな喜んでくれたのだった。
「でも、てっきりお前は結婚とかしなさそうな感じもしてたんだけどな。どういう風の吹き回しだよ、アルス」
「ん? リリーナはいい子そうだったしね。それにやっぱり結婚のメリットが大きそうだってのもあったからな」
「メリット? なんかあるのか?」
「ああ。前からグランとこのバルカニアには城をつくろうって話をしていたんだよ。けど、どういう城にするかは決めかねてた。それがこの話で前に進みそうだからな」
「なんで結婚が城造りと関係しているんだよ。前も川のそばに城を作ったんだし、好きに作ればいいんじゃないのか?」
「今度バルカニアにつくろうと思っている城は権威を示すために豪華さを出そうかって言ってたんだよ。ただ、あまりにも豪華な城を作るとなると主家であるフォンターナ家に気を使うってのがあってな」
「それがこの話で進むのか」
「そうだ。フォンターナ家の当主と血の繋がりがあるリリーナを嫁に迎えるんだ。実家みたいなボロい家に上げるわけにはいかないだろ。リリーナを迎えるためにバルカが持てる力を使って最高の住居を用意する。っていう理由でならちょっと豪華な城を作っても文句でないだろ」
「なるほどな。いちいち面倒くさいんだな、貴族との関係ってのも」
「ま、それもこれで終わりだ。これからは好きなようにできるってことさ」
こうして、俺はしばらく放置気味だったバルカニアの城造りに取り掛かることにしたのだった。
※ ※ ※
「して、アルス殿。どのような城造りにするかは考えているのでござるか?」
「ああ、俺なりにこれまで考えてみた。で、やっぱり、ここに建てる城はバルカという土地を象徴するものにしたいと思っている」
「象徴となる城でござるか。いいでござるが、具体的にはどのようなものを考えているのでござるか」
「今度造る城のテーマはガラスだ。ガラスを活用した城にしたい」
「ガラスでござるか?」
「ああ、そうだ。城下町を作ってからガラスの需要ができたのは知っているだろ。実際に街にある建物に窓ガラスが使われていて、それを見た外から来た商人が驚いていた。他の土地ではまずみない建物だからな」
「確かにほかの土地の建物は窓などないでござるからな」
「だからガラスを有効利用できれば、他の土地では絶対に見たことのない城になる。インパクトとしても十分だし、権威付けにもなるんじゃないかと思ってな」
「うーむ。言いたいことはわかるのでござるが……。ガラスといっても窓に利用するくらいしかないでござろう。城を窓だらけにしたとしても、そんなにインパクトとやらが出るとは思えないのでござるが」
「ふっふっふ。ただの窓ガラスを使うんじゃないさ。今回城に使うのはステンドグラスさ」
最初にグランに権威付けのための城作りの話をされてから、ずっと考えていたこと。
それは建物そのものにどうやって権威を付けるかというものだった。
一番簡単なのは高さを出すことだろう。
基本的に高い建物というのは普通には必要ないもので、それをあえて作るというのは権力を示すことにもつながる。
だが、だからといってあまりに高い建物を造る気にはなれなかった。
何故かというと、人手が足らないからだ。
もともとが村という小さな集団で住んでおり、俺が開拓した土地をこうして街にまですることができた。
だが、俺の家にすんでいるのは基本的に俺と弟のカイルくらいであとは知り合いに家事を助けてもらったりしていたのだ。
これはあくまでも実家の家長は父さんであり、その後継は長男のヘクター兄さんだからだ。
俺は実家を出て新たに家をつくったということになる。
つまり、あまりに高く大きな建物を作っても管理が面倒くさいということもある。
【洗浄】という生活魔法があるおかげで掃除しやすいのだが、それでも大変なのだ。
そのため、単純に構造物の規模で権威を示すのではなく、なにか別の方法はないものかと思っていたのだ。
そして、そこからたどり着いたのが光を利用するというものだった。
前世の記憶でこんな話を聞いたことがある。
神や仏というのはたいていその姿に後光がさしているものだ。
人の後ろから光がさしていると、あたかもその人物も神聖なものとしてとらえてしまう事があるらしい。
これを利用してあえて後ろから光を当てることで、その人のイメージアップにもつながることがあるというものだ。
バルカニアに訪ねてきた人が俺と新しい城にある謁見の間で会う。
そのとき、俺の背後はステンドグラスでできた大きな窓がたくさんあり、そこに光が差し込みキラキラとしていたらどうだろうか。
おそらく、そんなものを見たことのない人はそのきれいな光の印象を俺に重ね合わせるに違いない。
権威付けにはぴったりだろう。
こうして、俺はグランとともにステンドグラスを用いた建物づくりをすることにしたのだった。
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