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実体のない貨幣

「え、銀貨を作るんじゃないの?」


「いいえ、違います。銀貨を作るつもりはありません」


 無事に捕まえた白犬人。

 そいつらを引き連れながらバイデンの町まで戻ってきた。

 最初は犬人たちを縄でつないで引っ張っていたが、途中からはやめている。

 あまりにも移動速度が遅くなってしまったからだ。

 それまでは、ヴァルキリーたちに騎乗した者だけで進んできていたので、かなりの速さを維持し続けていた。

 が、数珠繋ぎのように連行される犬人がその速度についていけるはずもなく、寒く雪しかないような山の中でちんたらと歩くのが嫌になった。

 というか、魔物が出るし、できれば早く下山したいというのもあったからだ。


 というわけで、途中からは犬人たちを縄から外して走らせている。

 一応、そんなに強くはないとはいえ犬人も魔物だ。

 攻撃性のある魔術を使用してくるわけではないけれど、そんな魔物が縄から外されたらおとなしく従うはずがない。

 が、そこはヴァルキリーたちが上手く対応してくれた。


 縄を外した犬人たちの周りを数頭のヴァルキリーが取り囲んで見張っている。

 そして、逃げようとした犬人がいれば、すぐに近くのヴァルキリーが追いかけていった。

 最初は近くで脅すように声をあげたり、あるいは軽くかみついたりで引き戻す。

 が、何度も逃げようとした犬人にたいしては強く噛んだり、体当たりをしたり、あるいは蹴とばしたりなんてことをやったおかげで、完全に上下関係ができたようだ。

 今ではヴァルキリーに囲まれた二十四頭の犬人たちはおとなしく誘導されるままについてくるようになった。

 そのおかげで、移動速度が改善されて、数日のうちにバイデンの町まで戻ってくることができたというわけだ。


 そこでバイデンと再会し、手に入れてた氷熊や四手氷猿の素材を渡す。

 結構、大量にあるおかげで驚いていた。

 しかも、それらのほかにもエルメラルダでしか取れないと言われるようなちょっと変わった品もあったことで、バイデンは本当に俺たちが冬の大雪山で行動できるということを理解したようだ。

 数日前よりもさらにいい待遇をしてくれて、広々とした部屋へ泊めてくれた。


 そこで、休息をとりながら、俺は言ったのだ。

 アイが銀貨を作るつもりなら、鉄が取れる場所を手に入れる必要がある。

 なので、そこを春になったら攻めていこう、と。

 だが、それに対してのアイの返答は「銀貨は作るつもりがない」というものだった。

 そうなのか……。

 じゃあ、なんでこんな時期にわざわざ見つけた白犬人を生け捕りになんて来たんだろうか?


「今後は貨幣を作ることを検討しています」


「……はい? え、さっき銀貨は作らないって言わなかった?」


「そのとおりです。銀貨を作るつもりはありません」


「うん? どういうこと? 錬銀術が使える犬人を捕まえたんだから、銀山を手に入れたってことでしょ? ってことは、銀貨を作るんじゃないの?」


「いいえ。銀はあくまでも保証として確保しておくことを想定しています」


「銀を確保? ってことは、白犬人に銀を作らせるけど、その銀を使うつもりはないってことか。でも、貨幣を作る……。もしかして、金属以外で作るとかそういうこと? 証文みたいな感じで」


 アイとの会話で俺は混乱していた。

 銀を手に入れる手段を得たけれど、銀は手元に置くだけで、けれどお金を生み出すつもりらしい。

 そんなことができるものなんだろうか?

 よくわからないが、もしかして紙でお金を作るとかそういうことだろうか?

 確か、紙幣というやり方があると聞いた気がするけど、あれは完全に信用を裏付けにして発行するものだと聞いているけど、それを利用するんだろうか?


「いいえ。紙幣を作る予定もありません」


「あ、そうなんだ。じゃあ、本当にどうするの?」


「実体のない貨幣を発行します。金属や紙などを用いず、形のない貨幣で取引が完了できるようにと考えています」


「……んん? ああ、なるほど。そういうことか」


 そこまで聞いて、ようやく理解できた。

 なるほど。

 今まで、完全に俺の頭の中からそういうお金があるということが消えていた。


 ようするに、アイのいう貨幣というのは天空王国が参考になっているんだろう。

 今の天空王国では確かにお金のやり取りをするのにバルカ銀貨などを使ったりはしないらしいからな。

 けど、それは俺がブリリア魔導国に留学に行ったりしている間くらいから始まったことだったと思う。

 俺は当時まだ自分でお金を使ったりする年齢でもない子どもだったりしたので、全然馴染みがなかった。


 だけど、今の天空王国では国民全員に提供されている腕輪で取引が完結するらしい。

 天空王国の腕輪は「ステータスオープン」というとガラスの表示が出たりして、個人情報が記載されたりするのだ。

 で、そこにはその人の持つお金も全て記録されている。

 それはバルカ銀行に持つ自分の財産の総額なのだそうだけど、腕輪同士でやり取りすることで銀行でお金を引き出したりしなくても、取引による金銭の移動が行われるのだ。

 つまり、お金が手元になくても買い物ができるというわけだ。


 アイはこれを東方でも使うつもりなんじゃないだろうか。

 バルカ教会で作っている腕輪は精霊石がないからステータスウインドウというものは出ないけれど、アイと紐づいているので個人の位置情報などは常に把握できている。

 この腕輪をさらに改良して、東方でもお金のやり取りが銀貨なしでできるようにする、ということなんだろう。

 けれど、最初はどうしてもそんな架空の数字に不安を持つ人が多いから、銀を保有して保証となるように示すのかもしれない。


 なるほど。

 それなら、鉱山を奪うためにどこかを攻める必要というのはないのかもしれないな。

 戦いができないのはつまらないけど、それはそれで面白そうだ。

 興味を持った俺はさらに詳しく話を聞いていくことにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分がいっぱいとか人間なら精神崩壊待ったなしだよね…タロウ並みの知能ならまあ平気なんだろうけど、禁忌だって理解してるのにアルフォンスに無断転用したミームはギルティだよな~
[一言] 銀本位制の電子マネー始めるんか 小さい範囲でじゃないと 強権持った大国じゃないとやり辛いよなあ
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