東方貨幣事情
「合計で二十四頭です、アルフォンス様」
「ご苦労様。兵に負傷者はいないか? いたら【回復】かけとくけど」
「いえ、大丈夫です。負傷した者はいませんでした」
「よし。なら、捕まえた犬人を連れていけ。拠点で夜を明かしたら帰還するぞ」
「了解です」
エルメラルダで発見した白い犬人の群れ。
洞窟の入り口から出てきたそいつらを俺たちは捕獲に動いた。
そして、なんの問題もなく捕まえることに成功した。
どうやら、白犬人は強くないらしい。
むしろ、かなり弱い。
俺やイアンではないほかの騎兵が攻撃を仕掛けても、特に危険な目に合うこともなく捕獲することができた。
よくもこんな魔物しかいない環境で弱い種が生きているものだと思ってしまう。
「っていうか、帰還するってことでいいのかな、アイ? 生け捕りしたのは二十四頭だけど、それで足りるのか?」
「大丈夫です。犬人の飼育方法はバルカニアで確立しています。繁殖行為などは黒犬人と変わりませんので、問題ないかと思います」
「なるほど。ってことは、これでうちでも銀を手に入れられるようになったってことか。こいつはあれだろ。錬銀術を使う魔物なんだろう?」
「はい。黒い犬人は鉄を加工する魔術を持ちますが、白い犬人は鉄を銀に変化させることが可能です。先ほども洞窟内を探索した際に銀を発見しました。ここにいる種がタロウシリーズと同種である可能性は高いと思われます」
「銀、か。いいね。これでうちは銀山を手に入れたような感じになるってことだもんね」
白い犬人。
またの名をタロウシリーズ。
それは、銀を生み出す存在だ。
鉄に魔力を流し込み銀へと変える。
この手の魔法はいろいろと研究されていたらしい。
誰だって考えることだろうしな。
魔力を使って銀や金、宝石ができれば簡単にお金持ちになれるんだから。
だけど、その研究は上手くいかなかった。
少なくとも、それで大儲けできた人間はいない。
アルス兄さんの登場までは。
アルス兄さんはこの点でも特別な存在だった。
そもそも、高価なものであった魔石を作ることもできる。
そのうえ、あんまりやらないらしいけど、宝石だって作れる。
でも、一番活用しているのは鉄を銀に換えることができるタロウを使った銀貨作りだ。
バルカ銀貨。
今ではフォンターナ連合王国での貨幣となっている。
アルス兄さんはタロウを手に入れて、その数を増やすことに成功してから、自分でお金を生み出していたのだ。
金儲けをするんじゃなくて、お金そのものを作り出す。
ただ強いだけじゃなく、それができたからこそフォンターナ王国はほかの国々を圧倒できたともいえる。
そして、そんな流れを知っているからこそ、アイは白犬人を求めたんだろう。
多分、アイは貨幣を作りたいんじゃないかな?
前に習った経済の話では、お金の供給量がないと経済が拡大しないとか言っていた気がするし。
実は、オリエント国での貨幣のあり方は結構めんどくさい。
というよりも、小国家群がといったほうがいいのかもしれない。
というのも、いろんな貨幣が流通しているからだ。
小国の中でも独自に貨幣を作るところもある。
いくつかの小国が自国内で少量作っているそんな金貨や銀貨が複数あるのだけど、それらは金や銀に混ざりものが多かったりで信用度は低い。
ならば、そのほかの小国で商売をする者たちはどういったお金を使うのかというと、大国と呼ばれる国が作っている貨幣だ。
ブリリア魔導国の金貨や銀貨。
ソーマ教国の発行している金貨や銀貨、あるいは帝国のものなどがそうだ。
そういった大国のお金というのは、とくに商人たちや統治者にとって信用度が全然違う。
なので、小国が出しているお金も使うことがあるかもしれないけれど、できればそういう信用度の高いお金を欲しがるのだ。
が、そこで、さらにめんどくさいことになる。
各硬貨の交換比率が違ったりするからだ。
例えば、ブリリア魔導国の銀貨とソーマ教国の銀貨は一枚ずつで等価交換とはならない。
何枚と何枚で交換とはっきりと決まっているわけではなく、硬貨の欠け具合なんかもしっかりとみられるのだ。
なので、その日、その瞬間、その場所によって変動するというのだから大変だ。
クリスティナたちのような商人は、各通貨の交換比率についてかなり神経を使って商売をしているとも聞いている。
けど、どうするんだろうな。
そこで、白犬人を手に入れたアイがオリエント国用に新しいお金を作ることにしても、さらにややこしいことになりそうだけど。
まあ、けどその前にやらないといけないこともありそうだな。
錬銀術を手に入れても、これは鉄がなければ話にならない。
オリエント国内には鉄が大量に手に入る鉱山みたいなものはないし、まずはそこからだろう。
なら、それを理由に戦いに出られるかな?
鉄鉱山の確保を目的に春先にでも戦ができないかアイに相談してみようと、縄につながれて連れていかれる二足歩行する白い犬を見ながら考えていたのだった。
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