数年ぶりの再会
「お久しぶりです。いや、見違えましたな。あなたにお会いした時のことは今でも覚えていますが、大きくなられた。立派になりましたね」
「覚えているんですか? 確か、ここに立ち寄ったのはもう結構前の話だけど」
「あなたにとってはそうなのでしょうな。まだお若いから一年前でも大昔といったところでしょう。けれど、私にとっては違いますよ。お会いしたのは五・六年ほど前ですが、つい先日のように覚えています。時がたつのは早いものですな」
新バルカ街から騎兵隊を連れて北上した。
そして、訪れたのはかつて通ったバイデンという白ひげの老人が治めている町だ。
バリアントから歩いて八日ほど南に下ったくらいの位置にある町で、まだまだこの辺も辺鄙なところだ。
そのためか、町があるがどこかの小国には含まれていないらしく、正式な名前もないらしい。
というわけで、便宜上俺たちはここをバイデンの町と呼んでいた。
このバイデンの町に俺がきたのはもう五年前らしい。
たしかに洗礼式のあった六歳のときにアルス兄さんから追放されて東方に来たからそんなもんか。
年が明けたことで俺は十一歳になったから、バイデンから見たらものすごく大きく成長したように見えるんだろうな。
「大きく見えるどころの話ではありませんよ。あの時の少年が今ではオリエント国で重職についているというではありませんか。正直に言って信じられませんが、何度もバルカ傭兵団の話はここまで聞こえてきていました。こんなことをいうのもなんですが、我がことのようにうれしく思っているのですよ」
「ありがとうございます。そういうバイデンさんのほうはどうなんですか? この辺ではとくに問題が起きたりしていないんですか? そういえば、昔は盗賊が出て困っているって言っていましたよね?」
「そうでしたな。そのときに盗賊退治を頼んで見事に依頼を果たしてくれて感謝しています。細々した問題はもちろんありますが、今は取り立てて大きな問題というのはありませんよ。それよりも、どうしてこんな真冬にここに来られたのでしょう? さすがに、いくらなんでも雪が積もるこの時期に移動するのはあまり感心しませんが」
そう言いながら、バイデンという老人がお茶を差し出してきた。
それをもらい、口に含む。
生き返った。
さすがに、吸氷石があってもこの時期は寒い。
ここまで来るだけでも相当に寒かった。
手持ちできる程度の大きさの吸氷石でも周囲の寒さを取り込むことができる。
そのおかげで、ヴァルキリーに騎乗して走らせても兵たちが凍死したりはしなかった。
が、それでも寒いものは寒い。
極寒の中にいなくて済むようになったけど、寒い中を薄着で耐えているみたいなものだろうか。
久々に山のほうにきたというのもある。
九頭竜平野と呼ばれる土地と比べると、霊峰に近いこのあたりはさらに一段と寒さが増していたのだ。
そんなわけで、急遽バイデンにお願いして毛皮の服や外套を購入することにした。
これがあれば、なんとか外でも活動し続けられそうだ。
「暖かいですね、これ。外見は素朴だけど、いい外套です」
「それはバリアントから仕入れた毛皮を使っているのですよ。クリスティナさんがあなたについていってしまいましたが、その後、代わりとなる行商人を紹介してくれたのです。バリアントからはもともと錦芋虫から採れる生地を買い取っていましたが、ここ数年は魔物の毛皮も少数入手できるようになったのです」
「ああ、そういえばバリアントに残っている連中が言っていましたね。たまに霊峰から降りてくる魔物をみんなで倒しているって。そうか、霊峰に住む魔物の毛皮なんですね。道理で暖かいはずです」
「ええ、重宝しています。けれど、彼らもこの時期は決して霊峰には近づかないはずです。こんな時期に外に出れば死ぬのは間違いないですからね。それなのにどうしてここに来られたのですかな。バリアントに赴くならば夏にすべきかと思いますが」
「いえ、違いますよ。バリアントに行くわけではないですから。俺がここに来たのはエルメラルダに用があるからです」
「エルメラルダにですか? それならなおさらやめておいたほうがいいですな。バリアントはまだ人がギリギリ生存できる環境ではありますが、エルメラルダはバリアントよりも標高が高い山を越えた先にある場所です。季節に関係なく、人が行く場所ではない。死にますよ?」
どうやら、かなり厳しい場所のようだ。
夏でも人が行く場所じゃないらしい。
それはきっと、ここに長年住む長老として間違いのない事実なんだろう。
数年前に会ったことがあるだけの俺にたいして、本気で心配して止めてきてくれている。
が、だからこそ行く。
アイがそこに行くだけの価値を見出しているし、なによりもアルス兄さんはバルカニアから冬の大雪山を越えてバリアントまで到達したのだから。
その時は、アルス兄さんが出した【氷精召喚】の精霊の力が大きかったらしいけど、それでも吸氷石があるしな。
寒いのは寒いが短時間なら大丈夫だと思う。
心配するバイデンに礼を言いつつ、町で体を休めた次の日、耐寒登山を開始したのだった。
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