二人の富豪
「さすがにアイは仕事が正確だな。っていうか、どこから考えていたんだろうね、これは」
秋から冬にかけて、俺はオリエント軍を各地に派遣して川の付け替えという大工事を行うことになった。
一般人からも魔力を込められた魔石を購入し、それを用いて【壁建築】を何度も行えるように準備しておく。
そうして、アイによって計画された土地に壁を作り、その壁に盛土なども行い、川の流れに耐えられるように整えていった。
どうやら計算は完璧のようだ。
どこからどの場所で新しい堤防を作るかは、以前あった大嵐による大氾濫の影響範囲も加味して計算づくで予定が組まれていた。
最初は川の流れのない場所などにも壁を作っていたが、時間が経つほどに川の流れが大きく変わっていくのが分かる。
そんな感じで、変わりゆくオリエント国の地形を見ながら、アイの仕事についてうなってしまう。
というのも、アイはこの川の付け替え工事でオリエント国の国力をあげると同時にしっかりと実利も確保していたようなのだ。
それは、この計画が最初からアイだけがすべてを知っていたことも関係しているだろう。
アイは工事を始める前から土地を押さえていたのだ。
今回の工事で今までとは土地の状態ががらりと変わる。
それは国力を高めるためではあるのだけれど、いい面もあれば悪い面もあるだろう。
たとえば、氾濫を防ぐために川の流れを変えたことで、今までできていた農業が今後はできない場所もどうしても出てくるはずだ。
そして、その逆で、工事が終われば今までは無価値であると判断されていた土地が一気に重要な地点となることもあるだろう。
アイはそんな工事が与える土地の価値への影響もすべて計算していた。
工事着工前は捨て値同然で買い取れる場所であれども、工事が終わればここはきっと値段が上がるだろうなと俺でも分かる場所はほとんどがアイの所有する土地となっている。
しかも、以前の先物取引で得た土地の所有権もある。
当時、先物取引で大損を出した庄屋などは支払えない損害分を土地で払ったりもしたのだ。
そのときに手に入れた土地で重要性を増した場所が多くある。
これは、その時に得た土地を利用するために新しい川の経路を決めた面とかもあるんじゃないだろうか。
氾濫の多い小国家群の中の一国であるオリエント国もほかの国と同じように氾濫の影響が受けにくい高台になっている場所に都市を作っている。
都市以外で氾濫が比較的少ない場所に町や村があり、そして、川のそばなどに田畑がある。
氾濫した際に流れてきた霊峰からの土が農作物の育成に大きく影響するからだ。
そのためか、農地以外は割と未開発のところも多かった。
そういった土地を手に入れ、急激に開発した結果、アイは議長に就任した一年後には国内有数の富豪になったわけだ。
今までアイが議長になれたのは、バルカ党という勢力と軍の力を使えるようになった俺の影響が大きかったが、今回のことでよりアイの影響力は高まったことになるだろうか。
しかも、政治的にも上手くほかの者を使って協力関係を築いているとかで、おおっぴらにアイにたいして敵対する者もいない。
「ずいぶん上手くやってくれたね、アイ」
「オリエント国に存在する法をすべて参照し、法に照らして違法にならない方法でできることをしているだけです」
「そうなんだろうね。アイがいうならそのとおりだと思うよ。理論武装でアイに勝てる奴なんて誰もいないだろうしね。というか、俺としては何にも問題ないし。庄屋から先物取引で手に入れた時の土地って俺のだしね」
アイが大富豪になったのであれば、俺もそうだ。
もともと、新バルカ街という一つの都市を持っているのですでにそれなりだったけれども、アイのおかげでオリエント国内で持つ土地が一気に相場上昇してくれたおかげでさらに財産が増えたことになる。
ようするに、今回のことで大きく利益を上げたのは俺とアイの二人だということになるだろう。
とりあえず、今回のことで整備された土地をより有効活用していこうかな。
アイの中では川の付け替え工事が終わったら、次は道路工事に着手するつもりのようだ。
もちろん、それはオリエント軍を使うことになるだろう。
川と道路が整備されれば、交通の便が良くなるはずだ。
そうすると、今までと人の通りが違ってくるだろうか。
今後は商人たちがどういう道を通ることになるか、クリスティナも含めて検討してみてもいいかもしれない。
で、交通の要衝になる場所には宿場町などを。
農地として使える場所はバルカ式の効率重視の農業を行うようにしていこうか。
今まで未開発だった土地を農地に変えるのは大変だけれど、【整地】や【土壌改良】があればやりやすいだろうしな。
それに、俺やアイの土地に住む者には新たに縛りを設けてもいいかもしれない。
効率のいいバルカ式の農法や、気象予報に合わせた作付けや収穫など、アイの指示どおりに仕事を行うように血の楔で決めておいてもいいかもしれない。
そんなこんなで、この年は工事を進めつつ、着々と勢力範囲を広げていったのだった。
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