仕事の割り振り
「当分の間は戦争は防衛のみということになります。よろしいですね、アルフォンス様?」
「……わかったよ、アイ。アイが言うならしょうがないね。しばらくはまた力を蓄えることになるのか」
「はい。今回、アルフォンス様が周辺国に勝利したことで、講和を締結しています。それを利用して国力を高めることが先決でしょう」
ガロード暦11年の夏から秋にかけてのオリエント国は常に戦い続けていた。
グルーガリア国をはじめとして、ぺリア国も含んだ計五か国からの侵攻にたいして、防壁戦術という戦い方で対抗して無事に勝利を治めている。
少数でも相手に超強力な突破力がなければ崩しにくい防壁戦術であれば、数で劣っていても十分以上に戦えたからだ。
だが、それでもかなり国力を消費してしまった。
次から次へと襲ってきたおかげで、戦って勝利をしても相手のところにまで攻め入ることができなかったというのが関係している。
街を襲って物資を得たり、土地の支配権を得たりということができなかったのだ。
が、さすがに何もなしというわけではなかった。
相手国にたいして勝利した後は、外交の出番だった。
そこで活躍したのが、もともと外交畑にいたバナージとオリエント国議長のアイだったりする。
各国から賠償金をもぎ取ったり、回収できない分は今後不足することで値上がりするであろう生活物資での現物を対価とさせたりと、各国の事情に合わせた要求を見事に通したのだそうだ。
その結果、国土を広げるということはなかったものの、総合的には黒字にはなった。
が、それは表面的なものだろう。
少し前にアイに俺が指摘されたように、防壁戦術で各地に作った壁などが負担となって残ってしまった。
一度建てた壁を解体するのもそれなりに手間がかかる。
それに、こちらが建てた分の壁もそうだが、相手の軍が作り出した壁というのも存在しているのだ。
それらを解体などするには相応に時間がかかってしまう。
というわけで、アイからこれ以上軍を動かして攻めるような行為は禁止とされてしまった。
俺の役職は国防長官であり、護民官ではあるが、アイの指示を無視して勝手に動かすことはできない。
というのも、補給などを元の担当のキクを戦場での現場の指揮官にすることにしたりして、なんだかんだで魔導通信器を用いて全体の統括をアイにお願いしていたというのもある。
戦闘に必要な装備や食料などは全てアイの管轄で動くことになってしまっていて、こっちの自由というのはなくなってしまったのだ。
なので、アイが駄目というのであればオリエント軍は戦うことができない。
まあ、ここらでふたたび寒い時期がやってくるしな。
今年はある程度戦えたし、戦場での血と魔力の回収で位階も上がったことだし良しとしておこう。
「ってことは、しばらく暇になりそうだね」
「何を言っているのですか、アルフォンス様? すべきことはいくらでもありますよ」
「え? そうなのか、アイ。そりゃ、議長であるアイはいろんな仕事をしているからやることは山積みだろうけど、俺は軍をみてるだけだからね。各地の警戒をして、あとは訓練でもさせておくつもりなんだけど」
「先ほど、国力を高める必要があると言いました。アルフォンス様にはそれに取り組んでいただきます」
「国力を? もっと徴兵できるようにするとか?」
「そうですね。そのためにも必要なことです。国の力を高めれば、兵を多く集めることも可能になります」
「それならいいけど、何をしたらいいんだ? 俺に言うってことは、軍を動かすってことだよな? 防衛用に配置している軍を動かせない以上、できることって限られているんじゃないかと思うだけど」
「いいえ、あります。動くことが可能なオリエント兵にはふたたび壁を作っていただきます」
壁を?
アイに仕事を割りふられることになったが、その仕事というのが新しく壁を作るということらしい。
あちこちに壁を作りまくって若干後始末に困っているのに、まだどこかに壁を作るんだろうか?
もしかして、いろんなところに散らばっている壁を一つにつないでオリエント国を一周ぐるっと取り囲むようにするとかだろうか?
いや、さすがにそれはないか。
そんなことをするのは手間ばかりかかって意味がないだろうし。
「それに近いことかもしれません」
「え、そうなの? 軍を使って壁を作るって、そんなに長い距離をってことなのか?」
「肯定です。オリエント軍に作っていただく壁はこちらの地図にある地点です。ここからここまでと、ここからここを、そして、ここにも途切れないように壁を作っていただこうと思います」
そういって、俺に地図を差し出してくるアイ。
どうやら、もうすでにやるべきことは固まっていたらしい。
その地図を見る。
アイが描いたんだろうか。
四枚羽で上空から確認した、ほかには絶対にないだろうというほどの細かく正確な地図が紙に描かれている。
そして、その地図上にはアイの指示により作るべき壁の位置が描かれていた。
「川のそばが多いな。ってことは、堤防を作るのか」
「そのとおりです。オリエント国は小国家群のなかでは比較的川の氾濫は少ない場所であるとされているようですが、それでも大小さまざまある川の氾濫はよくみられます。それを解消するためにも、川の付け替えをする必要があるでしょう」
「なるほど。普通だったら年単位で時間がかかりそうな工事だけど、魔力が込められる魔石と【壁建築】って魔法があれば工期を短縮できるってことね」
もしかして、冬の間にこれをやれってことだろうか?
どうやら、アイはかなり大胆なことを考えているようだ。
今までならば土地の所有者がどうだとかで、川というのはあんまりいじれなかった。
が、オリエント国の国土に広く軍を配置して、国内から反対意見がしにくい状況になっているというのもある。
それに、周辺国に勝利し、その講和で川の付け替え工事についても承諾をもぎ取っていたみたいだ。
川の流れは水利関係でもめやすい。
川の付け替えなんて普通は許可しないだろうけど、今回は数千人規模で兵が命を落としたりしているから拒否もできなかったんだろう。
こういう機会でもなければ手が出しにくかったところで条件が整ったとみて一気に話を進めるみたいだ。
大丈夫なんだろうか?
周辺国がその話を飲んだとしても、もっと下流の地域から文句が出そうだけれど、それはいいのかと思ってしまう。
が、それならそれでどこかが攻めてくるかもしれないし、別にいいか。
アイもオリエント国が攻められた場合には戦うことを否定していないからな。
というわけで、俺はオリエント軍を率いて、寒い時期に堤防工事なんかを始めることになったのだった。
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