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赤と白の軌跡

 二人の戦いを目で追うことができません。

 両者はお互いに勢いをつけて接近し攻撃を繰り出します。

 そして、その攻撃を弾き、逸らし、躱しながら位置を変え、ふたたび攻撃に転じる。

 それを何度も繰り返しているのです。


 私の目ではそれは光として認識されていました。

 セシルのきれいな純白の鎧が光を反射しながらの移動をし続け、そして、それに対して真っ赤なバルカ殿が追随する。

 白と赤の光の帯が軌跡を描き、そして剣と大剣の衝突音が響き渡ります。


 もはや、我々が戦いを見守るために周囲を囲んでいた意味は無くなりました。

 動きが速すぎ、しかも移動範囲が広いために、その囲いの外にも場所を移して剣をぶつけあっているからです。


「凄い……。これが上位者たちの戦いなのですね」


 それを見て、思わず心情を吐露してしまいました。

 私もパージ街という一つの街を管理する立場につくことになり、そして軍を預かる身となりました。

 ですが、今まで本当は不安ばかりだったのです。

 いくらバルカ殿らの計らいによって私の魔力量が上がったところで、本物には勝てないのではないだろうかという思いです。


 かつてのグイード様は確かに強かったです。

 ですが、それはあくまでもぺリア国の中での話だとも聞いたことがありました。

 そのほかの小国の中にはグイード様に匹敵し、あるいは上回る者も多数いたのです。

 そして、そのような方々が口をそろえて勝てないというのが大国の武人たちです。


 ブリリア魔導国やそのほかの大国などは、王族、あるいはそれに類する上位貴族は本当に強いのだそうです。

 それこそ、小国家群のどんなつわものが何人束になっても勝てないような相手です。

 今なら、ブリリア魔導国の第三王子様がよく戦場に顔を出しているのでしたか。

 たった一人で地形すら変えてしまうというほどの存在がこの世にはいるのです。


 ですが、それらはあくまでも別の場所の話であるように思っていました。

 小国家群ではそこまでの相手に当たることがそうそうないからです。

 なので、まさかぺリア国とオリエント国との戦いで、そんな者たちの戦いを見ることになるとは思ってもいませんでした。


 しかし、現実は違いました。

 私の前で行われている戦いはまさにそういう世界の出来事なのでしょう。

 目で捉えることもできない速度で剣をぶつけ合い、その衝撃波で人が倒れ、そして、運悪く二人の邪魔になる位置にいる兵は命すら落としていました。

 見てから逃げることもできない、ある意味で災害と同じかもしれません。

 嵐が来ると分かっていても甚大な被害が出ることもある。

 そういう性質の戦いなのでしょう。


 それにしても、そう考えるほどに凄いですね。

 もちろん、セシルの強さも信じがたいものでした。

 こんな強くなれる者が小国家群で傭兵をしているとは。

 ですが、それに対応できているバルカ殿もすごすぎるの一言でしょう。


 【雷光】のように走り抜け、重量のある大剣を叩きつけてくる相手にけっして負けていないのですから。

 先ほどまで吹き飛ばされていたのは、やはり本気ではなかったのでしょうか。

 いえ、本気は出していたのだと思います。

 ですが、全力を振り絞るほどではなかったのかもしれませんね。


 ただ、それでもこの戦いでどちらに分があるのかを予想するなら、セシルのほうなのかもしれません。

 セシルは今も変わらず高速で動き回っています。

 そして、そこからくりだされる攻撃も同様です。

 いえ、むしろ、先ほどまでよりも速度も力強さも増しているのかもしれません。


 なぜなら、バルカ殿との衝突を繰り返すたびに、そこで手傷を与えているからです。

 ……手傷、といっていいのでしょうか?

 見えていないのでよくわかりませんが、損害を与えることには成功しているようです。


 というのも、二人がぶつかり合うと、そこからしぶきのようなものが上がるからです。

 そのしぶきというのは赤い。

 その赤さはきっと血の赤なのではないでしょうか。


 剣と大剣をぶつけ合うことで、一見すると見かけ上は拮抗しているように感じられます。

 ですが、そのたびにバルカ殿の剣か、あるいは鎧が剥がされていっているのではないでしょうか。

 あの剣と鎧は確かバルカ殿の力によって生み出されたもののはずです。

 そして、その原料はバルカ殿の血でした。


 つまり、衝突によって血がしぶきとなって流出してしまっているのです。

 私はバルカ殿の力を正確に理解しているわけではないのですが、口ぶりからは血を集めると力が上がるように言っていたと認識しています。

 となると、その力の源が徐々に失われている。

 それがさらに続けば、もはや今の拮抗状態は保てないでしょう。


 ボトン。


 そんなときでした。

 二人が描き出す白と赤の軌跡の途中で、なにかが地面に落ちました。

 それは真っ赤な物体です。

 鎧の一部、でしょうか?


 どうやら、セシルの大剣は血でできたバルカ殿の赤い鎧を切り落としてしまったようです。

 いけませんね。

 この鎧の一部がバルカ殿の力とどのくらい直結しているのかは分かりませんが、血しぶきよりも力の減少を引き起こすのではないでしょうか。

 いよいよ、敗勢となってきたのではないか。

 そう思ったとき、私の目の前はいきなり真っ赤に染められてしまったのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 血が舞って、セシルの動きを封じるのかな? [一言] 第三王子って、お姉様の事か ブリリア魔導国の学園も、登場しなくって久しない。 アルフォンスの花嫁候補と思った令嬢二人も どうしてるかな?…
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