両者の激突
剣を打ち合わせるごとにセシルの力が増していきます。
すでにバルカ殿とは何度もぶつかり合っています。
やはり、あの剣を衝突させることが異能を発揮するために必要な行為なのかもしれませんね。
セシルの立ち位置は当初からほとんど変えず、向上した力で勝負を決めるよりもさらに打ち合うために大剣を振っているように見えるからです。
何度も繰り返される光景。
騎乗して突進して行われるバルカ殿の攻撃にたいして、それをひたすらはじき返す純白の騎士。
バルカ殿のほうも無策ではないとは思います。
打ち合うたびに剣を振るう動きに変化をつけて攻撃を繰り出しているからです。
ですが、それに対処するセシルのほうの変化が大きすぎました。
【雷光】。
セシル自身が名乗る呼び名ですが、それを見た者が否定しない理由が私にもわかります。
速いのです。
打ち合うごとにバルカ殿をはじき返す力が強くなっているのもそうですが、それ以上に動きの速さが最初とは全然違いました。
魔力が上がったことで私の視力はよくなっているはずですが、それでもすでにセシルの動きをとらえにくくなるくらいに動く速度が増しています。
まるで、いかづちのような速さである。
そう思ってしまうのです。
「ふむ。もう十分だな。ご苦労だった、アルフォンス・バルカ。君の役目はここで終わりだ」
「終わり? っていうことは、そこが上限値ってことかな?」
「いいや、違うな。だが、お前ではこれ以上、俺の速さを引き出すことはできん。ゆえに終わりだ」
高速で迎撃をくりだし始めたセシルが、動きを止めて発します。
もう終わりだ、と。
どうやら、何度も何度もバルカ殿と剣を打ち合うことで高めていた力ですが、ここで終わりということなのでしょうね。
戦闘中であるにもかかわらず、お互いが短い会話を行います。
それを聞く限り、どうやら武具の異能も無限に能力を上げ続けられるというわけではないのでしょう。
それもそうかもしれません。
上限がないということはないのでしょう。
セシルの口ぶりからすると、相手によって上昇値が違うということでしょうか?
もしかすると、アトモスの戦士であるイアン殿とであれば更なる能力向上ができるのかもしれません。
なんにせよ、バルカ殿が相手であればもう十分であると判断したのだと思います。
「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「……なんだ? 遺言くらいならば聞いてやるぞ?」
「違うよ、そんなことじゃないさ。もう、本当にそれ以上力が上がらないのかってこと。っていうか、力っていうより魔力か。上げられるんなら上げておいたほうがいいよ?」
「……くどい。その必要はない。それに貴様はここで終わりだ。我が【雷光】の前にひれ伏せ」
なんでしょうか。
この戦いが始まってからそうですが、バルカ殿は結構相手を挑発しますね。
というか、最初の名乗りの時もわざわざ強い者に出てこいといって決闘まがいのことをしていたのを思い出しました。
相手を怒らせるような物言いをする必要があるのでしょうか。
セシルもそれを聞き、腹を立てた様子です。
そして、それまでとは構えを変えました。
今まではどのように攻撃されても迎撃できるようにしていたのでしょうか。
それをやめて攻撃に出ようというのか、剣を握った状態でグッと前に踏み込むような姿勢に転じます。
どうなるのでしょうか。
【雷光】と呼ばれ、それを皆が認めるほどの超高速で動くことが可能になったセシル。
それに対して、バルカ殿のほうは変わりなさそうでした。
角の生えた赤馬と鎧を纏った騎乗姿。
セシルによって吹き飛ばされてもなお突進攻撃を繰り出そうと馬上で剣を構えています。
それまでと同じように正面からぶつかろうとしているバルカ殿に、セシル側が大きく動いて攻撃に転じる。
そうなれば、まさに勝負は一瞬で決まるでしょう。
その勝負の行方によっては私の命にもかかわってくるかもしれません。
しっかりと見定めておく必要がある。
そう思い、今までしたこともありませんでしたが、目に魔力を集めてみようと頑張ります。
まあ、やったことがないのでうまくできるはずもなく、気持ちちょっとだけ目がよくなったかなという感じでしょうか。
そんな私の目の前で両者が動きました。
グッと身をかがめたような姿勢から純白の鎧をまとったセシルが信じられない速度で一歩を踏み出しました。
重たい金属の鎧を着てそんな速く動けるものなのかと思ってしまいます。
光を反射するほどの純白の鎧がその一瞬の加速で光ります。
今にも雨が降りそうな空模様で周囲が暗くなっているなかを、光を発しながら高速で駆け抜けるその姿はまさに【雷光】といってもいいのではないでしょうか。
あまりの速さにこの場にいるほかの兵のほとんどは、ただ光が移動して走る抜けているだけにしか見えないでしょう。
そこに赤の鎧がぶつかります。
こちらも今までの動きは何だったのかと思うほど速度を上げていました。
きっと、あの赤馬もここで勝負が決まると感じ取り、全力を出したに違いありません。
人間では到底追い付けないような速度でセシルへと向かっていました。
白と赤が高速で接近し、そして衝突する。
人智を越えた領域での戦い。
少なくとも私やほかの普通の人間ではその場にいることすら許されない力を持った者同士のぶつかり合い。
その両者が持てる力を出し切る。
もう二度とこんな光景は見られないのではないかと思う異次元の光景がそこにはあったのでした。
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