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【回復】による増殖

「出てこい、鮮血兵」


 攻撃対象であるぺリア軍を目前にして、俺は鮮血兵ノルンを作り出す。

 ブリリア魔導国の魔導迷宮にて手に入れた赤黒い魔石。

 その魔石に俺の血を大量に取り込ませることで、独立して行動できる鮮血兵を生み出すことができる。

 それをこの場で行ったのだ。


 それはいつもの光景、ではない。

 なぜなら、俺は自分の手首を魔剣で切り裂いたのだから。

 ドパッという音とともに、大きく切り裂かれた手首から血があふれ出す。

 それが、いくつもの魔石に吸い込まれるように入っていった。


「そんなことをして大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ、イアン。問題ないさ。回復、っと」


 鮮血兵を出すためには魔石に血を貯める必要がある。

 体格のいい鎧姿になれるくらいの血の量が求められるため、普通ならば俺の体から出せるだけの血を注ぎ込んでも生み出すことができるのは一体だけだ。

 ただ、最近は事前に魔石に血を蓄えるという方法を使って三体までなら出現させられるようになっていた。


 だが、この場に現れたのは十体を超えている。

 数が多い。

 明らかに俺の体に含まれている血の量を越えているに違いない。


 魔剣ノルンを通して他者の血を取り込むことができるので、普通の人間よりも俺の体には大量に血があってもおかしくはない。

 だけど、それでも十体という数は今まで出せなかった。

 それができるようになったのは、【回復】のおかげだ。


 位階が上昇したことで使えるようになった魔法。

 人体についての知識を持たなくとも、呪文を唱えるだけでたいていの傷は完治させることが可能な特級の魔法だ。

 そして、その効果はもちろん血にも当てはまる。

 つまり、【回復】を使うと失われた血液がすべて元通りに戻る。


 なので、自分が【回復】を使えるようになったことで試してみたのだ。

 自分の手首を切り、動脈から出血死間違いなしというほどの大量の血を出してそれを魔石に取り込ませる。

 そうして、鮮血兵を出した後に自身の傷ついた体に【回復】をかけて、元通りに戻して、さらにまた手首を切って鮮血兵を生み出す。

 そんな繰り返しができないかどうかをやってみたのだ。


 そして、それは可能だった。

 もう相手の軍が目の前に迫っているのでこれ以上やる必要はないだろうけれど、魔力さえあればいくらでも鮮血兵を増やせそうだな。

 よかった。

 実は、この方法は俺が自分で【回復】を使えるようにならなければできなかったのだ。


 というのも、以前からこの方法は考え付いていたのだ。

 そして、【回復】の使い手というのは俺よりも先に身近にいた。

 バナージやエルビス、イアンだ。

 バナージはもともとアルス兄さんに名付けされて、この東方で魔法が広がる最初の起点となった人物だ。

 そのため、流れ込んでくる魔力量は実はものすごく多い。

 他人から名付けもされていないらしく、すでに【回復】を使うことができたのだ。

 そして、そのほかのエルビスはバリアントを起点として名付けの頂点に位置しているし、イアンはもともとが魔力が多かったので使えるようだ。


 なので、以前に鮮血兵を効率的に増やせないかと試したことがあったのだ。

 だが、それはなぜか上手くできなかった。

 俺が体から血を流し、そしてそれをエルビスなどが使う【回復】で元に戻しても、鮮血兵は増えなかった。

 血は元に戻っているはずなのに、その血に含まれるノルンの成分が少ない、とかそういうことなんだろうか?

 詳しい理由はよくわかっていないが、なんにせよ、エルビスやイアンの【回復】では駄目だったのだ。


 だけど、今はできる。

 俺が自分で【回復】を使えるようになったことで作り出せる鮮血兵の数が一気に多くなった。

 それがはたして、あいつらよりも俺のほうが人体についての知識を勉強して身に着けているからなのか、それとも魔剣ノルンと血の契約をした張本人で吸血種として無意識に血への理解があるからなのかどうかは分からない。

 どちらにせよ、ここにきて戦力を増やすことができたということだ。


「鮮血兵ノルンのうち、五体は戦場全体に散らばれ。倒れているぺリア兵からは全部の血を吸い取ってこい。残りは俺とともに相手の軍への攻撃に参加しろ。いいな?」


「了解だ、アルフォンス。いやー、おもしろいな。今まで何人もの人間と血の契約をしてきたが、ここまで大量の血を集めようとするやつはお前が始めてだ。王になった奴よりもどん欲だぞ、お前は」


「悪いか、ノルン? それでもまだ足りない。俺はアルス兄さんたちを超えたいんだからな。そのためにはもっともっと力がいる。その力を集めてこい、ノルン」


「いいぜ。その強欲に付き合ってやるよ」


 ノルンも楽しそうだ。

 あいつも数百年以上迷宮の奥で誰にも知られることなく放置されていて、魔剣の中の血が空になった状態だったからな。

 思う存分、血を吸うことができるとわかってうれしいのかもしれない。

 どうなるんだろうな。

 グルーガリア軍との戦いもいれれば、この短期間で数千人以上から血を集めることになる。

 想像以上の血と魔力が集まりそうだ。


 だけど、魔力に限って言えば大量の一般人からよりも数人の貴族から吸ったほうが量が多くなるかもしれない。

 なので、この先にいるであろうぺリア軍の指揮官たちを逃さず倒さないとな。

 血に飢えたオリエント軍が後退するぺリア軍に襲い掛かったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルス「貴様、一体何人の血をその力をつけるのに吸い取った!」 アルフォンス「お前は今まで食べたパンの枚数を覚えているのか?」
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