【回復】の効果と寿命
【回復】という魔法。
それは特別な意味がある魔法だ。
この魔法は聖光教会の流れをくむ魔法であり、その源流は神様にある。
魔力量が一定以上に高まると使える位階に到達するが、それはなかなか難しい。
フォンターナ連合王国などのある西では、各地に聖光教会の教会があり、その教会で洗礼式を行って地域の住民に名付けを行うのだ。
そのため、教会関係者は基本的に魔力量が多い。
だけど、そんな教会の人間ですら【回復】を使える位階に到達する者は限られていた。
というよりも、【回復】が使えるくらいになるとその神父は司教として、旧来の貴族領を丸々担当する役職にあてがわれていた。
貴族領というのは場所にもよりけりだが、騎士領と比べると断然数は少ない。
つまり、【回復】が使える司教の数というのは本当に少ないのだ。
貴族家の当主であれば、その家の当主級の魔法が使える特別な存在としてみられる。
だけど、そんな当主級であっても【回復】が使えるとは限らない。
いわゆる大貴族などと呼ばれるような当主であれば使えるかもしれないが、ほとんどは無理だろう。
それほど【回復】という魔法は一度の発動で大量の魔力を消費する。
そして、それほどの魔力を使う【回復】はもちろん効果もすごい。
呪文を唱えるだけでたいていの傷は治ってしまうのだから。
そのため、当主級や有力な騎士などは戦場で大けがを負っても、領地に帰り教会に多額の喜捨をすることでその傷を治してふたたび戦場に立つことができた。
もっとも、神の御業たる奇跡の魔法に相当する額を求められるので、そんなに簡単に【回復】をかけてもらえないということもあったらしいけれど。
そんな、とんでもない【回復】だが、この魔法はちょっと特殊らしい。
というのも、使い手によって効果に変化があるからだ。
たとえば【整地】とかの魔法ならば呪文を唱えれば必ず一定の面積の土地が整地される。
そこにどんな魔力を込めようとしたりしても、効果範囲は変わらない。
だというのに、【回復】は違った。
目に見えて大きな違いが現れるのは欠損治療だそうだ。
【回復】を使えるようになった司教は呪文を唱えるだけで致命傷を負った相手を治すことができる。
だけど、失った手足をもとに戻すことはできない。
呪文を唱えるだけでは絶対に欠損は治せないのだそうだ。
しかし、人体についての正しく正確な知識があればそれが変わってくるらしい。
聖人であるパウロ教皇が作り上げた書物などを読み、人体についての正しい構造と仕組みを把握できれば失った手足の再生すらできる。
ただ、これは相当難しいらしい。
パウロ教皇が本を出版した後に教会の関係者がみんなそれを読んで勉強したのに、いまだに欠損治療ができるという人は両手の指で数えられる程度しかいないんだとか。
これだけでも、【回復】を手に入れられたという意味は大きいだろう。
もしも、欠損治療できるようになれば助かる。
戦力を失う確率を少しでも減らせるのだから。
が、そこで終わらないのがこの【回復】のとんでもないところだ。
実はこの魔法にはさらに先があるという。
ただ、これはあんまり表には公表されていない情報だ。
ごく少数の人間しか知らない極秘情報。
それが、【回復】による長寿化だ。
どんな傷も治すことができるようになれば、寿命すらも無くすことができる。
そんな話があるらしい。
実はそれこそが教会関係者がパウロ教皇が出した本をありがたがって聖人認定した理由だそうだ。
実際、寿命が無くなったかのように長生きしていた神の使徒と呼ばれる存在もいたらしい。
もっとも、神の使徒はもういないみたいだけど。
寿命が無くなっても殺されることはあり得るみたいで、神敵ってやつに皆殺しにされたそうだ。
そんな極秘情報をなんで俺が知っているのかといえば、理由は簡単だ。
身近にその存在がいるしね。
なんて言ったって、あのアルス兄さんは神の盾として、神界と呼ばれる場所と同じ天空に住んでいるんだから。
しかも、その見た目は若い。
ここ数年は会っていないけど、多分、今の俺よりもちょっと年上くらいの見た目のままのはずだしね。
「寿命、か。俺の寿命ってどのくらいなんだろうな」
【回復】を使った寿命の延長。
死なないわけではないし、自分の体に【回復】を使うのをやめれば普通に歳をとっていくんじゃないかと思う。
ただ、その方法はある意味で不安定だ。
毎日のように【回復】を使わないといけないし、年寄りが若返るわけではないらしいし。
だけど、そんな【回復】による寿命とは関係なく、俺はすでに寿命の問題からある程度解放されている。
だって、もう人間じゃないしな。
魔剣ノルンと血の契約を行って、吸血種になっている。
魔法で延命しなくても、ノルン曰く普通に数百年は生きていられるみたいだし。
そんな長寿の吸血種も寿命がどのくらいかはノルンにもわかっていないらしい。
たいていは寿命が来る前に何らかの形で死ぬからだそうだ。
俺はどのくらい生きるんだろうか。
【回復】を手に入れたことで、ふとそんなことに疑問を持った。
だけど、あんまり気にしてもしょうがないか。
戦いで負けて命を落とせば、吸血種であろうと、【回復】持ちであろうと関係なく死ぬんだし。
長生きできればそれでいいけど、それそのものが目的というわけでもないしな。
自分のやりたいことをやって楽しく生きよう。
位階が上昇したことでいろんなことが頭に浮かんだけど、結局のところやることは単純だ。
今は目の前の戦いを楽しもう。
そう決めて、イアンらとともに俺は撤退準備を始めようとしていたぺリア軍に向かっていったのだった。
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