キクの活躍
「【にゃんにゃん】部隊の第三小隊・第五小隊・第六小隊が相手陣地を攻略しました。ほかの地点もこちらが優勢に進めています」
「了解だ。手に入れた地点に防衛のための部隊を送る。キクはそのまま攻略を進めろ」
「わかりました、アルフォンス様。攻撃を続行します」
「ただ、ぺリア軍からの救援が第一小隊のほうへと向かっている。そちらは強そうな奴がいるからなるべくキクが相手をしてくれ」
「本当ですか? 楽しみだなー。どんな奴なんだろう。見ていてください、アルフォンス様。俺も活躍できるってところを証明してみせますよ」
「ああ。けど、危なくなった時には呼べよ。キクが死んだらハンナやミーも悲しむからな」
「大丈夫です。行ってきます」
イクセル平地での戦いはこちらが優勢に戦えている。
俺は双眼鏡で遠方の状況を確認しつつ、魔導通信器で前線にいる部隊からも報告を受けているからこれは間違っていないと思う。
ただ、やっぱりたった一人の強者の存在でどうなるかは分からない。
油断せずにぺリア軍の数を減らすべく、指示を出し続ける。
その最中にキクに近づいてくるぺリア軍の救援部隊の相手をするように命じた。
それを受けて、かなり嬉しそうにしているキク。
やっぱり、なんだかんだといってもキクも戦いたかったんだろうなというのが伝わってくる。
もともと貧民街にいたころから傭兵として戦って活躍したいと言っていたからな。
そんなキクが俺のもとにきて、アイに育てられた。
だけど、アイの指導のときにも戦いには興味を示しても、勉強系はあんまり好まなかったのがキクだ。
そんなキクを最近俺は輸送部隊をまとめる役に任命していた。
俺から言われたということと、軍を動かすためにも輸送は重要な役目を担っているというのはキクもよくわかっていたのだろう。
ただ、それでも心の中に不満はあったのかもしれない。
強い相手が来るからキクに相手になってやれと言った俺の言葉がものすごくうれしかったようだ。
戦って結果を出したいと思っているのかもしれない。
「キク殿は大丈夫でしょうか? バルカ殿ほどではありませんが、彼もまだ年若い少年ですが……」
そんなやり取りを聞いていて、今は俺の隣にいるヘンドリクセンがそう言った。
どうやら、普通の者よりもはるかに強い兵が含まれた部隊が【にゃんにゃん】部隊に近づいていると聞いて心配してくれているらしい。
ヘンドリクセンからすれば、まだまだキクも子どもなんだろう。
「大丈夫ですよ。キクはああ見えてかなり強くなっていますから」
「強くなっている? 血筋の確かな家の子どもではないのですか?」
「……へえ? ヘンドリクセン殿にはキクのことがそう見えたかな?」
「え、ええ。彼の体からは力強い雰囲気を感じましたし、それにしっかりとした教育を受けているようにみえましたから。違うのですか?」
「ま、そんなとこだね」
ふむ。
ヘンドリクセンからすればキクのことはそう見えるのか。
俺からすれば今でも貧民街の子どもって感じなんだけどな。
今でも思い出す。
オリエント国の壁の外に建ったボロボロの建物のある場所ですら生きていくことに精一杯だった姿。
はじめて会ったときのその姿が頭にこびりついている。
だけど、その姿を知らずに今のキクの姿を見るとまた違った印象を受けるのかもしれない。
アイによる教育を勉強系は苦手とはしつつも、しっかりと受けていたからな。
しかも、武術に関しては自分の興味があったから熱心に習得していった。
あとは、俺の部下として使うという方針は前からあり、そのためには礼儀作法も必要だとアイに言われて一応覚えてはいるのだ。
パージ街の傀儡政権にたいして名付けを行ったこともあり、キクの魔力量自体は結構多い。
同じように名付けによって魔力量を増やしたゼンやウォルターもいるが、あいつらはもともと傭兵で身をたてて俺のところに来ただけで、そういう教育的なことは全然受けていないからな。
自分の部下に対しては割と強引なことを言ったりもするし、数字の計算なんかは間違うことも多い。
それと比べると、なるほど確かにキクはいいところの坊ちゃんかなにかと思うのかもしれない
これは結構面白いかもな。
今もバルカ御殿で身寄りのない子どもを育てている。
そいつらはキクと同じか、あるいはもっとしっかりとアイから教育を受けていた。
いずれはそいつらも俺の手足となって働いてもらう予定だ。
そのときにはそういう他人からの印象も利用しても面白いかもしれない。
実は俺の家で特別にかくまっているとある名家の傍流の子どもである。
そんな主張が通らないだろうか。
意外と難しくはないと思う。
だって、新バルカ街では腕輪を通して人の管理をしているけれど、ほかの土地ではそんなことは一切していないしな。
誰がどこの生まれかなんて、きちんと把握できていないだろう。
いい加減なものなんじゃないかと思う。
キクやほかの孤児たちにどこかの名家の出身だと名乗らせてしまおう。
それが真実かどうかは関係ない。
それを信じるやつがいるかどうかだ。
ある程度の数に信じてもらえるなら、そのほうが都合がいいしな。
誰だって貧民の子どもよりも名家の御曹司のほうが命令を聞くときに従いやすいだろうし。
ただ、キクは今更出自の偽造は難しいかもしれない。
今までも俺のもとで働いてきていたからだ。
今更言ったところで信じない者が相当数いるだろう。
なら、いっそ、キクも結婚させてみようか?
相手はこの戦いで共闘しているパージ街の元主であるパージ家の生き残りであるカレンがいいかもしれない。
イクセル平地での戦いで活躍したキクがカレンに結婚を申し込んで婚姻を結べば、キクもパージ家の一員となれるんじゃないだろうか。
うん、それでいこう。
というわけで、キクにはさらに頑張って戦果を挙げてもらうことにするか。
俺やイアンが戦う分を残して、ほかにいるぺリア軍の強そうな奴をキクの部隊に当たるように誘導してやろう。
俺のやさしさによって、その後、キクは次から次へとやってくる強敵相手に連戦を強いられることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





