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攻略開始

「【うさ耳ピョンピョン】部隊とパージ軍は前日の指示通り、攻撃を開始せよ」


 イクセル平地での戦いにようやく動きが現れた。

 ぺリア国内にあるこの平地は今や壁が立ち並ぶ場所と化している。

 そんないびつな風景の中で、オリエント軍とパージ軍の動きが活発化した。


 俺の号令を受けて、ゼン率いる【うさ耳ピョンピョン】部隊とヘンドリクセン率いるパージ軍が魔法を発動する。

 もちろん、使うのは【うさ耳ピョンピョン】だ。

 男たちの頭の上に大きなウサギの耳がぴょんと出現し、お尻にも尻尾が出る。

 そんなかわいらしい姿をした武器を持った連中が、壁を飛び出して駆け始めた。


 速い。

 その走る速度は動物並みで、そのまま木に突撃したら大けがをするくらいではすまないのではないかと思うくらいの速さが出ている。

 そんなうさ耳連中がそれぞれの守っていた壁の後ろから相手の守る壁まで走り寄る。


 当然、それを見たぺリア軍も黙っているはずもない。

 すぐに迎撃を開始した。

 【壁建築】を使って作り出した高さのある壁から弓による攻撃でこちらの軍に損害を与えていく。

 いくら【うさ耳ピョンピョン】が俊敏性をあげても、全員がその速さをいかして矢を避けるなんてことは難しいだろう。

 ただ、パージ軍よりはオリエント軍のほうが損害は少ないようだ。


 【見稽古】のおかげだろうな。

 パージ街に住む連中を集めて軍を作ったパージ軍だが、その全員が魔法を使える。

 使える魔法は主に俺の流れを汲んでいる。

 グルーガリアだったらアルス兄さん由来の魔法だけの者も多かったが、パージ街はこっちが名付けをさせたからだ。

 そうすると、グルーガリア兵は使えなかったであろう【見稽古】もパージ兵は使えるということになる。


 【見稽古】は俺が作った魔法の中でもかなり便利な魔法じゃないかと思っている。

 消費魔力量はそれほど多くないからたいていの奴が魔法を使えるというのもある。

 さらに、その効果によって習得に時間のかかる技術も通常よりもはるかに短期間に覚えられるからだ。


 だけど、【見稽古】は使えるだけでは意味がない。

 魔法を使って模倣すべき、優れたお手本となる存在がいないとたいした効果が得られないからだ。

 パージ兵がたとえ【見稽古】を使って剣の技を覚えたとしても、オリエント兵に技術力で勝つことは難しいだろう。

 だって、こっちは剣聖の剣の技量を完璧に覚えているアイが手本となっているのだから。


 どうやら、その差が出たらしい。

 ぺリア軍からの矢の攻撃をオリエント兵は【剣術】の中の【切り落とし】という技で対応できた。

 だが、パージ軍はそれができない。

 それを見ると、いかにオリエント兵は個々人が高い技量を持っているかというのが再確認できた。


 これも、ある程度外部に流出しないように制限をかけておいたほうがいいかもしれないな。

 もしかしたら、すぐに技術が漏れるかもしれないけど、【剣術】の凄さは剣と体の動かし方を体系的にまとめている点にある。

 いくら【見稽古】を使えたとしても、【切り落とし】をしている姿を一度見ただけで真似ることは難しいしな。

 あくまでもある程度まとまった期間、剣の扱い方を観察する必要があるし、少なくとも戦場でちらりと見ただけで覚えられる可能性は少ないだろう。


「よし、そろそろ動くか。イアン、頼んだ。キクと【にゃんにゃん】部隊はイアンに続け」


 飛び出したオリエント軍とパージ軍、そしてぺリア軍の衝突を見ながらあれこれと頭の中に感想を思い浮かべながらも、次の指示を出した。

 次は、こちらの最大戦力でもあるイアンに出てもらう。

 ただ、それはイアンの力によって勝負をかけるためではない。

 その巨人の大きさを利用するためにイアンには出てもらった。


 これまでのイクセル平地で、俺が目に魔力を集中させて他人の魔力を見るという方法で調べた結果、ぺリア軍は魔力の高い者を分散している傾向にあった。

 これは不思議ではないと思う。

 婚姻によって魔力の高い者が生まれやすくする東方の習慣では強者は生まれついての名家だ。

 当たり前だけど、そういう連中は人を従えて命令する立場になりやすい。

 なので、強い連中を集めた一個の部隊というよりは、各部隊にひとり強い奴がいてその部隊をまとめているということが多かったのだ。


 ただ、やはりアトモスの戦士がいるということを気にしているのだろう。

 ぺリア軍はある程度強者を分散させつつ、中央の一つの地点にもかたまっていたのだ。

 そいつらを叩いて勝てれば、ほかの部隊が生き残っていてもこちらの勝利になる。

 が、壁での守りがあるので、いきなりそこにはいけない。

 なので、まずはそこにたどり着けるように、切り崩すためにキクたちが働くことになった。


「うん、順調そうだな」


 巨人化したイアンが相手の陣地に近づき、梯子をかける。

 この戦いの最中に周囲の木を切って作り上げた大きな梯子だ。

 壁を登れるように高さもあるが、一度に何人もが梯子の上を登っていけるようにある程度、横幅もある。

 そんな梯子を矢による迎撃も気にせずに壁に立てかけたイアン。

 しかし、イアンはそれを登らずにかわりに【にゃんにゃん】部隊が登っていった。


 ただ壁に立てかけただけの不安定な木の梯子。

 それの上をまるで全力疾走するかのような速さでキクたちは登っていった。

 【にゃんにゃん】の効果だろう。

 猫耳と尻尾を出すあの魔法は平衡感覚も優れているらしいからな。

 安定性の悪い梯子の上をタタタッと走りきり、そして壁の上から相手の陣地内へと飛び降りる。

 こちら側から飛び降りた姿は見えていないが、魔導通信器での報告では無事みたいだ。

 あの高さから次々と人が飛び降りてきて、ぺリア軍は対応に困っているみたいだな。


「聞こえるか、イアン。もう何か所か予定していた壁に梯子をかけてきてくれ。ヘンドリクセン殿の部隊も【にゃんにゃん】を使って相手陣地に飛び降りるはずだ。それを見て、ぺリア軍が救援を出すだろう。それを確認次第こちらも動いて、俺たちは相手の主力を叩くぞ」


「了解だ。ヴァルキリーの脚ならすぐにほかの地点も回って戻れる。もう少しだけ待っていろ、アルフォンス」


 この戦い方ではでかい梯子をかけるのはイアンに頼ることにした。

 いずれは梯子をかける道具も作る必要があるかな?

 平地をヴァルキリーが走り回り、いくつもの壁に巨大な梯子をかけての攻略がほうぼうでみられる。

 それを見て、まずい状況だと判断したぺリア軍がそれぞれの陣地に救援を送る姿も確認した。

 想定通りだ。

 作戦はこちらの思い描いたとおりに進んでいる。

 そのまま、思いどおりにいけば、各陣地を守るためにぺリア軍はさらに戦力を分散するはずだ。

 俺たちはそれを見てから相手の主力に突撃する。


 そんなふうに、それまでの壁を作るだけの長い期間が何だったのかとおもうほど、この日の朝から昼にかけていきなり各地で戦闘が繰り返されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「にゃんにゃん」部隊は南斗人間砲弾みたいに カタパルト射出やらイアンに投げ飛ばされるものとばかり
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