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リリーナ

「ちょっといいかな。聞きたいことがあるんだけど」


「はい、なんでしょうか。何なりとお聞きください」


「君、名前は? どこに住んでるの? ちょっといろいろ教えてほしいんだけど」


「あ、あの、お客様、困ります……」


「いや、ほんと、ちょっと聞きたいことがあるだけだから。別に変なつもりで聞いているんじゃないから大丈夫だよ」


「あ、あう……」


「アルス、貴様新年そうそういいご身分だな。まだ子供のくせに早速女を口説いているのか」


 俺が宴の間で給仕をしている人物へと近寄っていき、話しかけているときだった。

 後ろから近づいてきて、フォンターナ家当主であり今回の宴の主役であるカルロスが声をかけてきた。

 なにやら変なことを言ってきている。


「カルロス様、違いますよ。別に口説いているわけではありません。ちょっと話がしてみたかっただけです」


「よく言う。他の騎士たちには話しかけもせず、給仕をしている女に声を掛けるとは恐れ入ったよ。英雄、色を好むというやつか」


「だから違いますって。別に彼女が女性だから声をかけたわけではありません。気になることがあったからってだけですよ」


「ふむ、よほどリリーナのことが気に入ったようだな。よし、リリーナよ。アルスを別室に案内してやれ。ついでに話し相手にもなってやるんだな」


「あ、あの、カルロス様。わ、わたしは、その……」


「お前もいつも本ばかり読んでいるな。いい機会だ。しっかりと客人をもてなすんだな」


「は、はい。それではアルス様、こちらへ」


 うーむ。

 俺は単に頭に魔力を集中させていたのを見て声をかけただけだったのだが。

 カルロスが変に気を利かせてくれたようだ。

 そう、俺の眼に止まった人物というのは女性だったのだ。

 名前はリリーナというらしい。

 みた感じ15〜16歳といったところだろうか。

 俺はそのリリーナに案内されて別の部屋へと行くことになったのだった。




 ※ ※ ※




「リリーナはカルロス様とどういう関係なの? 結構、カルロス様は君のことを気にかけていたみたいだけど」


「はい。わたしはカルロス様と血がつながっているのです」


「え、姉弟ってことなの? そのわりには他人行儀だったけど……」


「カルロス様は先代の当主様と奥様との間にお生まれになったお方ですが、私の母はこの館でメイドをしていたのでございます」


「ああ、なるほど。母親が違うのか。そう言われるとよく見るとちょっと似てるね。髪の毛の色とかそっくりだ」


 どうやら、リリーナはカルロスとの異母兄弟というやつらしい。

 どことなく似ている気がする。

 だが、野心に燃えてギラギラしている雰囲気のあるカルロスと違って、リリーナはおとなしい雰囲気があるため言われるまではっきりとはわからなかった。

 しかし、改めてよくみてみるとちょっとみないレベルの美人さんだ。

 カルロスも結構な美男子なのだが、おそらく先代もそうだったのだろう。

 その先代が目をつけたメイドさんとのハイブリッドであるリリーナがきれいだというのはある意味で当然なのかもしれない。


「でも、なんで当主と血のつながっているリリーナが給仕なんてしていたの?」


「ええ、それは割とよくある話です。貴族や騎士の家に生まれた女性はお客様をもてなすものです。幼い頃から行儀見習として給仕をすることもあるのですよ」


「うん? 別にリリーナは幼いってことないでしょ? 実はもしかして俺より年下って話だったりするの?」


「ち、違います。私はその、今まであまりこういったことをせずにいて……。本ばかり読んで生活していたので、それを見かねたカルロス様が今年は新年の祝いでお客様をもてなすようにとおっしゃられたのです」


「ってことは、今年になってようやく行儀見習を始めたってことか」


「そ、そうです。も、もういいでしょう、私のことは。それより、なにかお聞きになりたいことがあったのではないのですか?」


「ああ、そうだった。実は宴の間にいる人を観察していたんだけどさ。その中で君が他の人とは違っていたから気になってね」


「私が他の人とですか? もしかして、なにか粗相をしていたのでしょうか」


「いや、違うよ。俺はあそこにいた人の魔力を観察していたんだよ。そしたら、君を見つけてね。リリーナは魔力をすべて頭に集中させているでしょ。それって誰かに習ったの?」


「ま、魔力をですか? さあ、特に習ったわけでもなく、むしろ、今まで気にしたことがありませんけれど……」


 俺の質問に答えるリリーナ。

 別に嘘をついているような素振りもなく、素直に聞かれたことに答えてくれている。

 ということは、本当に無意識にやっているのだろうか。

 頭に魔力を集中させる、しかも、他の人よりも魔力の質もいい。

 俺の経験上、魔力を肉体の一部に集めると、その部位の機能を大きく向上させる事ができる。

 バイト兄は全身に魔力を満たして肉体を強化することができるが、バルガスは皮膚表面に魔力を集めて防御力を大きく底上げする事ができる。

 それと同じく、頭に集中させると記憶力や判断力、思考能力が大きく跳ね上がる。

 俺が使う【記憶保存】もそれの応用だ。


 リリーナもそれと同じことをしているということになる。

 だが、俺が気になったのはその魔力の質が非常によく見えるからだった。

 宴の間にいた騎士たちは魔力量が多くとも、質は希薄なものもいた。

 戦場に出て経験を積んだものはそれ相応に魔力の質もよい人がいる。

 しかし、今までろくに行儀見習もしていなかったというリリーナの魔力はそれらの騎士たちよりも良かったのだ。

 ある意味、これも才能なのかもしれない。

 俺はますます彼女に興味を持ち、いろいろと話を聞いていったのだった。

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