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お金の循環

「やっぱ魔石を作れるってのは偉大だな」


 イクセル平地での戦い。

 そこで、オリエント・パージ軍とぺリア軍が対峙してから早くも数日が経過していた。

 その間、ずっと俺は本陣から指示を出し続けていた。

 各部隊に命じて要所となる場所に【壁建築】を使って自陣営の陣地としていく。

 その結果、いろいろと分かったこともある。


 まず、一番重要なのはやはりどの地点を抑えるべきかというところだろう。

 そのために、各部隊をうまく使っていく必要がある。

 が、そのなかの重要な要素として魔力量があった。


 【壁建築】は魔力を使って一瞬で壁を作り出すことができる魔法だ。

 アルス兄さんが作り上げたこのレンガの壁は本当にすごい。

 分厚く、魔物である大猪の突進すらも止められるのだから。

 ただ、この魔法は呪文を唱えるだけで壁を作ることができるとはいえ、けっして万能というわけでもなかった。


 というのも、魔力の消費量というものがあるからだ。

 アルス兄さんが作ったほかの魔法では、たとえば【身体強化】や【整地】などはもう少し一度の魔法行使で求められる魔力は少ないのだ。

 だが、【壁建築】はそれなりに魔力を消費する。

 俺なんかだと何枚もの壁を続けて作り出しても問題ないくらいの量ではあるのだけれど、ごく普通の一般人だと一枚も出せないこともあるのだ。


 魔法というのは名を授かるだけで使えるようになる。

 が、たとえ名付けをしてもらっても魔法を使えないということはよくある話だ。

 魔法を一回発動する際に必要な魔力量にその人の総魔力量が満たない場合には、絶対に魔法を使うことができない。

 この【壁建築】で言えば、なんの変哲もない一般人では発動できない人のほうが多い魔法なのだ。


 では、そんな魔法をオリエント軍の兵はみんな使えるのかというと、だいたいは使えるようになっている。

 それは、訓練の効果もあるかもしれないが、一番は【いただきます】のおかげではないだろうか。

 【いただきます】の魔法を使うと、使用者の肉体の中の内臓に適切に魔力を集めて、効率的に食べたものから魔力を取り込むことができる。

 なにも考えずに普通に生活しているだけだと、そんなふうに魔力を上手く使うことなんてないだろうし、日ごろから【いただきます】を使っているとその効果はばかにできない差になってくる。

 というわけで、エルビスがオリエント兵に徹底させていたおかげで、だいたいの兵は【壁建築】くらいなら使えるようになっていたというわけだ。


 けれど、それでも魔力量というものには限りがあった。

 【壁建築】を使えるだけの魔力はあるものの、何度も繰り返し使うには魔力が少なすぎるという者たちだ。

 これについてはそこそこいる。

 名付けをして、部隊の指揮を執る者に魔力が集中するようにしたこともあってか、一番下の連中はあまり壁を作り出すことができなかったのだ。


 しかし、それでもこのイクセル平地ではオリエント軍が多くの壁をたてていた。

 それは、事前に魔力を備蓄していたことが奏功した。

 オリバのおかげとも言えるかもしれない。


 俺が血を与えたおかげで、オリバは【炎雷矢】という魔術を使えるようになっていた。

 しかし、それは死と隣り合わせの危険な方法を用いる必要があり、その死を回避するために魔力が必要となった。

 そこで、みんなが協力して魔力を集めたのだ。

 魔石に魔力を注入するという方法で。


 実はそれから、オリエント兵の多くの者たちも自主的に魔石に魔力を貯めるようになっていたのだ。

 【炎雷矢】を魔法にしようとしているオリバに魔石を渡すためだったのか、あるいは次は自分が魔術を与えられるかもしれないと思ったのか。

 それとも単純に魔力を貯めると便利だと思ったのか。

 それは分からない。


 が、このイクセル平地に向かうまでの途上でオリエント兵の多くの者たちが人それぞれとはいえ、魔石に魔力を集めていた。

 暇さえあれば魔石を手にしながら【魔力注入】というだけでいいのだから、手間はそれほどかからない。

 いかに色の濃い魔石を持っているかを競い合うかのように魔力を蓄えていた。


 これがよかったようだ。

 前線に出た兵が数百メートルに及ぶ壁を作り上げる。

 いや、それを何か所もの場所でやっているので、総距離はものすごいことになっているだろう。

 それだけの魔力が足りるかどうかは人数にもよるだろうけれど、なかなかに難しいはずだった。

 だが、それがどの部隊もできてしまった。

 魔石に魔力をため込むことで、明らかにぺリア国よりも壁を作り出す量が多かった。


 これは意外とお金になるかもしれない。

 というよりも、お金を動かせるものになるかもしれない。

 もともと、魔石というものは金になる。

 本来で言えば、アルス兄さんの魔法が無ければ魔石なんて簡単には手に入らないものなのだから。

 迷宮などのごく限られた環境下でしか魔石は手に入らないのだ。

 そのため、【魔石生成】で作り出した魔石であっても、今も商人たちには取引されている。


 だが、そこに大きな付加価値をつけられるかもしれない。

 【魔石生成】で生み出したばかりの魔石ではなく、魔力を込めた魔石。

 魔石をため込むごとに薄い青色からだんだんと色が濃くなり、最終的には黒になる。

 この魔石のいいところは一目で魔力が入っているかどうかがわかるという点だ。


 つまり、魔力が大量に入った魔石を買い取るというのはどうだろうか。

 この色合いの魔石はいくら、というふうに買い始めたら新しい商品として注目されるかもしれない。

 というか、絶対になるだろう。

 なにせ、呪文が使えるのなら元手がただで魔石を手にする機会はあるのだから。


 そうして、魔力をため込んだ魔石は戦場でも使える戦略物資にもなるが、ほかにも目的がある。

 お金の循環だ。

 オリエント魔導組合は魔道具作りでかなりの金を稼いでいる。

 それ自体はいいのだけれど、ため込みすぎているという問題点もあった。

 稼いだ分のお金を使って誰かから商品を買わないと困ることになる。

 その使い道として魔石はいいかもしれない。

 誰もがお金を手にする機会を得られるし、たとえば農民であっても天候に左右されずに手にすることができる収入源になるかもしれない。


 そして、できれば上手くお金が循環することで多くの人が生活必需品などを手にしやすい状況を作れないだろうか。

 戦場で壁を作りながら、俺はそんなことを考えていたのだった。

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