パージ軍との行動
「とはいえ、やっぱり矢面に立つのは男の仕事だろうな。パージ軍の女性兵はなるべく後方で働くように要請を出しておこう。志願者にはオリエント軍の衛生兵部隊と行動をともにできるように手配しておいてくれないか、キク?」
「分かりました。もともと自分の隊の役目は輸送とかですからね。今回は【にゃんにゃん】の効果を確かめるために前線に出る予定ですけど、そっちをおろそかにもできないですし、手を借りることにしましょう」
女性兵の多いパージ街を見て、キクと話し合う。
獣化の魔法を使えば確かに男女関係なく軍事的な行動をできるようになるかもしれない。
が、それでも、できるだけ武器を持って戦うのは男性兵になるように手配しておいた。
こちらがそう言うと、パージ軍のほうも特にこだわりなく受け入れてくれている。
多分、そう言ってくるのを待っていた面もあるのだろう。
だって、女の人がいなくなったら、パージ街も大変だろうしな。
いくら街を守るために女性も立ち上がって戦場に出る気になっているとはいえ、そこで女性が大量に戦死でもしようものなら街としての未来は暗いものになってしまうからだ。
街として発展していくためには子どもをたくさん増やしていかないといけない。
そんなときに重要なのはやはり女の人だろう。
なので、なるべく戦死の可能性の少ない輸送や衛生兵の役割を担ってもらうことになった。
移動するパージ軍から数百人くらいの女性兵がオリエント軍に混じって衛生兵としての基本的な仕事の手ほどきを受ける。
何気にこの衛生兵という概念も東方にはない。
傷の手当などを負傷兵にするのはその場にいる者ができるだけやってやる、というくらいの認識で、その人が正しい医療知識を持っているわけではない。
よくわからない民間療法として、なんの効果があるか、あるいは害があるか分からない治療法をする可能性もある。
そういう危険性をあらかじめ排除して、ごく一般的で普遍的、かつ簡単な治療法を衛生兵は身に着けている。
これだけでも、軍の負傷者の生存率は大きく変わる。
その話を聞いて、パージ軍の女性兵たちは衛生兵としての役割の重要さにすぐに理解してくれたようだ。
これは、意外と男だとそうはならないことも多い。
弱いから怪我をしたんだ、とか、我慢していれば治る、みたいな根性論や精神論を持ち出す奴もいるからな。
怪我をしたら正しい手当てをする必要性は、母親にもなる女性のほうが馴染みやすいのかもしれない。
ただ、それ以上、パージ軍とオリエント軍が混ざりあうことはなかった。
この場ではオリエント軍のほうが上位者ではあるのだけれど、パージ軍は別にオリエント軍の配下の軍の一つというわけではない。
対等、とはいえないが、独立した組織ではある。
なので、この場にはオリエント軍とパージ軍という二つの軍が存在し、その二つでぺリア国の軍に当たることとなる。
「オリエント国国防長官であり護民官であるアルフォンス・バルカだ。改めてよろしく」
「はっ。私はパージ軍の指揮を執るヘンドリクセンです。こちらこそよろしくお願いします、バルカ殿」
「ヘンドリクセン殿にこちらの持つ情報を伝えようか。現在、ぺリア国はすでに軍を動かし始めた。壁を使っての籠城などはするつもりがないみたいで、この先にある平地で野戦をしたがっているみたいだ。それについてどう思うか意見を聞かせてほしい」
「はい。おそらくは短期決戦を望んでいるのでしょう。ぺリア国は軍を動かしてはいるものの、多分長期間は難しいのではないかと考えられます」
本来ならば、パージ街を出る前に話し合っておくべき軍議。
それを軍を動かしながらしている。
パージ軍にとってはあわただしいことこの上ないはずだが、思った以上に軍の動きに乱れが出たりせずに動けているように見える。
それはこのヘンドリクセンという青年がしっかりしているからではないだろうか。
傀儡政権として作られたパージ街の組織で、軍部担当として頭角を現している人らしい。
もともとのパージ街では名家のパージ家が軍を動かしていたために、そのときは下っ端もいいところだったようだ。
だが、力のあるパージ家という重しがなくなったことで自由度が増したからか、それまでは知られていなかった隠された才能が花開いたのだという。
軍に女性を登用するという案もこの人らしく、主に治安維持で見事な働きをしていると聞かされた。
ただ、街の治安と戦場では軍の働き方は全然違うはずだ。
それでも問題なく動けるのかと思って、適当な情報を与えて意見を聞いたら、すぐに的確な答えが返ってきた。
これから戦うぺリア国の事情もしっかりと調べてあるようだ。
そう、ぺリア国は向こうから軍を動かし始めたにもかかわらず、そんなに長期間は動けなさそうだったのだ。
その理由は最近上がっている食糧費にあった。
食べ物の値段が上がっているので、それを大量消費する軍を長い時間維持し続けることが難しいのだ。
むしろ、だからこそ軍を動かしているのかもしれない。
相手から食料を奪い、魔道具などもぶんどることができれば大金も手に入る。
そんなことを考えているのだろう。
そこで、短期で勝負を決めるために野戦をしようという意志がぺリア国からは見られた。
その前提条件をお互いに共有しつつ、どう戦っていくか、俺はヘンドリクセンと話し合ったのだった。
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