新部隊
「……こ、こんなことならミーにはちゃんと魔法の名前を決めさせておけばよかった」
「そうだぞ、キク。お前の管理不行き届きだ。責任をもって【にゃんにゃん】部隊の指揮官となれ」
「やめてくださいよ、アルフォンス様。そんな名称の部隊名にしないでください、お願いします」
ミーティアが開発した新たな魔法【にゃんにゃん】。
それを覚えた者だけで構成された新部隊が誕生した。
その名も【にゃんにゃん】部隊だ。
猫化ができる魔法で、この魔法は身体能力も普通の人以上になることが分かった。
そのため、魔法の効果だけを説明して募集したところ、名付けてほしいと希望する者はそれなりに集まったのだ。
だが、呪文名を聞いてちょっとためらう者も多かった。
今回の戦いに投入しようと思っていただけに、数が少ないのはいけない。
というわけで、希望者に追加されたのがキクの分隊だった。
本来ならば食料や武器の輸送を担う部隊ではあるのだが、もともとミーティアと一緒に俺のところに身を寄せることになったキクを頭に据えるためでもある。
なんだかんだで、アイに師事したことでキクは隊長として有能だからだ。
ミーティアからキクに【命名】を行い、キクが自分の部隊内の指揮官に名付けを行い、その指揮官たちがさらに自分の部下の兵士へと名付けを行う。
そうして、大きく成長した部隊が【にゃんにゃん】部隊というわけだ。
「で、【うさ耳ピョンピョン】部隊の様子はどうだ?」
「……っく。やっぱり魔法の名前はもっと気にかけておくべきだった。ユーリが使うときはかわいらしいのに、なんで俺たちはこんなに……」
キクとは別に新たな魔法を手に入れて、新部隊をまとめて指揮を執ることになったのはゼンだ。
これも理由は【うさ耳ピョンピョン】という魔法を作ったのが義妹のユーリだったことが関係している。
こちらも、部隊全体に名付けを広げることになった。
ゼンは男くさい連中がかわいらしい呪文を唱えることに異議を申し立てている。
まあ、それはそのうち慣れるんじゃないかな?
すぐに気にならなくなると思う。
「ただ、あれだね。この二つの魔法って使える人が増えてはじめてわかったけど、装備面に問題が出るかも。意外と耳と尻尾が邪魔になるのか」
「あ、それは俺も思いました。猫耳と尻尾があるから鎧どころか服も不便なんですよ、アルフォンス様。お尻に尻尾の穴を開けるのはちょっと抵抗があるんですけど」
「うーん。どうしようか。ゼンはどうだ? 兎の尻尾はそんなに長くないけど、邪魔になるか?」
「なりますね。まん丸い尻尾ですけど、やっぱり普段はなにもないところにぴょこんと出てくるんですからどうしたって邪魔に感じますよ。服はまあ、最悪我慢できても鎧は今までのものだとちょっと合わないかもしれませんね」
「そのへんは要検討だね。職人たちに相談してみようか」
獣化できる魔法の意外な欠点。
それは、身体的特徴が変化するというところにあった。
アトモスの戦士もそうだが、体が変わるというのは思った以上に困ることらしい。
通常の三倍くらいに巨大化するアトモスの戦士はアルス兄さんが鬼鎧を作るまでは基本的に全裸に腰布だけの姿で戦っていたらしいからな。
それと比べればまだましなんだろうけれど、耳の影響で頭にかぶる装備が、尻尾の影響で腰回りの装備がつけられないと二人は主張する。
その辺は変化した肉体をうまく保護できるような新しい装備を作れないか、ガリウスたちにでも相談してみよう。
いや、ミーティアたちにどうしているか聞いたほうが早いかな?
「で、肝心の新部隊のほうはどうなんだ? 新しい魔法を取り入れたことで強くなりそうかな?」
「もちろん、なると思いますよ、アルフォンス団長。【うさ耳ピョンピョン】を使えばかなり足が速くなるので。しかも、思った以上に持久力があるみたいなんです。騎兵ほどではないですけど、速さと体力がつく魔法っていうのは実戦ではかなり使えるんじゃないかと思います」
「なるほどね。【うさ耳ピョンピョン】は体力も上がるのか。【にゃんにゃん】のほうはどうだ、キク?」
「こっちも足は速くなるんですけど、兎よりは短時間かもしれませんね。本当に瞬発性が上がるって感じみたいです。それよりは、平衡感覚の強化が面白いと思いました」
「平衡感覚? 転ばないとか、そういうのだよな?」
「そうです。ピンと張った綱の上を歩いても落ちないんですよ。それと、跳躍力もある程度上がるみたいなんで上手くはしごをかけたらあっという間に壁の上に登れるかもしれないです」
「まじか。それができれば強いな。【壁建築】で作った壁も登りやすくなるってことだもんな」
「はい。攻城戦とかでは役に立てそうです」
呪文名と見た目の問題は多少あるが、二人とも魔法の効果そのものは満足そうだ。
それだけ、獣人の姿をするというのは効果があるのだろう。
特に部隊全体でまとめて運用すれば、今までよりもかなり強くなりそうだ。
ならば、さっそくそれを実戦で確かめてみよう。
そう意気込んで到着した対ぺリア国との前線基地予定のパージ街。
そこにはすでに多くの獣耳が広がっていたのだった。
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