新年の祝い
「あれが噂の農民騎士か」
「本当に子供ではないか。あれにレイモンド殿が負けたなどとは信じられんな」
「聞いたか? 冬の間は貧乏人用のクズ野菜を売り歩いていたそうだぞ」
「なぜ当主様はあのような卑しいものに領地をお与えになられたのだ。領地を得るべき功績のある騎士など他にいくらでもいるだろうに」
「いや、そうバカにはできんぞ。やつはフォンターナ家とは別系統の魔法が使えるようだ。先日の動員時に見たが、みるみるうちに陣地が作られていった。恐ろしいものをみたぞ」
「きっとどこかの貴族の紐付きに違いない。私から当主様には一度ご進言しておかねば」
どうやら俺は結構な注目を集めているらしい。
周りにいて俺を観察している連中は普段見る農民などの一般人ではなかった。
そのすべてが騎士という立場にあり、庶民とは違う特権階級に所属する人間だ。
騎士になるには戦場での働きが必須であり、その点では出自は関係ないと言える。
だが、実際には親が騎士である者のほうが騎士へと取り立てられる可能性が高いらしい。
やはり普通の農民ではまともな武器もなく、日々食べていくだけでも精一杯なのだ。
親が騎士であったほうが英才教育できるという面で大きな違いがあるのだろう。
そんな騎士にとって急に出てきた俺という存在は注目に値するし、目障りでもあるのだろう。
あまりいい雰囲気ではなかった。
だが、それでも不用意に難癖をつけてくるようなやつはいないようだ。
あくまでも遠目に見ているといった感じだろう。
なぜ俺が騎士連中に見つめられることになっているのか。
それは年が明けたからだ。
どうやらこのあたりの貴族の風習でも新年を祝うらしい。
騎士に叙任されたものは年が明けると領主のもとへと挨拶にやってくるのだ。
当然、新参といえども俺もその行事に参加しなければならない。
知らされていた日付にフォンターナの街にあるカルロスの居城へと赴いたのだ。
ちなみに俺は冬の間でもヴァルキリーのおかげで移動することができる。
だが、他の騎士たちはそうもいかない。
なので全員というわけではないが、雪が降りはじめた時期になると領地持ちの騎士はフォンターナの街へと集まってくるのだそうだ。
街の中には貴族街もあり、冬の間はそこに滞在し、新年を祝う。
むしろ自身の領地には代官を置いて街で生活している騎士のほうが多いのかもしれない。
雪が降り積もる中をフォンターナの街にやって来た俺はカルロスの居城へと上がっていく。
外壁のあるフォンターナの街の中心部にある居城は丘の上にあるため、他の建物よりも一段高いところにある。
その造りは俺が作った川北の城のように砦という意味合いよりも、やはり権力者が住まう建物としての意味合いが大きいのだろう。
真っ白な壁に青の屋根と高い塔が接続したような、どちらかというと豪華な造りの大規模な洋館といった感じだった。
内部には広い玄関ホールがあり、騎士の間などがあるようだ。
そこで一時待たされ、名を呼ばれるとカルロスの待つ当主の間へと案内される。
カルロスはきれいな絨毯がしかれた当主の間の奥に、これまた豪華なイスに座っている。
新年を祝いにきた騎士が当主の間へと入るとカルロスの前に整列し、一人ひとり挨拶をしていく。
新参者の俺はその順番は最後だったようで、ひたすら待たされて、長い時間をかけてようやく謁見を終了した。
だが、それで終わりではない。
今度は宴の間へと移動して、立食パーティーが始まったのだった。
そこで改めて俺は他の騎士からあれこれ言われながら観察されることとなったわけである。
「うーむ、アウェー感がすごいな。知り合いがいないのがつらすぎる」
カルロスの居城にやってきてからあまりにも疎外感を感じてしまい、つい独り言を言ってしまった。
バルカの姓を持つものも一般的には騎士と見なされるが、あくまでも俺の配下であり、カルロスから騎士へと叙任されたのは俺だけだ。
そのため、この城の中にまで来たのは俺だけだった。
本当ならここで色んな人と話でもしておいたほうがいいのだろう。
だが、レイモンドと関係のあったであろう騎士も多くいるようで敵意むき出しといったタイプの奴らもいた。
わざわざ話しかけてトラブルを呼び込むこともしたくない。
しょうがないので、俺も騎士たちを観察することで時間を潰そうと考えた。
用意された食事を食べながら騎士たちを見ていく。
当然、ただ見るだけではない。
魔力を眼に集中させて観察していった。
やはりか。
俺はこれまでほとんど知り合うことのなかった騎士たちを見ながらある一定の法則に気がついた。
それは明らかに戦場慣れしていそうな連中のほうが魔力の質がいいというものだった。
魔力の量が多くとも質が低く、俺の瞳には薄い魔力のもやしか見えない連中もいた。
おそらく、そういった連中はかつてレイモンドに従って魔力パスの上位へとあげられたようなやつではないだろうか。
だが、戦場なれしていそうな奴らは魔力の量が少なくとも質がいいようだ。
きっと、戦場で磨き抜かれた経験から自然と質を上げる方法をとっていたのだろう。
それでも俺のほうが魔力の質はいいと思う。
これは結構大きな情報だと思う。
バイト兄に言って、訓練は肉体トレーニングだけではなく魔力トレーニングも付け加えるように言ったほうがいいかもしれない。
後で考えてみよう。
「ん? 何だあいつ」
だが、そんな中に1人だけ異彩を放つ人物がいた。
俺の目に映る魔力が他の騎士とは全く違う。
質が高いというのもあるだろう。
しかし、それ以上に違ったのが魔力の偏在だった。
すらっとした体でとても戦場に出たようなことがあるとは思えない肉体の持ち主。
なんならそいつは騎士ではなかった。
宴の間で開かれている宴会に出される料理を運ぶ給仕として仕事をしている人物。
その人は魔力のすべてが頭だけに集中していたのだった。
「魔力を集中させるとあんなふうに見えるのか。結構違和感があるもんだな」
騎士たちはすべて全身に魔力を纏っており、偏在していないからこそ余計におかしく見えてしまう。
あまりにも他とは違うその人物が気になったので、俺はこの宴会に参加して初めて自分から声をかけにいったのだった。
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