危惧と報告
「そういえば、アトモスの戦士の巨人化って魔法にできないのかな? あれだって、言ってみれば魔術なんだろうし」
「……昔聞いた話では、巨大化する前に祝詞を唱える者もいたらしいな。俺たちは大地の精霊が宿りし偉大なる石によって力を授かる。ゆえに、巨大化する前には必ず大地の精霊が宿りし偉大なる石にたいして祈りをささげていたのだろう」
「じゃあ、その祝詞が呪文化していたかもしれないね」
「どうだろうな。アルフォンスの言うような呪文は短い単語だろう。祝詞の場合はおそらくだが、もっと長い文章のような言葉を連ねていたのだろうからな。まあ、俺はしたことがないからわからんが」
「そっか。まあ、イアンが魔法を作れたら面白いなって思っただけだよ。天空王国にあるアトモスフィアがない限り、これからは東方でアトモスの戦士も生まれないから、巨人化の魔法を作れたらイアンの家系でそれが引き継げるかもしれないって思ったんだ」
「子どもにか。ふむ。考えておこう」
オリバが【炎雷矢】の呪文を作るために頑張っているところを見ながら、イアンと話す。
アトモスの戦士であるイアンならば呪文が作れるのではないだろうかと思ったからだ。
実際のところ、どうなんだろうか。
大地の精霊が宿りし偉大なる石とアトモスの戦士が呼んでいるアトモスフィアは、迷宮核ではないかという話だったはずだ。
その迷宮核によって授けられる巨人化が魔法になるものなんだろうか?
以前、アイから聞いた話で迷宮街と呼ばれる街にいたティアーズ家のことを思い出してしまう。
たしか、昔は貴族だったティアーズ家は騎士家に落ちぶれていたらしい。
それでも、まだ家が代々続いていたおかげで、元貴族として独自の魔法を持っていた。
それは【能力解放】と呼ばれる魔法だったそうだ。
【能力解放】は不思議な魔法だったと聞いている。
迷宮街にある迷宮にごく普通の人間を探索者として入らせて経験を積ませるのだそうだ。
そして、その際には魔力草から作った特殊な薬を探索者に飲ませておいて、迷宮内の魔力を肉体に取り込みやすくしておく。
そうして、活動していった探索者はより魔力の濃い迷宮奥で活動すればするほど魔力を蓄えていった。
そんな一定の深度を探索する探索者にたいして、ティアーズ家は魔法を使った。
【能力解放】を使用すると、その探索者の能力が引き上げられるのだそうだ。
たとえば、肉体的な強さも上がったりもするらしい。
だが、それが狙いではなく、もっとすごいのが能力と呼ばれる力を身に着ける可能性があるという点だ。
たとえば、エルビスの奥さんのリュシカなんかは【能力解放】を受けて【遠見】という能力を手に入れた。
まるで、魔法のように自分の目に魔力を込めるだけでものすごく遠くまで見通すことができるようになるのだそうだ。
そして、不思議なのが全員が同じ能力を手に入れるわけではないということだろう。
つまり、【能力解放】を受けて手に入れることができる能力は個人によって違っているのだ。
この能力を一見すると魔法のような、魔術のようなものと同じように見える。
だが、決定的に違う点があった。
それは、名付けによって継承できないということだ。
かつて、ティアーズ家や、あるいはその寄親ともなっていたパーシバル家などもそうだが、昔から続くいろんな家が、【能力解放】で手に入れた能力を次世代に継承させられないかと研究していたらしい。
そのなかには、最近になってアルス兄さんの作った魔法創造手法のように、能力発動前に能力名を必ず唱えるというものもしていたことがあったと分かってきたらしい。
が、どれも成功しなかったそうだ。
なので、能力として手に入れた力は魔法や魔術とは全く別のものではないかと言われている。
アルス兄さんなんかは別のものとして分類するために、スキルなんて呼んでいたそうだ。
もしかすると、アトモスの戦士の巨人化という技も魔法や魔術とは毛色の違うスキルに近いものなのかもしれない。
それならば、いくらイアンが呪文化しようとしても成功しない可能性もある。
まあ、いいか。
もしも呪文化に成功したら、アトモスの戦士みたいなのが簡単に増えることになるしな。
そんな魔法を何人かが使えるようになって、そいつらが暴れでもしたら大変だ。
新しく呪文を作らせるのもいいけれど、それを使うことができる人はきっちりと制御できるようにしておかないとまずいかもしれない。
少なくとも、他国の手に渡れば大変なことになるしな。
そんなふうに思っているときだった。
その日の晩に、俺は呪文化が成功したという報告を受けたのだった。
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