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実験成功と次の一手

「おはよう。気分はどうだ、オリバ?」


「死んだはずの爺さんにあったような気がします。川の向こうから手を振っている姿がありましたよ」


「そういえば、小国家群の人間は死に際に川の光景を見るとかいう人もいるんだったっけ? まあ、けど大丈夫だろ。オリバは間違いなく生きているよ」


「そうみたいですね。おかげさまで血の入れ替えは成功していると思います。不思議な感覚ですが、今ならば柔魔木の弓でも自分の思い通りに狙い撃てる自信があるので」


「血の記憶がうまく定着したってことだろうね。なら、さっそくだけど試してみる?」


 一晩経ってこんこんと寝続けていたオリバが起きたと報告を受けた。

 その寝起き姿を見にいったところ、ぼーっとしたオリバの姿を発見した。

 どうやら、ノルンによる血の入れ替えで死の淵に立たされていたらしい。

 死んだはずの者が手を振って死の世界へと呼んでいたのかもしれないけれど、魔石のおかげか無事に現世に戻ってきたのだと言っていた。

 よくわからないことを言うものだと思いつつ、その話を聞いていた。


 しばらくすると、オリバも落ち着いてきたようなので、さっそく状態を確認する。

 本人としてはしっかりと血の記憶を手に入れて弓を使える実感があるのだという。

 俺の時と同じだな。

 流星の血を手に入れた時、いつのまにか自然と弓の上手な使い方が頭の中にあったからだ。


 ただ、それが本当なのかをしっかりと確かめておく必要があるだろう。

 それはオリバも同じ考えだったようだ。

 本当に頭の中にある弓への知識が間違いないのかどうかを実践して試してみたいと思っていたという。

 俺が試してみるかと提案したら、すぐに頷いて外に出ることとなった。


 ぺリア国からの防衛のために、ひとまずパージ街を目指して移動している途中のなんの変哲もない道。

 その道から少し離れた平地で弓の試しうちをすることになった。

 もはや干からびたあの姿は何かの間違いだったのではないかと思うほど、健康そのものの体になったオリバに柔魔木の弓を手渡す。

 それを使って、ひとまずは普通に弓を射ることにしたようだ。


 柔魔木の弓を手にして、ゆっくりと体を動かし、構える。

 その一連の動作ができていた。

 この時点で今までとは完全に違う。

 柔魔木は魔力を通さなければ弦を引き絞るのも難しいほどに硬い。

 なので、一般人では力だけでは絶対に引くこともできないのだ。


 かといって、魔力を通しすぎるのもよくはない。

 柔魔木に魔力を通すことで柔軟性が現れるのだが、どのくらいの魔力を通してどの程度の柔らかさを出すかどうかは微妙な調整が必要だったからだ。

 ただ単に柔らかくしようとばかりに魔力を通しても、今度は狙った硬さがないために弓を引く動作が乱れる。

 何事も適切な量に調整して行う必要があるということだろう。


 その点で言えば、オリバの弓の構えは完璧だった。

 一切のよどみなく、グルーガリアの弓兵と遜色なく弓を射る状態に体を持っていくことに成功している。

 そして、もちろんそれで終わりではない。

 音一つさせないような動作で矢から手を放して、狙いをつけた木に向けて射る。


 命中だ。

 もはや、矢から指を離した瞬間に命中することが分かるというほどの不思議な信頼感を持つくらいの狙い通りのところへと矢が飛んでいき、木へと突き立てられた。


「お見事。弓を射るのは完璧っぽいね」


「ええ。頭で考えたとおりの場所に自然と当てられました。ほとんど無意識に近いくらい自然に狙いをつけられたと思います。これは達人の域でしょうね。ただ、それでも微妙な違和感を感じてはいたのですけど」


「ああ、それはあれだね。オリバは間違いなく弓の達人から血の記憶を手に入れたけど、それはあくまでもその人の体にある記憶だからね。そいつとオリバの体は違うだろう? 肉体の違いによる誤差ってのはあると思うよ。まあ、それすらも無意識に調整はしているんだろうけどね」


「なるほど。納得です。であれば、今の自分の弓の腕は元の血の持ち主には劣るということですね。それに近づけるにはやはり体を鍛える必要があるのかもしれないですね」


「そう思うよ。俺もだんだん力がついてきたら、【流星】の威力が上がったしね。ま、それよりも次は【炎の矢】を頼む。射てみてくれ」


「分かりました。やってみます」


 試射についてオリバと感想を言い合いつつ、すぐに本番についても試してもらうことにした。

 今回の実験ではグルーガリアの弓兵と同等の弓の腕が手に入れられることが目的ではなかったからだ。

 あくまでも、魔術を俺ではない他者が使えるようになるかどうかにある。

 それはもちろんオリバもわかっていたので、すぐに試してみることになった。

 ふたたび柔魔木の弓をかまえて、先ほどまでよりも弓と矢に魔力を注ぐオリバ。

 そして、そこから放たれる矢の先には間違いなく炎があった。

 空を飛ぶ矢には間違いなく風の影響があるはずなのに、全く消えることなく存在し続ける炎が灯った矢が狙いとなった木へと命中する。


「いいね。実験成功だ。おめでとう、オリバ」


「ありがとうございます。……凄いですね。これが魔術ですか。魔力を使えば、こんなこともできるんですね」


「ああ。魔力の可能性は無限大だからね。じゃ、オリバにはこれからその魔術を呪文化してもらおうかな。これからは毎日、『炎の矢』って呟きながら、その魔術を使ってみてよ」


「……え? なんですか、それ? 聞いていないのですけど?」


「今言ったからね。実験は第二段階に進行したってことだよ。頑張ってね」


 手に入れた魔術の呪文化。

 今回の実験はひとまずの成功を見せたので、その次の一手を繰り出すことになった。

 一回使うだけで体力を大量消費する【流星】は呪文化するには向かない。

 ただ、それと比べれば威力は低いが消費魔力量も少なめな【炎の矢】であれば、呪文化できる可能性はある。

 実際にやろうとすると、毎日、一日中呟きながら魔術を使う日々が数か月から数年は続くことになるので、俺が自分でやるつもりは一切ないが、ほかの人が代わりにやってくれるのであれば助かるからな。

 他者へと魔術を渡すという行為には、最初からもう一つの狙いもあったというわけだ。


 こうして、呪文化のやり方について聞かされたオリバには、業務命令として戦時中以外には常に呪文化すべく魔術を使うように命じられることとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これがあればメダリストから血を貰えば金メダル間違いなし。
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