血の総入れ替え実験
「よし。じゃあ始めるぞ」
「うん。よろしくね、ノルン。オリバも頑張って」
「が、頑張ってと言われてもどうすればいいんでしょうか? なにか自分にできることがあるんでしょうか?」
「さあ? できることって言ったら、気合いを入れて【慈愛の炎】を使うことくらいじゃないかな? できる限りの魔力を使ってやれば、その分だけ【慈愛の炎】の回復力は高められるはずだからね」
「た、確かにそうですね。……ちょっと待ってください、アルフォンス殿。手元に魔石を置いておこうと思います」
「あ、それいいかも。なるべく魔力のこもった魔石を握りしめとこうか。俺も協力するよ」
「助かります」
一日の移動を終えて、夜のことだ。
オリバにたいして血の入れ替えを行うことになった。
今まさにぺリア国との戦いに備えて行動中だというのに、指揮系統に深く関わっているオリバの身に危険をさらすような実験をしてもいいのかというのも多少ある。
が、こういうのはさっさとしておいたほうがいいだろう。
成功すれば、オリバは間違いなく今までよりも強くなるんだしな。
戦う前に強くなっておいて損はないだろう。
そう考えて、さっそく血の入れ替えをすることが決まり、今は寝台の上でオリバが横になっている。
その寝台の前には俺の血でできた真っ赤な鎧であるノルンがいる。
今からノルンがオリバの血をすべて抜き取り、そして新たな力を内包する別人の血液をその身に注入していくというところで、オリバが真っ青な顔をしてあれこれ言い始めた。
さすがにやっぱり不安があるらしい。
気持ちがわからないわけではない。
俺だってはじめてノルンと自分の血を同化するという時には緊張もしたからな。
まあ、すぐに決めて実行したからオリバほどの緊張ではないかもしれないけれど。
ただ、その代わりオリバはいい考えが浮かんだらしい。
手元に魔石を置いておこうと言い出した。
ハンナが作った魔法である【慈愛の炎】は体の中に炎を灯すというものだ。
そして、その炎に魔力を注ぐほどに身体能力を強化することができる。
なので、魔力を注ぐ量を増やせば増やすほど強化が可能なのだ。
それは回復力も例外ではない。
なので、血の入れ替えを行っている間はひたすら炎に魔力を注ぐといいのだが、その魔力に魔石の魔力も使うことになった。
【魔石生成】で作られる魔石は淡い色をしている。
作ったばかりの魔石にはあんまり魔力が入っていない。
だが、魔石に魔力を込めるほど淡い青色が濃い青色に変化してくる。
もともと、不死者となった骨だけの姿の竜から手に入れた魔石をもとにアルス兄さんは【魔石生成】という呪文を作ったらしいので、竜と同等の魔力量を魔石に込めれば最終的には黒色になるらしい。
が、そこまで魔力を込めるのはさすがに難しいだろう。
なるべく濃い青になるように俺も魔石に魔力を込めてやった。
それをみて、ほかの兵たちも魔石へと魔力を込めてくれることになった。
何人かが「俺もやりますよ」と言いながら魔石に魔力を込めていき、それを見たほかの奴も「なら自分も」といって後に続いたのだ。
なんだかんだでオリバはオリエント兵に慕われているのだろう。
次から次へと多くの人の魔力が一個の魔石に集まっていき、かなり濃い色の大量に魔力がこもった魔石が出来上がった。
寝台の上で横になったオリバがその魔石をまるで宝物のように両手で握りしめている。
これなら大丈夫かな?
けれど、この血の入れ替えが成功したとして、それはたくさんの魔力があったからだという話になったりしないだろうか。
実験としてみるだけならば、あんな魔石はないほうがいいような気もするが、さすがにあれを取り上げることはできないか。
まあ、いずれほかにも魔術を手に入れる機会はあるだろうし、これから何度も実験はできるだろう。
とりあえずは、今回は潤沢な魔力を【慈愛の炎】に注ぐことで成功率が上がるかもしれないとだけ分かっていればいいか。
緊張するオリバとそれを見守るたくさんのオリエント兵。
周囲の緊張感も高まってきた中、俺は逆にある程度冷静な目で見ていた。
それはノルンも同じで、特段気にするようなこともなく、準備が整ったと判断したらすぐに始めてしまった。
バルカ教会で働き、ハンナから【命名】されて【慈愛の炎】を使える者がオリバへと魔法をかける。
そうしてオリバの体にともった炎に、オリバは全力で魔力を注いだ。
その瞬間、鮮血兵ノルンはオリバの胸に手を当てる。
ドクン。
まるでそんな音が聞こえてくるかのように、オリバの体が拍動した。
そして、みるみるうちにオリバの体に変化が現れる。
服の下から見えていた皮膚。
全身の肌から赤みが消え、そして、しわしわにしなびていく。
どうやら一気に血液が抜き取られてしまったらしい。
血を抜いたらこんなふうになるのかと俺も驚いてしまった。
なんて言えばいいのだろうか。
強いて言えば干物だろうか。
全身の水分が無くなったことで、オリバの干物が出来上がった。
見た目だけならどう考えても生きているようには見えないだろう。
ただ、唯一死んではいなさそうだと思えるのは、カサカサになっても必死に両手で魔石を握りしめて、魔力を胸の中の炎に注いでいるのが分かったからだ。
あたりがシンと静まり返る。
もうこれ以上、抜き取る血液が無くなったのだろうか。
なので、次は入れるだけだ。
まるで干からびた物が一気に水を吸い取って元に戻るかのような変化が現れ始めた。
しわしわになって小さくなったオリバの体が戻っていく。
表面のカサカサ具合はしばらくそのままだったのだが、それもだんだんと元に戻りつつあった。
回復力を強化しているからかな?
結局、この実験に要した時間というのはそう長いものではなかった。
ただ、一瞬で終わりというわけでもない。
一気に血を抜き、そして戻すという作業は短いけれど、やはり何の準備もなしでは生き残っても体に障害が出てしまうんじゃないだろうかと思うくらいの時間はかかっていた。
そのためか、オリバは起きない。
その日はオリバは目を覚ますことなく、こんこんと寝続けたのだった。
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