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本当の狙い

「ってわけで、血の入れ替えをやってみないか?」


「……私がですか、アルフォンス殿? 炎の矢というのができるようになるというのは確かに魅力ですが、話を聞く限り命の危険性がありそうなんですが」


「それは否定しないかな。【慈愛の炎】があるといっても、あれの回復力って自然治癒力を高めるくらいなものだからね。ただ、それでも十分成功率はあるみたいだよ」


「……グルーガリアの弓兵による弓の知識と秘奥義が手に入る代償というわけですね。確かに、何の努力もせずにそれらの力が手に入れられるのであれば、危険は付き物ではあるかもしれません。すみません。少し考えさせてください」


「うん。いいよ。ただ、別にほかにも適合する可能性のある奴はいるからね。なるべく早く返事をくれると助かるよ、オリバ」


 血を吸うことで手に入れた魔術。

 それを他人に渡してしまおうということで、とりあえずは【炎の矢】を手放そうと考えた。

 今までに手に入れた魔術として【流星】や【黒死蝶】などがあるけれど、あれは俺も使うしな。

 多分、今後も使う機会はいくらでもあるだろう。

 なので、それらは人に渡す気はなかった。


 ただ、今回手に入れた【炎の矢】などであれば、現時点ではあまり馴染みもないので今ならば手放しても惜しくはない。

 というわけで、【炎の矢】が適合する者として声をかけたのがオリバだ。


 もともと、オリエント国でバナージの下について働いていたオリバという男性。

 彼も今はオリエント軍で働いている。

 もともと、軍でも活動していたので、部隊を指揮する隊長格として残っているのだ。

 俺が国防長官として軍に強い影響力を発揮できるようになったとはいえ、こういうふうにもともとオリエント軍にいた人間が指揮系統の中にいたほうがやりやすいというのでいてもらっているのだ。

 多分、本人としては議会での仕事に加わりたかったかもしれないのだけど、それは無視した。


 そんなオリバが実は魔術を覚えられる血の適合者であるとノルンが言ってきたのだ。

 そこで、せっかくなので覚えてみないかと声をかけたというわけだ。

 俺の説明を聞いて、興味を示したものの、危険性もあるということを聞いてちょっとためらうような感じを出すオリバ。

 だが、最終的にはやってみるつもりになったらしい。


 どうも、オリバは自分の力に不足を感じていたらしい。

 もっと強さがほしい。

 以前からそう考えていたそうだ。

 それは、おそらくこの国の人間でもあるからではないだろうか。

 よそ者であるバルカ傭兵団が勢力を増しつつ、いつの間にかその団長である俺が軍の指揮権を得るに至ったが、それを本心からよしと思っていないのだろう。

 できれば、自分たちの力でなんとかしたい。

 けれど、その力が足りていない。


 そんな時に、俺から話を持ち掛けられてしまったというわけだ。

 自分の体にある本来の自分の血をすべて捨て去り、他人の血を入れる。

 そうすることで、新たな力が手に入るかもしれない。

 普通ならば、そんな馬鹿なと笑い飛ばしてしまいそうな話だっただろう。


 だけど、これまでの俺との付き合いで、俺がいきなり冗談を言い始めたわけではないというのが分かったんだと思う。

 いくら何でも、唐突にそんな変な嘘をつくはずがない。

 奇想天外であっても、一考の価値があると判断した。

 なにせ、実際に俺が急に【流星】なんて力を使えるようになった時も、同じ現場にいたのだから。

 その話に自分の命と未来をかけてみるのもありかもしれない、と判断したのだろう。


 ありがたい話だ。

 というのも、俺の中ではこの実験は別に成功しても失敗してもいいからある意味気楽ではあった。

 というのも、俺は別に【炎の矢】が失われてもさほど気にしないからだ。


 では、なぜわざわざ自分の手に入れた魔力を失うことになってまでそんなことをするのかと言えば、まさしく実験だ。

 もしも、この血の入れ替えが成立するなら、俺はいずれ血を吸うことになるだろう人がいるからだ。

 それは、ハンナの血だ。


 バルカ教会で働いてくれているハンナ。

 彼女は獣人の子孫の血が流れているミーティアの姉であり、そして、【慈愛の炎】などを使えるようになった魔法使いだ。

 そして、そんなハンナはアトモスの戦士イアンと結婚した人でもある。

 その結婚の際にはバルカ教会にある吸氷石の像の下に隠された継承の儀の魔法陣で、イアンとの子どもが生まれたら継承権を持つようにもしている。


 けれど、これには重大な欠点があった。

 それは、ハンナが女性であるという点だ。

 継承の儀を執り行った男女から生まれた子どもには継承権が備わる。

 そして、その継承権を持つ子は親が亡くなったり、生前に継承する儀式を行うことで、親の持つ力をそのまま引き継ぐこともできる。

 が、それはあくまでも男性のみに限られるという特徴があったのだ。

 魔法を継承することができるのは男だけであり、継承させられるのも男だけなのだ。


 つまり、なにが言いたいのかというと、ハンナが持つ【慈愛の炎】はハンナとイアンの間に子どもが生まれても継承されないということだ。

 これは間違いないことらしい。

 というか、それが原因で生活魔法やらを作った神様はいろいろあったらしいからな。


 だけど、それだと【慈愛の炎】がハンナ一代で失われてしまうことになる。

 それはさすがにもったいないだろう。

 あれだけ、ハンナが苦労して作り出した魔法なんだ。

 せめて誰かに引き継げないだろうかと思っていた。

 それが、この血の入れ替えでできるようになるかもしれない。


 流星の血をすべて奪ったとき、俺はそれまで使えなかったアルス兄さん由来の魔法も使えるようになった。

 それまでは、俺は名付け親であるリリーナ様から授かった生活魔法のみしか魔法を使えなかったのだ。

 なのに、それ以降、【壁建築】などの魔法が使えるようになっている。

 ということは、血の記憶というのは魔術だけでなく魔法をも手に入れられるということなんだろう。


 もしも、そうならばいずれは失われてしまうハンナの魔法を保存し、別の者に移せるかもしれない。

 そのためにも、オリバにはぜひ生き残って魔術を手に入れてもらいたい。

 もしここで失敗すれば、ほかに命を懸けて血の入れ替えを試してくれる者がいなくなってしまうかもしれないからな。

 そんな俺の想いは一切表に出さずに、オリバにたいして【炎の矢】の記憶が含まれた血を入れ替えることとなったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] えっ!?慈愛の炎を継承させるために結婚させたのに今更ちゃぶ台返しを!?
[一言] カインなら・・・カインなら時間が在れば その手の「継承」の問題もなんとかしてくれる(無茶振り
[良い点] 女性に継承出来ないのは、継承の儀の性格上 仕方ない部分も有るのだろう。
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