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逆転の発想

「小国家群ってのは不思議なところだな。捕虜外交ってのは本当に意味がよくわからない風習だし、変わっているよね」


「そうか? 俺からすれば天空王国のほうがよほど変わっている国に思える」


 グルーガリア国との戦いが終わり、移動を開始した。

 その途中で、一緒に行動しているイアンと話していた。

 このあたりでの風習について、改めて俺が不思議だと感じたというと、それよりも天空王国のほうが変わっていると言ってくる。

 それを言われるとそうかもしれない。

 そもそも、あそこはフォンターナ連合王国内でも特に異質な国のはずだし。


「でもさ、思ったんだけど、もしかしてこの辺に住んでいる奴らの中にもアトモスの戦士の血を持った奴っているんじゃないのか?」


「どうしてそう思う?」


「だってそうでしょ。アトモスの戦士は傭兵の一族で、生まれた土地を出てあちこちを転戦しているんだから。そこで、子どもを作ることもあるんじゃないの? 小国家群なら魔力量の多いアトモスの戦士と子どもを作らせてほしいってお金をくれたりもするんじゃないのかなって思ったんだけど」


 雑談ついでに気になったことを聞いた。

 アトモスの戦士の一族の血が流れている者がいたりはしないのだろうか、と。

 あり得ないことではないと思う。

 強い人を相手に子を産みたいと思うのはその家にとっても重要な考えになるんじゃないだろうか。

 だったら、お金を払うからアトモスの戦士がその相手になってほしいと言われることもありそうだ。

 というか、なんだったら、普通に傭兵として戦うよりもそっちのほうが金になったりしないんだろうか。


「なくはない。だが、そうして生まれた幼子がいたとしても、そいつはアトモスの戦士にはなれんからな。俺たちの一族はあくまでも大地の精霊が宿りし偉大なる石によって認められ、力を授かった者こそがその一員として数えられる。血の一部が流れているだけではアトモスの戦士とはなんの関係もないということだ」


「そうなの? でも、たとえばだけど小国家群で生まれた子がアトモスの里に行ってアトモスフィアの前で力を授かることもあるんじゃないの? いや、今はもうアトモスフィアがないんだけどさ」


「あっても無理だろうな。ここらで生まれた者にアトモスの戦士になれる力があるとは思えんからな」


 どうやら、いないわけではないようだ。

 こっちで傭兵として活動していたアトモスの戦士がこの地の人間との間に子どもを作ることはなくはないらしい。

 が、いままであまりそういった者から新しいアトモスの戦士が誕生したことはないようだ。


 まあ、それはしょうがないのかな?

 聞いた話だと、アトモスの里で生まれた子どもたちは小さいころから一緒にまとめられて鍛えられるそうだ。

 その修業時代の厳しさはかなりのものらしい。

 そして、その修業で命を落とす子もいる上に、最後には大地の精霊が宿りし偉大なる石と呼んでいるアトモスフィアの前で決闘をする。

 修行を終えた子どもたちが命を懸けて決闘を行い、どちらかが勝利するまでそれは続けられる。

 そして、勝ったほうだけが巨人になる力が得られるという話を聞いたことがあった。


 そんな恐ろしいほどの条件をくぐり抜け、ようやく初めてアトモスの戦士であると名乗ることが許され、一族として数えられるようになるのだ。

 ほかの地で生まれただけの子どもがその決闘に参加しても到底勝てるはずもなく、そうなれば当然アトモスの戦士になりようがないのか。

 だから、イアンからすれば小国家群で生まれた子なんかはたとえ血が混じっていようとも関係ないということなのだろう。


 ただ、それでもアトモスの戦士との間に子どもを授かりたいと思っている人は多いと思う。

 だって、それだけでも魔力量の多い子どもが生まれる可能性があるのだから。

 そして、そんな子どもたちがもしかしたらいるのかもしれない。


「なにか気になるのか?」


「いや、気になるって程じゃないんだけどね。ほら、今回の戦いで新しい力を手に入れたんだ。こういう独自の魔術を持っている奴とかって他にもいるかもしれないなと思ってね。で、それはやっぱり魔力が生まれつき多い奴ほどその可能性があるから、アトモスの戦士との子どもなら変わった力を持っているのがいるのかなってね」


 そう言いながら、俺は魔力を込めて矢を射る。

 ワルキューレに騎乗しながら、手にしていた柔魔木の弓を使ったのだ。

 そこで放たれた矢は【流星】ではない。

 あの高威力の矢ではなく、炎を纏った矢が遠くの地面へと落ちた。


 炎の矢だ。

 グルーガリア軍にいた弓兵の一人から血を吸い取ったことで手に入れた新しい魔術の矢。

 なんの変哲もない矢に炎を追加することができるという効果があった。

 ちなみにその効果は微妙の一言だった。

 炎の矢が命中した場所が一瞬で消し炭になるわけでもなく、ただ燃えているだけの矢だからだ。

 それが当たったら矢による傷とともに火傷にもなるかもしれないけれど、一撃で勝敗を決するほどの威力はない。

 これなら、体力の消耗が激しい【流星】のほうがいろんな場面で使えるからありがたいと思ってしまう。

 せめて、消えない炎とかだったらよかったのに。


「そういえば、アルフォンスは相手から血を奪うとその力を奪えるのか。なるほどな。巨人になりたいのか?」


「それもできたら面白いかもね。だからって、イアンの血がほしいってわけじゃないけどさ」


「……逆はできないのか?」


「え? 逆ってどういうこと?」


「そのままの意味だ。血を奪うことで力を得る。それができるのであれば、その逆の血を与えることで力を授けることはできないのか?」


「……さあ? どうなんだろうね?」


 そういえば、そんなことができるんだろうか?

 今まで気にしたことがなかったな。

 俺が自分の力を高めるために血を求めることはあっても、人に与えようとは思わなかったし。

 だって、魔法だったら名付けすれば授けられるんだから。


 でも、魔術である炎の矢や曲射なんかは違う。

 呪文化していないから【命名】された相手であっても使えるようにはならない。

 もし、他者に力を与えられるなら、そっちのほうが面白そうだ。

 俺はあんまり必要ないけど、ほかの人なら炎の矢がほしいってこともあるだろうし。

 移動中のイアンとの雑談で一度できないか調べてみてもいいかもしれないと、新しい発見に興味を持ったのだった。

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