捕虜外交
「ヘイル・ミディアム殿の返還代金として請求するのは食料や生活必需品にしようと思うのでござるがよろしいでござるな?」
「はい。いいと思いますよ。バナージ殿に任せます」
俺から連絡を受けたバナージが砦へとやってきた。
そして、すでにこちらの話は伝えてあり、それに対する方針も固めているようだ。
捕虜とした弓兵たちをグルーガリアへと返還するための交渉。
その代価として、金銭ではなく物品を求めることにしたようだ。
やはり、今後も値段が上がってくるであろう生活必需品についてバナージも危惧しているらしい。
ほかの国や地域勢力とも魔道具を通して取引するつもりだが、いかんせんオリエント国と距離があるところもある。
輸送が安全に行われるという保証もない。
そのため、より万全を期すために捕虜と交換で必要な物資を手に入れることにしたようだ。
多分、このほうがグルーガリア国も支払いやすいのではないかと思う。
多額の金銭を直接支払うよりはいい。
要求されているのが特別手に入りにくい高額な品というわけではないので、この要求は通りやすいのではないかとバナージが言っていた。
まあ、それは今だけの話で、今後いろんな品物がだんだん値段が上がってしまえばどうなるかはわからないが、それはこちらだけの予想の話だしな。
「それにしても、実際にお金で支払うとなるとかなり大きなお金が動くんですね。これって、下手したら捕虜のやり取りだけで国の運営が出来たりしませんか?」
バナージに説明を受けているときに見せてもらった資料。
そこには、おおよその捕虜返還金額の相場とそれに照らし合わせた時のヘイル・ミディアムについての要求金額などが記載されていた。
人ひとりの値段としてはかなり破格の金額になるのではないかと思う。
いやまあ、魔道具相場の高騰を見ているとあれだけどね。
「アルフォンス殿の言うとおりでござるな。事実、小国家群の中にはそういう国もあるのでござるよ。他国を攻め、そこで手に入れた捕虜を使って金を要求する。国土は小さくともかなりの額を稼いでいる国もあるのでござる」
「へえ。なら、オリエント国もそうしたほうがいいんですかね?」
「それもいいでござるが、アルフォンス殿にはあくまでも国の安全を第一に考えて軍を動かしてもらいたいのでござるよ。国さえ残っていれば、金などいくらでも稼ぐことができるのでござるのだから」
「なるほど。そりゃそうですよね。了解です。なら、さっそく俺は軍を分けてぺリア国に向かいます。後のことは頼みます、バナージ殿」
「承知。アルフォンス殿の勝利は無駄にはしないのでござる。しっかりと良い条件を引き出してくるゆえ、期待していてほしいのでござるよ」
あんまり俺にはなじみがなかったし、オリエント国もしていなかったが、小国家群の中には捕虜外交に力を入れている国もあるらしい。
他国と戦い、勝利し、捕虜を得る。
その捕虜を相手の国に返す条件として多額の金額を要求する。
それを毎年繰り返しているような国もあるのだそうだ。
というか、新しく地域に独立してきた勢力も案外そんなことをしてお金を稼いでいるのかもしれない。
この捕虜外交の面白いところは、お金のかわりに別のもので支払いをすることもあるというところだろうか。
バナージが見せてきた相場の金額を見ると、やはりどうしても動く金額が相当に大きかった。
一度の戦闘で複数人の有力者の捕虜が出れば、本国は支払いを渋るのではないかと思うくらいの金額だったからだ。
だが、そこにはからくりがあるらしい。
もしも、国が金を払えなければ捕虜は数年ほどその地に引き留められて、子どもを作ったりすることがあるらしい。
魔力量の多い人同士の子どもは魔力を多く持って生まれやすいという点に着目してのことなのだろう。
つまり、そこで生まれた子は魔力が多い可能性が高く、しかも、親権は捕虜にはないのだそうだ。
ようするに、捕虜を手に入れたものの相手の国からお金をせしめることができなければ、その代わりにそいつの血筋を手に入れることになるのだそうだ。
子どもが生まれたら捕虜は本国に返還され、子どもは勝利した国で育てられてその国のものとして利用される。
なので、小国家群のなかには逆に自分たちの血筋を売るところもあるのだとか。
飢饉や災害などでどうしても金が必要になったときなどには、出稼ぎ代わりに他国で子どもを作ることもあるのだとか。
そんなにあちこちで血のつながりを作って大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
が、他国で作られた子どもというのは本国での相続権などはないと決まっているようで、あまり問題視されていないのだそうだ。
けれど、血のつながりが利用されるときもある。
それは、小国家群以外から攻められた時だ。
いくつもの都市国家などが独立して存在している小国家群だが、それ以外の外部の国から攻められると一致団結してそれに対抗するということがある。
いつも争い合っているのに、よくそんなときだけ協調路線がとれるなと思っていたが、どうやらそれは先ほどの捕虜外交の影響もあるらしい。
ある意味で、小国家群では有力者たちは誰しもが親戚関係に当たるような間柄なのだ。
常日頃は親戚同士でもめているけれど、よそからちょっかいをかけられたら一族全体でまとまって対処するということなのかもしれない。
改めて独特な土地柄なんだなと思ってしまった。
ただ、その中でもオリエント国は割と独自路線をいっているらしく、捕虜などでほかの血を取り入れたりはしていなかったみたいだ。
なんにしても、バナージは別に捕虜を取ることにはこだわらない感じらしい。
俺も今のところはいちいち捕虜の身柄を丁重に扱ってまで、ほかの国からお金を得る必要もないので積極的にやることもないだろうか。
なにはともあれ、砦に国境警備用の兵を残して、ヘイルの身柄をオリエント国に届けた後、北東へと向かっていったのだった。
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