事前の検証と実戦の差
砦から飛び出したオリエント兵が次々とグルーガリア兵を打ち倒していく。
それを見ながら、俺は戦場を駆け抜けてイアンのもとへと向かっていった。
どうやらイアンはまだ戦っているようだ。
圧倒的な実力を持つアトモスの巨人であるイアンが戦闘に時間がかかるのは珍しいかもしれない。
それだけ相手が強いということなんだろうか。
途中で一体の鮮血兵ノルンから血を回収する。
独立して動くことができる鮮血兵が戦場で倒れていたグルーガリア兵の血を吸って、それと一緒に魔力も取り込んでいた。
その魔力を血と一緒に俺の体内に取り込むことになる。
どれくらいの数から血を吸ったのかはわからないが、さっき黒死蝶を大量に出して消費した魔力量をある程度回復することに成功した。
これはいいな。
戦場での魔力回復の方法の一つとして重宝できるかもしれない。
「アルフォンス様ー、矢が無くなりましたー」
そんな俺のもとにイアンとともにグルーガリア軍に突入した騎兵たちが近づいてきた。
どうやら、魔弓オリエントで使っていた矢が尽きたみたいだ。
そりゃそうか。
どんなに魔弓が使いやすくて威力があるとはいえ、持てる矢には限りがある。
ヴァルキリーの体に積んだところで、ある程度戦えばそれもすぐに無くなってしまうか。
騎兵部隊に魔弓を持たせるのは悪い考えではないと思ったけれど、やっぱり数が少ないのがどうしようもないな。
もっと騎兵の数がいれば一気に相手の軍を制圧できるかもしれないけれど、今は高速移動しながら矢を射かけてその場を離脱する、くらいの運用のほうがいいのかもしれない。
とりあえず、俺についてきていたほかの兵から騎兵たちに魔弓で使える矢を手渡してもらって、また攻撃を仕掛けてもらうことにした。
どうやら、イアンが相手との戦いに時間がかかってしまっているのは孤立しているからというのもあるようだ。
矢の尽きた騎兵ではイアンの援護もなかなかできず、騎乗したまま剣で攻撃を繰り返していたらしい。
だが、それをグルーガリア軍は傭兵を使った盾で防ぎつつ、柔魔木の弓での攻撃をイアンに向けて集中していたのだ。
さすがに、【切り落とし】などの技が使えるようになったとはいえ、同時にたくさん飛んでくる矢は対処が難しい。
それらをすべて剣で打ち落とすなんてことは無理だからだ。
それでも、アトモスの戦士であるイアンは魔力量が多い。
持ち前の魔力の多さを肉体の強化に使っているからか、柔魔木の弓から放たれる強力な矢でも致命傷は負わなかった。
だが、その矢の中には例外もあったようだ。
俺と矢を打ち合ったおっさん以外にも、ここには魔力量の多い強そうな弓兵が何人もいた。
そいつらの矢がほかの矢に紛れながらも、イアンに傷を与えていたのだ。
イアンと騎兵が突入したおかげで、その突撃から逃れるように後退していたのもここにいる部隊にとっては都合がよかったというのもあるかもしれない。
大型魔弓による毒攻撃はどうやらこのへんにはあまり効果が現れていないようで、倒れている者はあまりいなかった。
「距離が離れすぎてもダメ、か。やっぱ、実戦で試してみてわかることもあるな」
最前線あたりまで出てきた俺は、思わずそんなことをつぶやいてしまっていた。
大型魔弓を使った毒による攻撃。
もちろん、それは事前に試してうまくいくかどうかも調べていた。
大型魔弓に毒を入れる容器を取り付けて発射し、どこまで飛距離が出るのかを確認していたのだ。
その検証のさいには、もっと飛距離が出ると結果が出ていた。
が、今から考えるとちょっと計算違いもあったかもしれない。
実際の戦場では、毒を入れる容器だけを大型魔弓で飛ばしたわけではなかったからだ。
ほかにも硬化レンガなどと一緒に飛ばしていた。
事前の検証の時よりも、実戦ではレンガの数が違っているのが影響しているのかもしれない。
目の前にいる相手に損害を与えようとなるべく多くレンガを積む者もいれば、逆にすぐに撃とうとして積むレンガの量が少ない場合もあるのだろう。
そうして、まちまちなレンガの数とともに空を飛ぶことになった毒容器は、ほかのレンガと容器がぶつかることで、飛距離にばらつきが出てしまっているようだ。
どちらかというと、あんまり遠くまでは飛んでいないのかもしれない。
おかげで、想定していたよりも毒による影響範囲が狭い可能性が高い。
殲滅できるかな?
ちょっと心配になってきたので、ウォルターに連絡を入れて毒だけを遠くまで飛ばすように命じたほうがいいだろうか。
いや、それだと黒死蝶を使ってまで毒の存在を隠そうとしていたのが無駄になるかな?
「まあいいや。反省はあとで、作戦はこのままでいこう。騎兵は俺について来い。イアンに攻撃している連中を叩き潰すぞ」
あれこれと考えていたが、すぐに思考を切り替える。
多少想定とは違ったが、グルーガリア軍に毒攻撃は効いているのは間違いない。
今はこれで良しとして、さっさとイアンの援護に入ろう。
たった一人で奮闘しているイアンだが、強力な弓兵の集団が上手く距離をとりながら攻撃することで拮抗状態に陥っていた。
だが、そこに新たに俺たちオリエント軍という存在が入ることで、その拮抗状態は間違いなく崩れる。
問題は、殲滅戦をしているからこの最前線まで来ているこちらの部隊の兵数は限られているということだろうか。
下手をすると、突入した俺たちのほうが打撃を受ける可能性もある。
なので、ここからはイアンについていた騎兵も使って一気に駆け抜けることにする。
目指すは一番強いであろう弓兵のおっさんだ。
イアンと戦っている部隊に向かって突き進んでいったのだった。
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