動いた国は
「どこが動いた?」
魔導通信器を通して伝えられた報告。
アイの声でグルーガリア国以外にも軍が動き、オリエント国が狙われていることを知ることとなった。
それがどこの国かをまずは確認する。
「ぺリア国です。おそらくは、奪われたパージ街を奪還するために動くのではないかと予想されます」
そして、その国とはぺリア国だったようだ。
オリエント国の北東に位置する国だ。
以前もオリエント国を狙って動きを見せたことがある。
あのときは、こちらの発見が早かったこともあり、逆にこちらがぺリア国内の都市のひとつであるパージ街に攻め入ることになった。
その結果、俺はパージ街のグレアムなどに勝利したということがある。
パージ街を失ったぺリア国だが、その直後にほかの国から攻められて被害が出たという話だったはずだ。
そのおかげで、動きが取れずにパージ街奪還作戦をすぐに実行することができなかった。
だが、今回、オリエント国がグルーガリア国から攻められるという情報を知ったからだろうか。
こちらの目がほかに向いたことを好機ととらえて、軍を動かしているのかもしれない。
「数は?」
「不明です。現在のところ、二千から五千ほどが集まるのではないかと考えられます」
「狙いはパージ街かな? それとも、オリエント国まで来るか?」
「シオン・トラキア様の情報によれば、ぺリア国の狙いは新バルカ街ではないか、とのことです」
「シオンが? 占いにそう出ているってこと?」
「違います。ぺリア国に送り出した影の者による情報のようです」
なるほど。
情報の出どころはシオンだったのか。
そして、それはシオンの得意とする占いではなく、影の者と呼ばれるトラキア一族からもたらされたものだそうだ。
シオンにはグルーガリア国がこちらを攻めてくるように誘導してもらっていたが、だからといってグルーガリアだけに影の者を放ったわけではなかったようだ。
むしろ、ほかにも人を出していた。
きっと、妨害や情報を集めるためだったのだろう。
グルーガリア国から攻められるときには、できればほかの国からの横やりはないほうがいい。
そのため、交戦論を広めたグルーガリアにたいして、ほかの国では慎重論が流れるように仕向けてくれていた。
が、どうやらそれはぺリア国に関してはうまくいかなかったようだ。
今が絶好の機会だとばかりにぺリア国が動こうとしている。
しかし、その狙いがオリエント国のなかでも新バルカ街とは思っていなかった。
もしかして、バルカ教会が関係していたりするだろうか。
パージ街はこちらが勝利した際に、別に街を占領したりはしていない。
黒死蝶などを使ったグイード、そしてそのグイードの孫にしてパージ街を治めるパージ家当主のグレアムらの元配下の一部に街を統治させている。
その際に、バルカ教会所属のハンナにわざわざ来てもらって儀式をしていたのだ。
パージ街を自分たちで統治してもいい代わりに、血の楔によって取り決めた条件を守らせる。
これにより、パージ街は独立しつつもこちらの影響下にある。
そのことを知ったのかもしれない。
ぺリア国としては、多分国の力をあげて挑めばパージ街そのものは奪還できると考えているのだろう。
だが、そのよくわからない制約がどれほどパージ街に根付いているのか判断しようがない。
ならば、その大元であるバルカ教会そのものをなんとかしよう。
そう考えての新バルカ街狙いだろうか。
まあ、あるいは単に魔道具を作ったりもしているから狙ってみようということなのかもしれないけれど。
「でも、こうなるとちんたらしていられないな。新バルカ街が狙われる以上、すぐに戻らないといけない」
「ですね。ってことは、ここにいるグルーガリア軍には持久戦をされたら困るってことですか」
「ああ、ウォルターの言うとおりだ。今は大型魔弓で全体的に損害を与えることに成功した。だけど、いったん撤退でもされて、この砦を遠巻きに包囲でもされたら面倒だ。なるべく早く決着をつけにいって、引き返す必要があるな」
「……出撃するってことですか? 大丈夫なんですか、団長?」
「俺はいけるさ。ちょっと休めたし、別に攻撃で傷ついているわけではないしね。というわけで、砦を出てグルーガリア軍を叩く。ウォルターはそのまま大型魔弓で相手の気を引いておいてくれ」
「了解です。頭の上のレンガには気を付けていってきてください、団長。ご武運を」
今のオリエント国に軍を分けての二正面作戦は難しい。
なので、いかにこちらを早くかたづけてぺリア国に対処するかが重要になってくる。
救いは影の者によって情報がいち早く手に入っていることだろう。
普通ならば、まだ相手の軍が集まり切っていない段階でここまで早く前線にいる俺まで情報が回ってこなかったはずだ。
だが、それも魔導通信器のおかげで誰よりも早く知ることができている。
となると、あとはいかに早くグルーガリア軍に勝利するかだ。
立て直しなどされないよう、短期で勝負をつけるために、俺は砦から出ていくことにしたのだった。
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