急報
「ウオオオオォォォォォォ」
砦の外から雄たけびが聞こえてくる。
イアンの声だろう。
そして、それが聞こえた直後にドンという大きな音も聞こえた。
ヴァルキリーから降りて巨人化したんだろう。
大丈夫かな?
イアンは確かに強い。
そのへんのやつらに負ける姿は想像できないし、今までの実績もある。
ただ、アトモスの戦士は強いけれど無敵の超人ではない。
現にブリリア魔導国にやられて故郷を失っているわけだし。
そう考えると、グルーガリアが相手というのはどちらかというと相性が悪いかもしれないとは思った。
巨人化したアトモスの戦士の一番の強みは、やはりその体の大きさだからだ。
大きいものは基本的には強い。
けれど、弓を得意とする弓兵が相手だと、ただの狙いやすい的になるかもしれない。
周囲から柔魔木の弓で攻撃されたとき、どのくらいの傷を負うかどうかが問題だな。
そんなことを考えながら、ウォルターに肩を貸してもらって地上の様子を見る。
そこにはイアンたちの独壇場となった戦場があった。
さっきの衝撃波で多くのグルーガリア兵が倒れてしまっていたのもあるのだろう。
そんな状況で俺が指示したとおり、相手の軍の中央に突っ込んでいったイアンは巨人化して暴れている。
その手に持つのは自在剣だ。
普段はごく普通の大きさの剣だが、巨人化したイアンの体にあわせて大きさを変えることができるその剣は、今はかなりの大きさになっている。
そんな剣をビュンビュンと振り回している姿があった。
しかも、それは適当に振り回しているのではない。
俺がイアンに【命名】を行ったことで、イアンも【見稽古】が使えるようになっていたからだ。
そして、その【見稽古】のおかげでイアンは剣術を覚えた。
剣聖と呼ばれたルービッチ家初代当主の剣技だ。
あらゆる状況にたいして対応できる剣の腕。
それは、相手を斬るだけに限らず、防御の構えもある。
相手の剣を受け流すのはもちろん、飛んできた矢を打ち払う技術も備わっている。
【切り落とし】という技だ。
もちろん、イアンもそれをアイなどから実演してもらったおかげでできるようになっていた。
巨人化したイアンの周りから飛んでくる、高威力の柔魔木の弓からの矢すらも叩き落としている。
そんなふうに周囲からの矢にも対応しながら動くイアンが攻撃対象として狙っているのが、俺と矢を衝突させ合った弓兵だった。
【壁建築】で作った分厚い壁ですら容易に崩せるのではないかと思うそいつの弓も、さすがにあれを連射することはできないのか、あるいはもう少しためが必要なのか。
それは分からないが、イアンの猛攻に押されてじりじりと下がりつつも、それでも迎撃の矢を放っている。
よく動けるな。
俺よりも疲労具合が少ないんじゃないだろうか。
そいつは見た感じ、いい歳のおっさんだった。
流星は結構若い男だったから、こいつのほうが一回り以上年上なんじゃないだろうか。
もしかして、弓の腕は流星の上だったりするんだろうか。
というか、似たような技だし、もしかしたらこいつが流星に教えたりでもしたのかもしれない。
あのイアンにうまく対応して後退し続けている。
「どうしますか、団長? イアン殿の援護にぶっぱなしますか?」
「いや、さすがにレンガが降ってきたらイアンにとっても邪魔だろう。それよりは、騎兵たちの援護に撃つほうがいいと思う。巨人化したイアンの周りで駆けまわっているあいつらに当てない範囲で攻撃できるか?」
「わかりました。けど、あの騎兵は勝手に動き回りますからね。予測が難しいし、ちょっと離れたところを狙うようにするようにしときますよ」
イアンとともに戦場に送り出した騎兵たち。
そいつらは、みんな好戦的な性格をしているからか楽しそうに戦場を駆けまわっていた。
とはいえ、貴重なヴァルキリーを使っているからな。
無茶はさせすぎないようにしている。
騎兵部隊には魔弓オリエントを持たせている。
バナージが作り、今回の戦場でも大型魔弓としてレンガを降り注いでいる魔道具だが、もともとはそんな大きさではなく人の手に持てるくらいの大きさだ。
こいつをヴァルキリーに騎乗した状態で使わせる。
魔力を込めると簡単に撃てる上に、威力は十分。
それを騎乗して高速で動き回れる騎兵部隊に持たせたらどうだろうというのが、俺の考えだった。
ちなみに、動きの判断はヴァルキリーに任せている。
何でもかんでも突っ込んでいくような連中よりも、上手く戦場で立ちまわってくれるだろう。
そんな俺の期待は裏切られることなく、イアンの周囲を回るように動き回っていた。
思った以上によさそうだな。
今は数がそれほど多くない騎兵部隊だから、せいぜいイアンの周りで牽制くらいの役割になっている。
だけど、もっと数が多くなればこれからの戦場で活躍してくれそうだ。
高速で動き回る騎兵から強力な飛び道具による攻撃はヴァルキリーが移動できる場所でさえあれば十分通用するんじゃないだろうか。
「報告。新たな軍の動きを察知したと連絡が入りました」
だが、そんなふうに戦場を見渡しているところに急報が入る。
それは俺の耳に着けた魔導通信器から聞こえてきたものだ。
内容は新たな軍の動き。
しかし、それはグルーガリア軍ではない。
ほかの小国がオリエント国を目指して動いているという内容だ。
こうして、俺はグルーガリア国と戦いながらもさらに別の勢力へも対応する必要に迫られたのだった。
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