衝突
「命中しました。よっし。これなら楽勝ですよ、団長」
「油断するなよ、ウォルター。攻撃を続けろ」
「了解です」
次々と空にばらまかれる硬化レンガ。
それらが地上へと降り注ぎ、大地に立つグルーガリア兵のもとへと向かっていった。
相手も攻城戦をしている最中だ。
防衛側からの反撃は当然想定しているので、攻撃を防ぐ盾などは持っている。
が、それでも多数の硬いレンガで大きな被害が出ていた。
だが、そこで手を緩めずに攻撃を続けさせる。
この新型の大型魔弓の強さはむしろここからだからだ。
ただレンガを飛ばしたいだけなら、こんな新型を作ったりはしていない。
別にもっと普通の投石器でも同じことはできるからだ。
昔、アルス兄さんもしていたらしいが、投石器で石を飛ばす戦法はどこにでもある。
それをあえて、柔魔木を使った魔道具でやるのは、速射性が高いからに他ならない。
大きな匙のような形をした普通の投石器では、一度発射した後にふたたび投石しようとするとどうしても時間がかかってしまう。
木のしなりを使うためにつないだ紐を人力で引っ張らないといけないからだ。
そのため、高い攻撃力と引き換えに、攻撃速度が落ちてしまうという欠点があった。
それに、その投石機を扱うためにそれなりの人手が必要で、手が取られてしまうのもあるだろうか。
しかし、大型魔弓であればそんな必要はない。
魔法陣を用いて本来ならば硬い木材である柔魔木の弓部分を必要な量だけ引き絞れる。
弾となる硬化レンガを取り付けて、あとは照準を合わせるだけで使えるのだ。
その攻撃準備はほかの投石機などと比べて圧倒的に短い。
ならば、その性能をいかして次々とレンガを放っていかない手はないだろう。
オリエント軍からの攻撃は続く。
盾で防がれようとも関係なしに、空にはレンガが飛び、地面へと突き刺さるように落ちていく。
きっと盾で防いでもその衝撃は凄いものだろう。
盾が痛むか、手が痛むか、とにかくそう何度も防ぎ続けるものでもない。
けれど、それでも油断はしない。
というのも、油断できない相手をすでに見たことがあったからだ。
流星と呼ばれた男。
グルーガリアの弓兵の中でも突出して強かった弓の使い手だ。
流星は、ほかと同じような柔魔木の弓でもその威力の桁が違う攻撃ができた。
魔力の量と使い方、そして弓の腕のどれもが高い水準にあったからだろう。
その一撃は、たった一発で戦況を大きく変えるほどの威力がある。
それこそ、【壁建築】で作った壁ですら崩壊させられる可能性もあるのだから。
その流星はすでにいない。
が、同じような奴がほかにいないという保障にはならない。
もしかしたら、いるかもしれない。
今回攻めてきたグルーガリア軍の中に、戦況を変える一射を放てる者が。
複数の大型魔弓でレンガの雨を降らせながらも、地上の様子を確認する。
目に魔力を集めてみていると、魔力量の多い者があちこちにいる。
もしかしたら、そいつらは部隊の指揮官なのかもしれないな。
いい感じに散らばったように配置されているみたいで、その周囲の兵の指揮を執る役目があるのかもと思った。
その中に、特に魔力の強い奴。
そいつが動いた。
視力の上がった目でその様子をつぶさに確認する。
流星と同じだ。
いや、それ以上かもしれない。
莫大な魔力を柔魔木の弓に込め、それを限界以上に引き絞り、弓をつがえて構えていく。
そして、その弓にも矢の先に魔力が込められていった。
その凶悪な矢が、俺を狙っている。
それがよくわかった。
というか、目が合ったからだ。
きっと相手の視力も上がっているんだろう。
そいつが構えていた弓の右手から力がすっと抜かれて、矢が放たれる。
あれは直撃するとまずい。
盾で防ぐ、なんていうような攻撃ではない。
というか、たとえうまく防ぐことができたとしてもおかまいなしに、周囲の物や人をまとめて吹き飛ばされてしまうのではないだろうか。
矢の速度が早いから逃げることすらかなわない。
だから、それを迎えうった。
こちらも柔魔木の弓を使って。
かつて手に入れた流星の力を使って。
大型魔弓を使うことを考えた時から、それでも反撃してくる相手のことを考え続けていた。
もしかしたら、超強力な一射を放つ者が存在するかもしれない、と。
なので、俺の役目はそいつをいち早く察知し、そして迎撃することだ。
それができるのは、オリエント軍だけで俺しかいない。
目に魔力を集めて地面を見下ろしていた時から、すでに俺も弓を手にしていた。
相手と同じ柔魔木の弓に魔力を込め、そして、気合いや体力も使い果たすつもりで弦を引く。
その柔魔木の弓につがえる矢は特別製だ。
普通の木の矢とは違う、金属製だ。
これは本来ならば攻城用として用意しているものだ。
要塞の固く閉ざされた門を吹き飛ばすために、威力を高めるために作っていた金属製の矢。
そこに魔力を込め、それを放つ。
狙うのは、流星のごとき攻撃をしてきた相手、ではない。
そいつからすでに放たれた矢そのものを狙った。
魔力の流動をうまく使い、頭の中にある脳にも魔力を満たす。
そうすることで、矢を放つ直前に脳が覚醒し、周囲の光景がゆっくりと流れることになる。
本来ならば高速で飛んでくる矢を、自分の矢で撃ち落とすなんてことは無理だ。
だが、それを実行する。
しかも、ただの矢ではなく、流星で。
分厚い壁すらも一撃で破壊する威力の矢が、地上と壁上、双方から放たれて、そしてその中間の空中でぶつかった。
交戦中だったほかの兵などはなにが起こったのかも分からなかったかもしれない。
空中でぶつかった矢と矢はそこを起点として弾けたのだ。
恐ろしい音と、そして大気を吹き飛ばすほどの衝撃波を放って。
その威力は想像以上のものだった。
離れているはずの俺やウォルターですら吹き飛ばされるほどの空気の波が体を襲い、俺は後方の壁に叩きつけられたのだった。
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