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オリエント軍の内情

「来たぞ。総員、迎撃準備に入れ」


 【壁建築】によって作られた防壁の上から、迫りくるグルーガリア軍を見つつ、俺が号令を発した。

 その声を聴いて、オリエント軍がすぐに動き始める。

 近づいてくるグルーガリア軍の数は四千ほど。

 たいして、ここにいるオリエント軍は三千ほどの数だ。


 オリエント国はもともと都市とその周囲に村を持つ国で、動員数はそれほど多くはなかった。

 頑張ってひねり出しても五千いくかどうかだが、その中にはもちろん本職が職人という連中も含まれている。

 そういった者が戦場で命を落とすと、それまで培ってきた技術が失われてしまう。

 なので、実際の動員可能数ほどには兵を集めることが困難であるという事情があったようだ。


 それに、周囲全てをほかの小国に囲まれていることもある。

 今回はグルーガリア国にあえて攻め込ませるように誘導して、それを迎え撃つとはいえ、だからといってほかの国に対する警戒を解いていいというわけでもない。

 なので、本来であればこの地を守る兵の数はもっと少なかったはずだ。

 だが、ここには三千ほどの兵がいて、それにもかかわらず、ほかの地もそれなりに守りの兵が配置されている。


 これが可能になったのは、バルカ傭兵団の存在があるからだ。

 もっといえば、バルカ傭兵団の中にいる傭兵たちのうちのバリアント出身者のおかげだろう。

 小国家群とは全く別の地域である、霊峰の麓という僻地であるバリアントから多くの者がこの地に移り住んできて、この戦場に立っている。

 俺と一緒にここまで来た連中もいれば、去年、俺が刺客を放たれた後に呼び寄せたバリアントの者もいる。


 どちらかというと、今ここにいるのは新たに移住してきた連中のほうが多いだろうか。

 もともと俺と一緒にやってきた連中は新バルカ街で元高級娼婦の女性たちと結婚した者もいて、しかも魔道具作りの仕事も任せていた。

 オリエント魔導組合というものを作ったが、それでも新バルカ街だけで作られる魔道具というのもあるので、そういうやつらは今回この場にはあまり来ていない。

 職人の多いオリエント国と同じように新バルカ街も技術者と戦闘員はなるべく分けたほうが効率がいいということになったからだ。


 そんなわけで、この場で攻めてきたグルーガリア軍からオリエント国を守るためのオリエント軍の半数以上はバリアント出身者であったりする。

 ぶっちゃけ、ほとんど傭兵団が主力といってもいいんじゃないだろうか。

 というか、移住者のなかには小国家群の言葉を上手く話せない連中もいるし。

 オリエント国の人間からすれば、このオリエント軍を見て自分たちの国の軍であるとはすぐには分からないかもしれない。


 だが、それこそが俺が国防長官になれた理由のひとつでもあった。

 俺は個人で持つ傭兵団として二千から三千ほどの動員がすでに可能になっていたからだ。

 そんな俺が国防長官になり、国を守るために自国の人間以外の者を使ってくれるのであればオリエント国の者にとっては利点となる。

 だからこそ、強い権限を与えたという面もある。


 それに、バリアント出身者も次第に評価されつつあった。

 普通、自分たちの国によその地の人間が多数押しかけてくるのは嫌がるものだろう。

 単純に面白くないし、何をするかわからない。

 正確な統計なんて分からないだろうけれど、移住者なんてたいていは金を持っていないし、そうなればいずれは犯罪に手を染めることもある。

 なので、そういう連中が増えるほどに治安が悪くなってしまうのを心配する声が増えるものだ。

 ただ、バリアントの人間が実際に移住してから、そうなったという話は聞こえてこないというのが大きかった。


 大昔、罪を犯した者を霊峰という死を連想する場所へと追放した。

 そのときの生き残りが霊峰の麓に住み着いている。

 なので、そんな場所からやってきたバリアント出身者というのはどれほどわるいやつらなのかと思っていたが、ふたを開けてみれば何も問題を起こしていない。

 というか、オリエント国に来たといっても塩害で住めなくなった廃村の地に新たな街を作り出し、そこで生活を始めたのだ。

 都市国家に住む者とは完全にすみわけされているし、その新しい街でも大きな問題も起こさない。

 これには新しい教会の力もあった。


 不思議な儀式が行われ、そこでは法を守るように誓いをたてる。

 その誓いをした者は、法を犯すと心の臓が痛み、裁判でも虚偽の発言がすぐにわかるというものだ。

 これによって、少しずつだがバリアントの生まれであってもオリエント国から受け入れられつつあった。


 が、それはそれとしても、差別のようなものは残っている。

 どうしても、厳しい環境で文明から切り離された環境で生まれ育った連中のことを自分たちと同等には見ることができないのだろう。

 だがそれも、国を守るために一緒に戦えば意識が変わるかもしれない。

 移住者たちには田舎者の自分たちがあこがれの都会であるオリエント国から更に受け入れられるように頑張ろうという気持ちが、そこかしこでみられる。

 いい感じだ。

 去年移住してきた連中なんて、実戦経験がないに等しいのにもかかわらず戦意が高いのはありがたい。

 数で勝るグルーガリア軍を見ても、弱気になっていないところは好材料だろうか。


 そんなオリエント軍が近づいてきたグルーガリア軍相手に迎撃準備を整えた。

 そして、双方の軍から一斉に攻撃が開始されたのだった。

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