開戦への流れ
小国家群にあるオリエント国。
そのオリエント国からグルー川を下っていったところに位置するグルーガリア国。
比較的穏やかな流れのグルー川の中にある中州にのみ生える柔魔木という木材を利用して、強力な弓兵が多いその国には、最近になってある噂が広まっていた。
オリエント国が攻めてくる、という話だ。
前年にもあったグルーガリアの材木所への襲撃で、柔魔木の強奪を行ったバルカ傭兵団という存在。
その事件について、当然のことながらグルーガリア国もオリエント国にたいして抗議を行っていた。
だが、ただの傭兵団が勝手に行っただけで国としてはその行動に関知していないため、現在調査中であると返答を濁されていたのだ。
しかし、現実にはその傭兵団の団長はオリエント国に深く食い込んでいた。
昨年には民を守るとして護民官に就任し、軍の一部と国内の治安維持についての権限を手に入れたバルカ傭兵団の団長。
そいつが、今年になってさらに新たな役職を手に入れた。
国を守るために設置された国家防衛庁という組織の長官に。
その結果、団長であるアルフォンス・バルカはオリエント国の軍すべてを動かすことができるようになった。
ならば、つぎはなにをしてくるか。
本当に国を守るだけで満足するのか。
やはり、他国を攻めようとするのではないか。
その場合、どこを攻めるか。
長官に就任したばかりなら、手堅く実績を求めるかもしれない。
その場合は、一度でも攻め込んだところのほうがやりやすい。
であれば、ふたたびグルーガリアに軍が差し向けられるかもしれない。
このような話の流れが急速に、グルーガリア国の一般人に対してまで話が広がっていた。
オリエント国がグルーガリア国に攻撃する。
このことを放置してもいいと思うグルーガリア人はいないだろう。
自分たちにとって柔魔木は、ただの木材ではなく、ある種の誇りでもあるのだ。
そして、グルーガリア国の人間はたとえ一般人であっても優れた弓兵だ。
生まれた時から当たり前のように弓を持たされ、大人になるまで、そして、大人になってからもずっと弓の腕を磨く。
たとえ、軍に所属していなくとも、自分たちの身は自分で守るという意識があり、そして、それと同じくらい柔魔木も守るという意識があった。
こうして、世論が出来上がった。
もう二度と柔魔木が奪われるようなことがあってはならない。
そんな意見が国全体に広がり、そして、それは上層部にも届いていた。
その上層部にも交戦論が主流となっていく。
攻められる前に攻めるべきではないか、という意見だ。
これも当然の流れだろう。
もしも、相手から攻め込まれてしまうとたとえ勝ってもうまみがない。
相手方に攻め入れば、勝利の暁にはそこで戦利品を獲ることができる。
食料や物品をはじめ、上手くいけば領地まで手に入る可能性がある。
もともと、オリエント国というのは攻めにくい相手だった。
これは、相手が強いわけでもなければ、攻めにくい地理をしているというわけでもない。
ただ、何も考えずにオリエント国に攻め入ると、ほかの国が口を出してきたのだ。
高い技術力を持ちながらも、さまざまな国とうまく協調関係を保っている外交力によって、下手にオリエント国へと手を出すとオリエント国以外から横やりが入ってしまうからだ。
いかにグルーガリア国が弓の達人が多かろうと、一気にいろんな国を相手にする事態に陥るのは得策ではない。
そのため、オリエント国へは手を出さず、一種の空白地帯とみなしてきた。
だが、それも状況が変わりつつある。
今では、オリエント国も武装化しつつ、他国との協調路線は影を潜めている。
最近では魔道具を開発する技術も持ち始め、周囲の国も狙っていることだろう。
そのため、今ならばオリエント国に手を出しても他国からオリエント国を助ける動きは出ないはずだ。
むしろ、ほかの国が魔道具を狙って攻め入る前に自分たちがその地を押さえてしまうべきではないだろうか。
攻め込まれる危機感と、実利の面からも、攻めに転じるなら今が一番良い。
グルーガリア国主導部はそう考えた。
「このような感じで、市井の者たちからも突き上げる形で世論を誘導した結果、グルーガリア国がオリエント国に攻め入る可能性は非常に高くなっています」
「それは、シオンの占いでもそう出ているのかな?」
「ええ、そうですね。夏前にはおそらく。ただ、私の占いは必ず当たるわけではありませんから。あまり参考にしすぎるのもよくないかと思いますよ?」
「そう? 今までもたまに占ってもらっていたけど、結構な的中率だと思うけど。まあ、グルーガリア国の動きはこっちでもちゃんと確認するから大丈夫だよ」
もちろん、これらのグルーガリアの動きは誘導されたものによる。
おまけに、シオンの占い結果付きだ。
なので、きちんと対処もしている。
グルーガリア国がオリエント国に攻めてくる場合の侵攻場所に守りの拠点を用意しておいた。
【壁建築】や【アトモスの壁】で既存の砦を硬くしただけだが、攻めてくる場合には無視できないだろう。
その拠点にやってきたグルーガリア軍を迎えうつために、俺もオリエント軍を引き連れて迎撃に出たのだった。
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