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国防長官

 魔道具という非常に便利で他ではなかなか作られていない品を小国家群のなかでオリエント国だけが製造することができる。

 このことはオリエント国にとってはいい話ではあるが、それ故に国の危機に繋がる可能性がある。

 魔道具を狙って周囲の国が次々と押し寄せてくるかもしれないからだ。

 というわけで、これまでのものよりも強い権限を持つ国家防衛庁を立ち上げる必要があるのではないか。

 議会にたいして護民官たる俺がそう告げて、国家防衛庁を作るように要請を出した。


 どうやら、この法はあまり知られていないものだったようだ。

 重箱の隅を楊枝でほじくる、なんて言い方をこの国ではするらしい。

 よくそんな法を見つけてきたな、とほかの議員が驚いていたみたいだ。

 ローラからそう聞いて、そんなことがあるのかとこっちのほうがびっくりしてしまった。

 議員ならばある程度知っているだろうと思っていたからだ。


 どうも、この国の法はややこしいみたいだな。

 基本的に前例を重視するようになっているからだそうだ。

 オリエント国でそれまでの法では対処できない何かが起きた時、新しく法を作る。

 それが繰り返されて、たくさんの法がまとまったのがオリエント国の法律なのだ。

 そのためか、非常に限定的な状況でしか役に立たない法なんていうのもあるらしい。


 そういう、一度作られて、けれど次に使う機会がなかなかなくて忘れられるような法もあるらしい。

 国家防衛庁というのも、かなり前に作られ、そして、忘れられていた類のものらしい。

 俺の要請を受けて、慌てて古文のような法律書を引っ張り出して確認するありさまだったという。


 だが、それでも確実に過去に作られた法であることは間違いない。

 そして、一度成立している以上立派な法だ。

 それを打ち消すようなものがなければ、きちんと通用する。

 なので、この要請はあっという間に通ってしまった。


「ということで、アルフォンスくんが一年間の国防長官を務めることが正式に議会で決定しました。おめでとうございます」


「ありがとう、ローラ。国防長官である俺が、その組織を構成する人員を決定するのか」


「はい。決定権は長官であるアルフォンスくんにあります。ただ、バナージ議員ともきちんと連携をとって、この国の方々も入れるほうがいいと思いますよ」


「そんなもんかな。あんまり反対意見を出されて動きを邪魔されたりはしたくないんだけど」


「それは分かりますが、他国との付き合いはこの国の議員に一日の長がありますから」


「ん、そうだね。分かった。半分くらいはバナージ殿の推薦する人を入れようか。まあ、国家防衛庁が機能するために事務的な作業をする人も必要だしね」


 国を守るために作る組織。

 その長官に俺が推薦されて就任することになった。

 まあ、これは既定路線だ。

 今もまだこの国の議会には政党という組織票を持つものがバルカ党しかないからだ。

 ローラを含めたバルカ党の議員が護民官である俺を推薦し、俺がそれを受け入れたという形になったわけだ。

 一応、別の人間が国防長官になる可能性もあったのだが、上手くいった。


 今までも護民官というオリエント国軍に影響のある要職についていたけど、護民官はあくまでも軍の一部に命令を下す権限があるだけだった。

 それが、国防長官になったことで全軍を使う権限を得たということになる。

 しかも、いざというときには議会に話を通さずに軍を動かせるということで、実質的には完全に自由に使えることになる。


 ただ、期限というものも設けられている。

 俺が国防長官に就任しているのは一年間だということだ。

 まあ、今のところ、現実には国の危機というのは起こっていないからな。

 危険性がある、というだけで、差し迫った危機というのは別にないし。

 国家防衛庁は危機が去るまで存在することになるが、その判断はアイがする。

 とはいえ、長官は別だということで、この国の生まれでもない俺が、しかも議員の立候補権すらない年齢で就任できただけでも十分だろう。


「じゃあ、頼んだよ、シオン」


「ええ、分かりました。影の者であるトラキア一族の刺客をグルーガリア国に送ります。上手く誘導してみますね」


「ああ。よろしく」


 一年しか期限がない。

 ならば、さっそくその一年を有効活用しよう。

 いつ、ほかの国が攻めてくるかわからないのであれば、攻められてしまう状況を作ろうと考えた。

 そのために、影の者たちを使う。


 オリエント国にある俺の家で今でも住んでいるトラキア一族の長のひとりであるシオンに依頼を出した。

 影の者が柔魔木を持つグルーガリア国に向かい、こちらに攻撃をしてくるように仕向けてほしいと頼んだのだ。

 あそこは、去年俺が火事場泥棒的に材木所を攻撃して柔魔木を奪っている。

 その後も、何度も抗議がグルーガリアからは届いていたし、すぐに挑発に乗ってくれることだろう。


 こちらの想定通り、攻撃してきてくれたら儲けものだ。

 やはり、国の危機が迫っているのだと議会につきつけよう。

 で、そこでしっかり国防という仕事を果たし、一年後も長官は俺がなるという実績でもつくれないだろうか。


 そんなこんなで、シオンに命じられてグリーガリア国に向かった影の者は見事に仕事を果たして、オリエント国は攻撃を受けることになるのだった。

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