法の穴
バナージによる魔道具販売での外交政策。
それは、ほかの議員などからの意見も加えて少しずつ修正されながらも、実行されていくこととなった。
ほかの国や組織にたいして魔道具を販売して生活に必要なものを買いそろえる。
そのさいに、国だけを相手にするのではなく、新興勢力も対象にするというのがバナージの案だった。
だが、やはりこういう考えには反対意見も出てくるものらしい。
それまでの統治者のもとから脱して、力によって街を占領するような相手と取引するのはいかがなものか、という意見だ。
その言い分もわかる。
取引相手としても信用できるかどうかわからないからだ。
まともに金を払えるのか、物資を用意できるのかも分からない。
いざとなったら裏切ったり、それこそこちらに暴力を向けてくる可能性もあるだろう。
それに、そういう相手と取引することで余計にほかの小国からの反感を買うのではないかという意見も多く出た。
物価上昇という急場を凌ぐためだけに、それまで付き合いのあった他国との関係をこじらせるのは損が大きいのではないだろうかというものだ。
どの意見も話を聞いてみると一理あるなというのは思う。
が、それでもやはりやるしかないのではないだろうか。
というのも、問題の根本が常に残されているからだ。
魔道具の製造という鉱脈がオリエント国にはある、ということだ。
この、いつ何時どの国から狙われ、攻撃をされてもおかしくない現実がある限り、オリエント国は危険が付きまとうのだから。
それは、新興勢力を相手にして他国との関係が悪化する可能性と比べても、非常に大きな問題だろう。
ならばそれらの損を許容してでも、動くしかない。
だが、それらの話を聞いて思ったことがある。
いろんな意見が出すぎるな、ということだ。
意見が出ること自体は別にいい。
俺やバナージの意見が間違っていて、それよりももっといい意見が出てくることも普通にあるだろうし。
けれど、もしも戦っているときに変なことを言われでもしたら困るなとも思った。
オリエント軍を使って攻めてきた国と戦っているときに、そこは友好的な相手だから戦うな、なんて横やりが入ったりしないだろうか。
さすがに、攻めてきた相手であればないかもしれないが、絶対にないとは言い切れない。
オリエント国はいろんな国と付き合いがあるから、どことぶつかっても、必ず利害関係が発生するからだ。
「心配しすぎかな? けど、いざ軍が動いているときに、そういうことを言われるだけでも面倒なんだよね。なんとかならないかな、アイ?」
こういうときは、議会制のオリエント国よりも天空王国とかのほうが便利だなと思ってしまう。
天空王国ならアルス兄さんの一存で全て決まるからだ。
まあ、それも今はそうだというだけで昔は違ったみたいだけど。
ほかの国では配下の貴族家や騎士家がそれぞれに戦力を持っていて独自裁量があるから、もっと大変だという話も聞いたことがある。
戦場でも一個の軍というよりは、それぞれの家が出した戦力の寄せ集めみたいな感じだったそうだから、それを考えれば部隊構成をしっかりしたオリエント軍はまだましかもしれないけども。
「その場合、国家防衛庁を作る方法があります。オリエント国の法では、国の存亡に関わる非常事態において、より強い権限を持つ組織を立ち上げる要請規定が存在します。議長と護民官による要請を議会に提出するのがよいかと思います」
「その国家防衛庁ってのがあれば、横やりが入らないってこと?」
「はい。国防に関する権限が一任されることになります」
「へえ。そんなのがあるんだね。それっていつまでが有効な期間なの? 一時的なものなんでしょ?」
「はい。国家防衛庁は有事の際のための組織です。そのため、有事ではないとされれば非常事態が解除され、解体されることとなります」
「……ん? つまり、有事が続けばその間はずっとその組織があるってことになるの?」
「肯定です。現状の法ではそのように規定されています」
おっと、思わぬ抜け道を見つけたのかもしれない。
オリエント国で議長をしているアイ。
そのアイに相談すると、面白い情報が飛び出してきた。
アイはオリエント国議会で議長を務めているが、その仕事ぶりはものすごく普通だ。
オリエント国に存在するすべての法を誰よりも正確に理解し、そのとおりに運用していく。
法律のとおりに何でもしていくのだ。
そして、その根本となる法には意外と穴が多かったりする。
まあ、人間が考えてつくったものだからしょうがないと言えばしょうがないんだろう。
それまでは、割となあなあで済ませてきたようなことでも、アイが問題点を指摘することで、それを修正する新たな法案が作られるなんてこともしょっちゅうあるらしい。
なので、今の議会というのは意外と忙しかったりするのだそうだ。
で、そんななかでまだ修正されていない大きな穴がこの国の法にはあったようだ。
国に危機が迫っているという非常事態であれば、国を守るためにより強い権限を持つ組織を立ち上げることができるのだそうだ。
そして、それは非常事態が解消されるまで続く。
ちなみに、その非常事態を最終的に判断するのは議長であるアイだ。
使えるかもね。
へんな横やりが入る前に、もうちょっとオリエント軍を使いやすくしてしまえるかもしれない。
そのことに気が付いた俺は、国家防衛庁を立ち上げるように要請を出したのだった。
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