外交努力
「とにかく、拙者は拙者にできることをやっておくでござるよ」
「お願いします、バナージ殿」
バナージとの会話で、いずれオリエント国が周囲から狙われる可能性が高まっていることがよくわかった。
そのための準備をしていくことになる。
が、それはそれとして、バナージも外交努力を続けてくれるらしい。
同じようにどこかから攻撃されるにしても、味方になってくれる国があるかないかでは話が全然違ってくるからだ。
まあ、そこがいつ立場を変えて襲い掛かってくるかはわからないのだけど。
「まかせてほしいでござるよ、アルフォンス殿。先ほどはああ言ったでござるが、今は昔とは状況が違うというのは、なにもオリエント国に限った話ではないのでござる。そこをつけば、案外と攻められにくい状況を作れるかもしれないのでござるよ」
どうやら、バナージも考えがあるようだ。
オリエント国以外も小国家群はかつてとは全然違ってきている。
それは、魔法の存在が関係していた。
アルス兄さんがバナージに名付けをし、そして、バナージはオリエント国内でその魔法を知り合いに授けた。
そこから、オリエント国内では有力者を中心に名付けが広がっていったが、国外にも当然その広がりは続いていた。
その結果、どうなったか。
名付けによって東方にもたらされた魔法は、さまざまな国に大きな影響を与えていたのだ。
それは、独自勢力の台頭だ。
オリエント国では、本来この国の人間ではない俺がバルカ傭兵団を作って新バルカ街なんて街を作ったりもした。
が、こういうのはかなり珍しい事例だろう。
ほかの国では魔法を手に入れた者によって、既存の都市が奪われるという形で独自勢力が出来上がってきたのだ。
魔力が多い者や、もともと権力を持っていた者、あるいは力自慢の者。
いろんなやつらがいるだろうけれど、とにかく人を従えることが得意な連中が魔法を手に入れて、その魔法を使い、力ある集団を作り上げてしまう。
そして、そんな集団が街や町、村などを乗っ取ってしまうなんてことがあるのだ。
普通ならばそんなことをそこの統治者が許すはずがない。
が、そういう新規に出てきた荒くれ者の集団の排除に失敗した国がいくつもあるのだという。
多分、【壁建築】や【土壌改良】の影響が大きかったのだろう。
小さな町や村でも、複数の魔法を使える連中がいれば、【壁建築】などを使って比較的短い期間で砦のようになってしまうのだ。
そして、【土壌改良】があるおかげで今までよりも食べ物を育てやすい。
変な集団が乗っ取った瞬間に叩き潰せればいいのだが、それに手をこまねいてしまい時間がかかるほど状況は悪くなってしまう。
そいつらの勢力が大きくなってしまうからだ。
というわけで、これまでも九頭竜平野は小国が乱立する地域ではあったのだが、さらに新興勢力が勃興している、というのが現在の状況だ。
だが、その新興勢力とて別に安泰ではない。
あくまでも、魔法という新たな力を手に入れた連中が時流に乗って街などを手に入れることに成功しただけで、別に統治の優れた者が多いわけでもないからだ。
たいていの場合は、その街の住人などを強い力で強引に従わせているにすぎない。
そのためか、組織としての経営的には厳しいところが多いというのがバナージの意見だった。
「つまり、俺が考えた魔道具の取引で生活必需品を手に入れるってのは、そういう国とは言えない連中も対象にするということですか?」
「そうでござる。その手の独自勢力は基本的には財政難でござる。魔道具という高価な物が手に入るのであれば、喜んで取引に応じるはずでござるよ」
「なるほど。で、そいつらに力をつけてもらえば、その街の本来の統治者である国に対しての牽制にもなるってことですか。自分たちの国にあった奪われた街が力をつけるという状況だと、オリエント国の魔道具を狙って動くどころじゃなくなる。結果的に、オリエント国が攻められにくい状況を作れるかもしれないってことですね?」
「そうでござる。まあ、そこまで上手くいくかは未知数でござるが、多少の時間稼ぎにはなるはずでござるよ。その間に、せめて防衛できるように護民官殿には頑張ってもらうのでござる」
「分かりました。時間が稼げるのは俺にとってもありがたいですしね。少なくとも、一気に周辺全部の国から攻められないなら十分ですよ」
時間があれば、もう少しヴァルキリーの数が増やせるだろう。
といっても、バルカ家のように騎兵団を作れるほどに数を増やすのはさすがに厳しいかもしれない。
が、ある程度数が揃えられるだけでも助かるのは事実だ。
今はもともと天空王国から連れてきていた十頭くらいしかいないからな。
もう少しいてくれるだけで、人も物も運びやすくなる。
こうして、生活物資の確保と魔道具を用いた防衛のための各勢力との取引がバナージによって進められていったのだった。
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