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鉱脈

「……アルフォンス殿は今の状況をどのように考えているのでござるか?」


「ん? どういうことですか、バナージ殿? 今の状況ってのはもちろんオリエント国のことですよね?」


「そうでござる。拙者ももっと早くに言うべきでござった。魔道具の研究に目がいっていたとはいえ、さすがにこの状況はまずいのでござるよ」


「えっと、だからなにがですか? アイがオリエント国議会の議長になったことが問題だってことなら、ほんとに今更の話ですけど」


「違うのでござるよ。アイ殿は優秀すぎるほどに働いてくれているのでござる。彼女なしでは今のオリエント国はもっと混乱状態に陥っていたでござろう。けれど、そのアイ殿をもってしてもどうにもならないことはあるのでござる。それは、オリエント国と他国との関係でござるよ」


 生活必需品の値段が上がっているので、オリエント魔導組合で作った魔道具を他の小国との取引で使おう。

 そう考えて、それに必要なもろもろのやり取りに詳しそうなバナージに話を持っていった。

 だが、その話を聞いた途端、バナージは急に今の状況はまずいだなんだと言い出した。

 いったいどうしたのだろうか。


「他国との関係?」


「そうでござる。もともと、オリエント国は弱国でござった。そのオリエント国が長らく歴史の流れにもまれながらも続いてきたのは、ご先祖様方の賢明な努力によってでござる。そこで得た教訓は、弱国は強国からは餌にしか見えない、ということでござる」


「ふむふむ。まあ、普通に考えてそうでしょうね。けどそれは今に始まった話じゃないでしょう? というか、最近はアトモスの戦士がいるっていって、オリエント国はあんまり攻められたりしないじゃないですか」


 急に何を言い出すのかと思えば、いつもよく聞く話だった。

 これまでのオリエント国は弱かった。

 だから、周辺国の中を漂うように、どの国からもにらまれないように上手く交渉して生き残ってきたという話だ。

 耳にたこができるくらいには俺も聞いている。

 だけど、それはここ数年に限っていえば、あんまり当てはまらないのではないだろうか。

 イアンの存在はそれだけ大きいみたいだし。


「確かにイアン殿がいるというのはこの国にとって非常に大きいのでござるよ。けれど、それでも今の状況ではアトモスの戦士一人だけでは抑止の力は足りないかもしれないのでござる。なぜだか理由はわかるでござるか、アルフォンス殿? 魔道具が魅力的すぎるのでござるよ」


「魔道具が? ……そうか。イアンを敵にしても魔道具を手に入れたいと思う奴もいるかもしれないってことですか? ばんばん値段が上がってる魔道具は小国家群ではオリエント国だけが作れる。うちから魔道具をわざわざ買うよりも、この国そのものを手に入れたほうが利益が大きいってことになるのか」


「そのとおりでござるよ。過去にもそういった例は山ほどあるのでござる。それまでは、周辺国と上手く付き合って存続していた小国が、ある日を境に周囲のすべての国から狙われる事態になったのでござる。よくある話としては、金鉱脈が見つかったとかでござるな」


 なるほど。

 それは確かに危険だな。

 今まで弱かった国から急に金鉱脈なんておいしいごちそうが出てきたら、それを見た力ある者たちはすぐに食おうとしてしまうだろう。

 そうなったらひとたまりもない。

 どれほど抵抗しようとしても絶対に無理だ。

 もしかしたら一国くらいの攻撃なら防げても、他から攻められたらどうしようもない。


 そして、それは今のオリエント国とも重なるというのがバナージの言いたかったことのようだ。

 去年の終わりごろからオリエント国では魔道具が作られ始めた。

 もちろん、それはアイが作り方の基礎的な技術を教えたからだ。

 その技術をオリエント国の職人たちはしっかりと吸収して、いろんな魔道具を作っている。

 その中には役立つものもあれば、実験作みたいなものもある。

 が、どれもが現実的に値上がりし続けている。


 そして、それは今年になっても続いている。

 最初はオリエント国だけの話だったけれど、それがほかの国にも波及して。

 魔道具を手に入れれば、持っているだけで値段が吊り上がる金のなる木として認識されているのだ。

 俺はそれを利用して、さらにほかの小国から生活必需品を買い集めようとした。

 だけど、それをわざわざ買う必要があるのかという話になるのだろう。


 実際、俺も考えたはずだ。

 ローラからオリエント国内で生活に必要ないろんな品が手に入りにくく、値段が上がっていると聞いたときに最初にどうしようと思ったのか。

 それは、ほかの国に攻め込んで奪おうかと考えたのではなかったか。

 その考え自体は、生活必需品が高価な品ではなかったからという理由で実行する気はなかった。

 が、逆なら話は違う。

 もし他国の立場からすれば、超高額商品である魔道具は戦って奪い取るだけの魅力が十分すぎるほどあるのだ。


 バナージは言う。

 今までのオリエント国はいろんなものを作って他国と取引してきた。

 が、その時は、国として生き残るためにどんなものを作ってどこにどれだけ売るのかを計算してきたのだ、と。

 だからこそ、周辺国から一斉に狙われることなく国が存続できたのだ。


 それが、ここにきて状況が大きく変わった。

 鉱脈の代わりに魔道具というおいしいごちそうをオリエント国は持ってしまった。

 そして、それをさらに他国に売り出そうかとすら考えている。

 だったら、それを奪おうと考えないほうがおかしいだろう。

 それも一国ではなく、複数の国がそう考えても不思議ではない。


 周辺国から一斉に狙われる可能性がある。

 外交経験豊富な、しかし、去年知り合いが大勢亡くなったことで正常な判断力が失われていたバナージが今になってそのことに意識が向いた。

 国の存続に関わる事態だ。


「面白いね。全然他から攻められなかったけど、ようやく相手から来てくれるってことか」


「え……。何を言っているのでござるか、アルフォンス殿。国の危機なのでござるよ?」


 だが、俺はバナージの話を聞いて喜んでしまった。

 戦いの機会が増えるかもしれない。

 それが俺にとっては楽しみな出来事にしか思えなかったからだ。

 よし、今のうちに戦闘準備でもしていこう。

 こうして、どこが攻めてきてもいいように、準備を始めていくことにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このバトルジャンキーめ!
[一言] 傭兵団長に戦いが起こるかもって言ったら そら喜ぶだろう
[一言] 誘い受けなバイト、な性格になっちゃってんなあアルフォンス
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