販路拡大
「よし、手に入りにくいならよそから集めよう」
「ええ? どういうことですか、アルフォンスくん?」
物価の上昇。
生活に必要なものが少しずつ、けれど、今までよりも早く値段が上がり続けている。
それに対するなにかをしなければいけないが、これはなかなか難しかった。
物の値段を制御するなんていう方法はないからだ。
だが、上手く制御できないからと言ってなにもしないわけにもいかないだろう。
今はまだいい。
ローラが市民の声をよく聞いていたからこそ、早めに気づいてくれたからだ。
物の値段が上がっているとは言っても、まだものすごく困るというほどでもない。
今からでもできることをやっておこう。
というわけで、俺が考えたのは今後入手がしにくくなるかもしれない物をよそから買おうという、平凡なものだった。
多分、誰でも考えることだと思う。
これで上手くいくのかどうかは分からないけど、やって損はないと思う。
「よそ、というのはどこのことですか? ほかの国、ということでしょうか?」
「もちろん。オリエント国内で生活必需品の値段が高くなって手に入りにくいのなら、ほかの国から買えばいいよ」
「それはそうですが、どこから買うのですか?」
「そのへんの調整はバナージ殿に任せよう。多分一番詳しいでしょ。もともと、このオリエント国は周辺の国と上手くやり取りしてきたっていつも言っているし。他国のお偉いさんとつながりがあるはずだからね」
「ですが、最近はオリエント国も他国と武力で争うことがあり、以前とは状況が違うと思います。バナージ議員もよくそのことで嘆いていましたし」
「まあ、それならそれで相手を変えればいいさ。実利が保障されているなら、商品を取り扱っている商人に掛け合えばいい。儲けが出るなら、話を聞くくらいはするはずだから」
「実利が? あ、わかったかもしれません。もしかして、また魔道具を売ろうということですか?」
「正解。ローラの言うとおり、他国にたいしてこちらからは魔道具を出す。今ならオリエント魔導組合があるからね。商品である魔道具の確保は問題ないし、どこに売るかもこっちで決められる。絶対に儲けが出ると評判の魔道具が生活必需品と交換で手に入るなら、取引に応じる人はいるだろうしね」
オリエント国で品薄になってきているなら、よそから手に入れる。
最初はほかの国に攻め入って足りないものをぶんどってこようかとも考えた。
ただ、それはさすがに効率が悪そうだった。
普段の生活に必要な物なんて、本来は別に高価でもなんでもないからな。
重くかさばる物を戦闘後にぶんどって、オリエント国に持ち帰るなんてできないだろう。
やれてもせいぜい隣り合う国ぐらいだ。
だが、取引だったら隣り合っていない小国相手でもいけるかもしれない。
もともと、この国はいろんな小国とつながりがあって国を維持してきたんだ。
今は自分の工房に籠って魔道具の研究ばかりしているバナージだが、本来の仕事は外交担当だしな。
きっと、いろんな国とつながりを持っているはず。
そのつながりをたどって、取引すればいい。
絶賛暴騰中の魔道具相場を使っての取引だ。
オリエント魔導組合で作った、一定の品質が保証された魔道具を提供する代わりに、こちらが必要な品を交換する。
こちらは品薄を解消できるし、他国の人間からすればなかなか手に入りにくい魔道具を購入できる機会となるはずだ。
魔道具の取引額は、今の相場よりも安くしておいてもいいかもしれない。
購入した相手がすぐにその魔道具を売って儲けが出せるという状況であれば、相手もこちらが求める品を積極的に買い集めてくれることだろう。
「あの……、アルフォンスくんはいずれ魔道具相場は下がると考えているんですよね? それってほかの国もものすごく影響が出ることになるのではないでしょうか?」
「そうだろうね。まあ、けどそれは気にしなくても良いんじゃないの? それはそこの国の問題だし」
多分、影響はあると思う。
魔道具相場はオリエント国を中心に、その儲け話を聞きつけて他国の者たちも一部は絡んできている。
ただ、まだその範囲はそこまで広くない。
目端の利く、情報通の儲け話に敏感な奴らがかんできただけだからだ。
あとから、魔道具相場の儲け話のことを知っても、値段が上がりすぎて手を出しにくいという面もあったようだ。
もう、十分の一の金額を分割払いであっても相当な金額が動く相場になっているからな。
そんな手を出しにくい魔道具が、割安で買えるなら、生活必需品くらいいくらでも取引しようという奴も出てくるだろう。
その結果、今のオリエント国と同じようにいろんな品の値上がりがあるかもしれないが、知ったことではないしな。
そうだ。
今回も、先物取引を契約しておいてもいいかもしれない。
来年の分の取引くらいまでなら、先に購入権利を手に入れておいてもよさそうだ。
こうして、工房からバナージを引っ張りだして、小国家群のいろんな相手にさらに魔道具を売っていくことにしたのだった。
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