群集心理
「アルフォンスくん。ちょっといいでしょうか?」
「どうしたの、ローラ? なにか問題でもあった?」
「ええ。最近、物価が上がってきていることは気づいていますか? だんだんと生活に必要な物の値段が上がってきているみたいで、ちょっと市民から不満が上がってきているのですが」
「物価? 食べ物とかそういうもののことかな。けど、それは去年の大嵐の影響が残っているからじゃないの?」
使役獣の卵は卵を産めるワルキューレと短期間で成獣になれるヴァルキリーの数がちょうどよくなるように分配して孵化させていくこととなった。
最初のほうはワルキューレ多めで、いずれはヴァルキリーの数が多くなってくると思う。
そんなふうに角なしヴァルキリーが卵に寄り添っている様子を厩舎で見守りながら、魔導通信器で顔の見えない相手と話をしたりしていると、ローラから連絡があった。
どうやら、議員をしているローラに一般市民からの声が上がってきているようだ。
それは物価の高騰についてだった。
生活必需品が全般的に値上がりしているのだという。
それ自体は別に問題ではないのだけれど、その値上がりの早さが問題だった。
どうやら、結構急激に上がってきているらしい。
「大嵐の影響ももちろんあると思うけれど、それだけではなさそうなんです。多分、魔道具の値上がりが関係しているんじゃないかと思うのだけど」
「魔道具の? あれは確かに暴騰しているけど、もともと高級品に分類されているから生活必需品とは関係ないんじゃないの?」
「私もそう思っていたのですけど、実際には生活に困る人が出始めているのも事実なんです。そして、時期的にみて魔道具の値段が上がっていることが関係しているとしか思えなくて。ちょっと、そのあたりのことは私だけではわからないので、アルフォンスくんのほうでも調べてもらえませんか?」
「ん、わかった。調べてみるよ」
生活必需品の値段が上がっている。
その筆頭は食料だろうか。
これは確かに上がっている。
だが、去年の嵐の影響もまだまだ残っているから、魔道具が関係あるのかと言われるとわからない。
が、たしかにほかのものもいろいろと値段が上がってるようだ。
俺は気が付かなかったけれど、たとえば薪なんかもだいぶ値上がりしていたようだ。
新バルカ街は吸氷石の像があるから冬でもあんまり寒くないので分からなかったが、ほかのところでは普通に薪を使う。
そんな薪の値段まで高くなっているという。
しかも、食べ物や薪以外にもたとえば服も値段が上がっているみたいだ。
もともと服はそれほど安い物ではないけれど、オリエント国では綿を栽培させるようになったりもしていて多少安くなっていたはずだ。
だが、それが最近では値段が上がってしまっている。
そんな感じで全般的に、結構な勢いで値段が上がっているらしく、人々に不満がたまってき始めているというのがローラからの情報だった。
「それは私も感じていたわよ。商人たちもいろんなものがどんどん値段が上がっていると言っているわ」
「クリスティナも気づいていたのか。ローラは魔道具の暴騰が関係しているんじゃないかって言っていたけど、どう思う?」
「そう、ね。関係あるかもしれないわね」
「なんで? 魔道具はあれば便利だろうけど、今はほとんど金儲けのための商品としてしか売り買いされていないでしょ。別になくても生活はできるし、ほとんどの普通の人には関係ないんじゃないの?」
魔道具の値上がりはまだ続いている。
いつか暴落するんじゃないかと思っているけれど、まだ続くみたいだ。
この魔道具相場は誰でも一発逆転のようにお金を稼げる機会というのもあって、農民や貧民の中にも手を出す者がいるのはたしかだ。
だけど、それはそういう人もいるというだけで、大多数の人は関係ないともいえる。
別に全員が魔道具相場に浮かれているわけじゃないから、それが生活必需品に影響するというのはよくわからないのだけど。
「うーん、そうねえ。私もはっきりとわかっているわけじゃないけれど、群集心理かもしれないわね」
「群集心理? みんなの考え方ってこと?」
「そうよ。魔道具がどんどん値段が上がっていっているでしょう? それをみて、もしかしたら他のものもそうなるかもしれない、って考える人は当然出てくると思うの。で、そういう人がたとえば服がこれからどんどん値段が上がって買えなくなるかもしれないと考えて、早めに買おうとしている、とか? で、それをみたほかの人も自分も早く買わないとって思ってしまったんじゃないかしら」
なるほど。
一気に服が売れたら在庫がなくなる。
そうなると、新しく作られた服は今までよりも高い金額で売り出されることもあるか。
で、それを見て、やっぱり値上がりするんだと思ってさらにみんなが買おうとする。
そうなると、本来は魔道具とは関係なかった服の値段がばかみたいに釣り上げられていくことになるのか。
で、それがなぜか連鎖反応みたいにいろんな商品で起こってしまっている、と。
……それってまずくないかな?
いずれは元に戻るかもしれないけど、生活に必要なものにみんなが殺到してさらに値段が上がったらどうなるだろうか。
というか、生活に必要なものが在庫なしで買えなくなるかもしれない。
そしたら、普通に命にかかわってきそうだ。
もしそうなったら、市民はどう思うだろうか。
怒りをぶつける相手を探すはずだ。
こうなったのは誰が原因だ、と。
その矛先がもしこっちに向いたらまずいな。
というか、一番危ないのはアイか。
アイが議長になってすぐにそんな事態になったから、悪いのはアイだ、と言われるかもしれない。
早めに動こう。
といっても、物の値段なんてものにどう対応すればいいのか、さっぱりわからないのだけど。
ローラの話から、俺は思わぬ難敵に対処していくこととなったのだった。
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