信頼できる相手
「聞こえるか、キク?」
「はい。聞こえていますよ、アルフォンス様。すごいですね、これ。別の部屋にいるのに、アルフォンス様の声が耳に聞こえます。不思議です」
「よし。とりあえず使用試験はこれでいいな。戻ってこい」
「了解です」
新バルカ街で生まれたヴァルキリーの角を切った。
そして、その角を使って新型魔導通信器を作り上げた。
耳から顎にかけてつけるようになっていて、その表面には魔法陣が描かれている。
こいつは、着用者が話をすると、顎の動きなどの振動を感じ取るようだ。
で、話し相手もその振動を受け取ることになる。
そうすると、その振動が音声となって聞こえるそうだ。
骨伝導とかいうらしく、これなら耳でも周囲の音を聞きながら、通信器で話ができるので使いやすい。
「この通信器、俺が使ってもいいんですか、アルフォンス様?」
「もちろん。そのために作ったんだからな。しばらくは、バルカ傭兵団の隊長たちの中でも、孤児出身の奴らを中心に渡すつもりだ。使い慣れるために普段から使ってもいいけど、無駄話ばっかりに時間は使うなよ?」
「分かってますよ。任せてください」
作った新型魔導通信器は傭兵団に所属する元孤児たちに渡すことにした。
本当ならば、ほかの隊長格でもあるウォルターやゼンにたいしても渡したほうがいいのかもしれない。
ただ、まだ数が限られているからな。
当分はアイの手によって教育された元孤児のほうを優先しようと思う。
これは、きちんとした理由があった。
というのも、ウォルターやゼンは確かに実戦経験があって隊長としては優秀なのだが、事務仕事的なことに関してはキクたちのほうが優れているからだ。
なんせ、教育係があのアイだ。
文字の読み書きから計算、更には軍の動かし方までもしっかりと叩きこまれている。
キクは勉強よりも戦いが好きなやつだけど、事務仕事もやれるからな。
そして、その中でもアイが特に戦場用に重視して教えていたのが補給のことだった。
戦場では強さが重要だ。
弱ければ話にならない。
いくら勉強ができても弱ければ何もできないからだ。
だが、強さには種類があり、そして集団戦と個人の強さはちょっと違う。
戦では基本的には数の多いほうが強い。
が、単純に数だけを増やせばいいというものでもない。
統率する上手さも大切だし、その数を維持するだけの食料や装備なども必要になってくる。
食料も装備も消耗品だ。
時間が経過するごとに減っていく。
それはどうしようもない。
ならば、それをどこかで補充しないといけない。
その補充の一般的な方法というのが、略奪になる。
戦って勝った相手先から物資を奪い取って自分たちのものにする。
それが一番手っ取り早い方法だろう。
が、もっと強い軍を作りたければ、自分たちで補給できる組織網を作ることが大切だというのがアイの考えだった。
どうやら、バルカの賢人会議でも議論を重ねた結果、各地を略奪しながら軍を進めるよりも、補給専用の部隊を作ってでも補給網を整備しながら戦ったほうが組織として強くなれると結論されているらしい。
なので、今後のことも考えて補給が上手くできるようにしていきたいのだが、これが意外と大変だったりする。
なにが一番大変かというと、精神的な面だろうか。
たいていの強い奴というのは、自分が戦って戦果を挙げたいと考えるものだからだ。
そうなると、補給部隊は都合が悪い。
拠点や後方で荷物を運ぶだけでは敵と遭遇する機会は減るので、手柄を上げにくいからだ。
だから、補給専用部隊に回されるのを嫌がったりもする。
それに、補給というのは簡単な仕事というわけでもなかった。
減ったものを補給する、というだけでは不十分なのだ。
規模が小さいうちならそれでもいいのだろうけれど、軍の規模が大きくなればそれでは追いつかなくなる。
各地にいる自軍の数をそこから想定される消耗品の数を事前に予測しながら、先回りで補給する必要があるからだ。
それを問題なくこなすには高い計算能力が求められる。
これは、実戦経験を積めば誰でもできるというものではないだろう。
というか、まともに文字も書けない、計算もできないやつが多いからな。
多分、ウォルターやゼンに補給部隊を任せても、大雑把などんぶり勘定でやれるかどうかになるに違いない。
むしろ、それでもまともに仕事をすれば上出来だろうか。
意外と問題になるのが、物資の横領だ。
軍に必要な物資は大量になるわけで、それをひとまとめに保管しているのを見ると、たいていの人間は「これだけあったら、ちょっとくらい自分がちょろまかしてもばれないだろう」と考えるものらしい。
そして、そう考えて物資を抜き取るのが当たり前になってしまうと大問題だ。
一度や二度なら分からなくとも、何度もすれば大きな違いになってくる。
それに、そう考えるやつらが何人もいたりすれば、物資の減りは加速度的に早くなる。
なので、補給部隊というのは地味ながらも重要で、そして、信頼できる者に任せなければならない。
それができるのは、今のところアイの生徒たちが適任なのだ。
なので、そいつらにより仕事が効率的になるように新型魔導通信器を渡すことにした。
あとは、実際に部隊で使ってみながら、不都合がないかも確認することになるだろうか。
こうして、新しく作った魔道具とともに、補給部隊の整備を整えていったのだった。
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