the truth
ねえ、兄さん。今度はどこへ行くんだい?
そうだなぁ、3年前の湘南の町にでも行ってみるか。
それはとっても面白そうだね。僕そこは知っているよ。海のある町だろう?
ああ、その通りだよ。僕はそこでね‥。
兄さんは何でも知っていた。何時の話でも何処の話でも何でもしてくれる。日本に限ったことではない。世界中のあらゆる場所に兄さんは行ったことがあるようだった。
兄さん、この問題が分からないよ。難しすぎるよ。全く、先生はちゃんと教えてくれないのに難しい問題ばかり出すんだ。
そいつはたまらないな。でも、考えれば分かるさ‥。ほらね。
えーと、これは、こーゆーことで‥。兄さんここは?いや、分かった。やっぱり言わないで。そうかぁ。なるほどね。
兄さんは何でも知っていた。どんな難しい問題も解いていて、兄さんの周りはいつももっと年上の大人たちが囲んでいた。
序章
導かれし孤独
過ぎ行く時のなかで僕は人としての感情を失い、涙を流すこともできなくなっていた。そういう感情を自分の心の中に閉じ込めたといったほうが正しい表現かもしれない。つまらない日常にそれ以上のものを求めず、まるでただひたすらに寿命が終わるのを待っているかのようだった。友はいた。心が通っていたかと聞かれたら返す言葉はないが、一緒にいることで周りと同じであるように感じたかった。彼の名前は瞳。自分の名前が女の子らしいといつも愚痴を言っていた。あまりにもきれいな瞳だったから親が生まれてその場で名付けてしまったのだという。それを聞いた時には哀れに思った。しかし彼の瞳には曇り一つ見えないように僕は感じた。