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剣奴脱出2

 剣奴連国は旧月光国の東から南に広がる国だ。国と言っても100を超える小国や自治区が、剣奴という制度でまとまっている巨大な同盟だ。


 剣奴は戦争の代わりに導入された、武力衝突の新しい形だ。

 血で血を洗う終わりのない戦争で各小国は疲弊し、無益で不毛な時間を長く過ごした。


 強力な国が現れても、他の小国が一時的に結束して一強を許さず、全ての国が強さに固執していた。


 小国が今の連国の形になった理由は、武国の勢力が強大になった事だ。

 武国は戦争に長けており、武力衝突では無敵だった。小国がどんなに束になっても敵わず、領土は奪われ資源は減っていった。


 武国に戦争で勝てないのであれば、戦争を回避するしかなかった。

 戦乱特需で経済力が突出した欲国を盾に、小国の王達は独自の武力衝突ルールを敷いた。


 武力の大小は、国の代表として強者を選出し、総当りの闘技会で決めるというものだった。

 当然、その枠組みに武国と欲国の参加は許可せず、自分達だけの複雑なルールで新規参入を阻み、閉じた武力階層を形成した。


 連国内での強弱を決める闘技会に出場する者には富と名誉を得たが、国家間の軋轢で暗殺の対象になる事が多く、簡単に命を散らす事があった為、揶揄して剣奴と呼ばれるようになった。


 そんな剣奴の歴史は、既に100年を超えている。歪な仕組みでも、戦争を続けるよりは、遥かにましという事だ。


 目の前の少女は剣奴なのだろうか。武装と体の鍛え方から察するに、非戦闘員では無いだろう。むしろ私の方が非戦闘員に見えるはずだ。

 私からは、術力が感じられず、明らかに鍛えていない四肢、擦り傷さえ無い手、どう考えても防御力のない白い服と、戦力を発するモノは無い。ヤクトの基準で言っても夜伽要員にしか見えないだろう。


 私と闘いたい理由は不明だ。

 シンプルに考えれば、剣星位六十二が欲しいというところだが、今回は模擬戦を希望だ。

 剣星位を獲得するには、立会人の前で真剣にて闘い、勝たなくてはならない。勝利に必要ならば命を奪ってもいいらしい。

 今回の模擬戦は、いつか挑む真剣勝負の為の前哨戦と言ったところだろうか。


「どうも、はじめまして。ユズカです」


 私の気の抜けた挨拶に、ディアナは警戒しているようだ。

 先程から私に向けられている探知術は、ディアナから発せられている。

 私は術自体を認識出来ないが、探知術によってディアナが得た情報を察する事は出来る。

 探知術の殆どが、対象の術力を測る事に使用される。私を探知しても術力は皆無なので、ディアナの困惑が伝わってくる。

 剣星位六十二は、半端な順位なのだが、百位以内の権威はかなり高いらしい。かなりの実力者と見られているにも関わらず、探知では強さの片鱗すら見つからない。困惑して当然だ。


 ディアナは軽く会釈をして、目線を組合長の方に向けている。

 組合長は怪訝な視線を無視している。


「模擬戦は木製武器でやってもらう。立会人はわしが引き受けよう。やり方は、剣奴戦の点取制じゃ。クロアケ殿は規約を知らんじゃろうから、後で教えよう」


 剣奴連国の情報はあまり国外に出ない。欲国の人間は、剣奴戦の事など一切知らないのが一般的だ。

 私は、世界報を見ている人から情報を得ているので、剣奴戦のルールをある程度知っている。

 ダメージによる減点制で、0点になった時点で敗北する。制限時間があり、時間切れの場合は点の高い方が勝者となる。場外判定があり、規定の範囲から出た者は即時敗北となる。殺人は禁止で、殺した時点で反則負けとなり、出場停止になる。


 組合長から、剣奴戦のルールを一応聞き修練場へと移動した。


 修練場には、興味本位でギャラリーが集まっている。暇を持て余している冒険者や、近くの店の店主と客、旅の商人や傭兵稼業の武芸者など、かなり人数がおり、リュー君、ブラドも居た。


 模擬戦と言っても剣星位に関わる戦闘は、滅多に見る事が出来ない娯楽なのだ。

 格闘技の試合というものは、どこであっても観ていて興奮するものなのだろう。


 修練場の硬い砂地に、縄で10m四方の四角いリングが作られている。

 使用する武器は、木製の得物が多種用意されていた。私は、いつも通り背丈より高い長棍を選んだ。ディアナは一番長い木剣を選んでいた。


 お互いに長物の勝負となる。


 緊張とまだ少し困惑した様子のディアナが、リングの隅に立った。対角線上に私も移動して、試合開始を待った。


 私は剣星位六十二の代理として闘うので、あまり弱くは振る舞えない。組合長より少し弱く、タニアより少し強いくらいが頃合いだろう。

 組合長とタニアは、ヤクトに於いて突出した強さを持っている。ヤクトを中心に活動する上級冒険者や傭兵も、2人の相手では無い。四星闘術を修める者は、普通ではないのだ。


 私に相対しているディアナは剣奴らしい。刀術を扱うようで、修練のあとが体に刻まれている。

 一対一の戦闘をしたと仮定すると、ディアナはタニアに及ばない。

 そんな相手に負けなくてはならない私の闘いは、なかなか難しいのでは無いだろうか。絶妙な力加減が要求される。


 組合長がリングの脇に立つ。


「始め」


 開始の合図と共に、ディアナが間合いを詰めてくる。

 刀を扱う戦闘法は、得物の限られた部分を相手に当てなくてはならない。刃を運ぶために動く、当たり前の動作だ。


 私は八星護術の基礎に従って、棍を2人の間に置く。得物で相手の接近を阻むのは基本戦術だ。

 自身または他者を護る事が目的の技術なので、敵を遠ざける技は多い。

 相手の動きが止まって見える私には、棍で相手の進行を阻害する事は容易い。ただし、透過や超人的なスピードでの行動は、今回の設定に合わないので、視認可能な無駄の無い動きで対応する。


 ディアナから戸惑が消え、冷たい感情が満ちていた。

 私に立ち向かうために、様々な動きを試してくるが、棍の先端より前には進めない。


 しばらく膠着するかと思っていたが、ディアナがいきなり仕掛けてきた。

 周囲の空気の流れが不自然になり、無数の空気の渦が現れた。

 気流操作術による風弾という技だ。


 気流の塊を作り、攻撃の加速や相手武器の吹き飛ばし、無理な体勢からの回避補助に使用する。

 達人クラスになると10を超える風弾を同時操作するらしいが、ディアナの風弾は100近い。

 どうやらかなり得意な戦闘スタイルらしい。


 ギャラリーの中で風弾に気がついているのは、組合長とリュー君、ブラドの3人だけのようだ。

 かなり高度な術隠しが施されているらしい。この手の術的な攻防に気が付けない事は、本当に不便だ。今はタコちゃんがいないので、どの道対処できない。


 今の設定では、ディアナが用意した風弾全てを見切る事は出来ない。何個かは故意に受けるようにしている。

 風弾に触れて、多少は体勢を崩されたように振る舞うが、こちらの優位は揺るがない流れのままだ。ディアナの技は卓越しているが、タニアや組合長であれば、対処可能な領域だ。


 私は棍で反撃し、ディアナの手首や足先にダメージを与える。

 立会人の判定で、ディアナの点は削られ、一気に不利な流れとなる。


 ディアナには不思議と焦りはない。何かの策に向けて、着実に準備を整えているように感じる。

 恐らくは必殺の突き技があるようだ。私の棍を掻い潜りながら、タイミングを見極めようとしている。


 微かな風弾が私の脚に触れて、少しバランスを崩した演技をした瞬間、ディアナから必殺の突きが放たれた。


 ノーモーションから上半身の筋肉と、連ねた風弾の加速で、超高速の突きが放たれる。

 恐らく今の設定で初見ならば、回避出来ない技だ。このまま受ければ、予定通り負ける事が出来る。

 だが、この突きには、私の予想していなかった仕掛けがあった。

 ディアナは突きを寸止めするつもりなのだ。なんと相手も負けようとしているのだ。

 このままいけば、ディアナの突きは不発に終わり、私の反撃で、ダメージ点がなくなり、彼女の敗北で終わる。


 負けようとしている相手に負ける。なかなか難しい。


 しかし、私にも秘策がある。


 意図的に仕込んでいた棍の破損を、微かな振動エネルギーで発動させる。

 先端が鋭く尖った形状で折れ、ディアナの顔に向かって弾け飛ぶ。私は、尖った棒がディアナに当たらない様に、半歩踏み込んで破片を弾く。


 半歩の踏み込みが、ディアナの必殺の一撃を完成させる。

 私は急所から僅かにずれた位置で突きを受ける。相手に手ごたえが残るように、わざと服の上から剣先を受けて、普通の人体に衝撃が通ったように、タコちゃんの分体から、感触を返してもらった。


 突きの衝撃で場外まで吹き飛ぶように体を動かして、膝を付きならが着地する。


 この負け勝負は私の勝ちだ。

 そう思った瞬間、ディアナから向けられた感情は、激しい怒りと絶望だった。




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