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武刻脱出10

 巨大な円柱の岩に乗った都市である柱城は内部が複雑な構造になっている。

 外に見える都市だけでもヤクトの3倍はあるのに、円柱内部も塔のような多層構造になっている。


 モランで落とした空飛ぶ岩塊もかなりのサイズだったが、柱城は桁違いだ。飛行を制御している重力術を発生させている核は20個確認している。


 私が確認した柱城内部の異変は、神人しんじんと思われる存在を2名発見したことだ。


 柱城が飛行中であっても、その2人は彫像のように動いていなかった。しかし、柱城が外界に入った途端に動きだしたのだ。

 タコちゃん調べによると動く前までは、認識阻害術で姿を隠していたらしい。


 柱城の侵入者に狩猟元帥やオビト達は気がついていなかったのだろうが、今は侵入者への対応のため、粛粛と行動している。


「柱城に侵入した2名はあなたのお知り合いですか?」


 十本足と柱城の間にはまだ距離がある。狩猟元帥はオビトからの情報を術具経由で収集している。だから指示も出来るし、今のような質問が出るのだ。

 一方で一般的なヒトであれば、今の柱城の様子を知る手段は無い。

 私が状況を把握しているように話してくるという事は、私の知覚が広範囲だと狩猟元帥は知っているのだろうか。知覚能力の効果や範囲を調べているようにも思える。


 私は私の知覚の明確な効果を誰にも伝えた事はない。タコちゃんですら、私の知覚がどこまで認識しているのか知らないのだ。

 知覚能力を伝え無いこと、これは誰かと関係性を構築する際に、私が勝手に設定している予防線だ。

 近くに寄るだけで、体の中や感情まで読み取られていると知れば、決して気持ちの良いものでは無いだろうという、私の主観によるものだ。


「柱城を見るのは今日が初めてなんだよね。侵入者と言われても良く分からないね」


 情報戦となれば不利なので、情報量は少なく、事実のみで会話する事が無難だ。

 柱城は初見だし、中に居る神人しんじんらしき2人は会った事がない。


 侵入者は2人とも年齢の高い男性だ。

 1人はインドの業者のように布を巻いただけの服装で、枯れ木のように痩せている。頭髪どころか体に一切毛が無く、大きく見開いた瞳がカメレオンのように動いている。

 もう1人は、ギリシャ神話の主神のように逞しく、髭も髪も外に向かって自由に伸びている。古代ローマの闘士を思わせる腰布一枚の服装で、鋼のような筋肉が露わになっている。


「これは失礼しました。あなたの陣営の者では無い事を確認したかったのです。こちらをご覧ください」


 地面から卵型の透明なケースがせり上がって来た。

 狩猟元帥の操作でケース内部に霧のようなものが満ち、2人の男性の顔が浮かび上がった。


 この立体映像装置は恐ろしい程の技術と発想で出来ている。

 映像の保存、遠隔地に送信、映像の再現と呆れる程の叡智が詰め込まれている。この世界でここまでの技術を創り出しているとしたら、狩猟元帥の頭脳は神懸かっている。


 狩猟元帥の叡智を持ってすれば、武国から独立し、外界に新国家を作ろうとする発想は決して夢物語では無く、実現性のある計画なのだ。


「知らない人達だね。それにしてもこの装置良く出来てるね。これなら柱城全体に侵入者の情報が直ぐに共有出来るね」


「これを見て直ぐに運用方法を思い至るあなたの方が、僕達にとっては驚異ですよ」


 私と狩猟元帥が話しをしていると、横ではキリンちゃんの出撃準備が整ったようだ。

 十本足の足3本を身にまとって、黒い三尾の獣のような姿になったキリンちゃんが、弾丸のように射出された。


「キリンちゃんが行かないと駄目な相手なんだね」


「僕には相手の力量は分かりません。武王の予知を躱すため、領地と外界に情報を分散し、相手の想定戦力を試算せずに来ました。無論、武王が2人いれば十分と判断したのであれば、個の強さは最高峰のはずです」


 狩猟元帥は不確定要素が多いという言葉を並べているが、不安や懸念という感情を持っていない。寧ろ自信と確信、そして途切れる事の無い恐怖に満ちている。

 負けるつもりは微塵も無いようだ。


「負ければ未来が無いよね? ただの戦闘で多くの人の生き死にを決めるのは、仕方が無いことなのかな?」


「狩人は狩りの成否に運命を賭けます。野蛮で粗暴だと言われてきましたが、これが変わる事はありません。それに、戦争では武王に勝てませんが、戦闘で僕達に勝てる者は、今の武国にはいませんよ」


 柱城全ての狩人が一斉に動き出す。狩人は全員で一つの獣なのだ。


 ―


 枯れ木のような老人は、狩人達の遠距離射撃にさらされている。柱城内部の地下通路は、豪雨の中のようだ。

 雨のように弾丸が降り注いでいるが、老人は全てを紙一重で躱している。


「あんた方、外界から戻りなせぇ。戻れば命は助かりやすぜ」


 老人は弾を躱しながら、息も切らさず警告の言葉をかけている。


 狩人達は弾幕が切れないように、隊列を入れ替えて装填時間を稼いでいる。弾が回避される事は前提として狩人達は老人を構造物の隅に追い込んでいる。

 老人の逃げ場がなくなり、弾丸の雨が体に触れた瞬間、弾が体を透過して背後の壁に当たる。


「おや? あしには当たりやせんねぇ? ここにいる方々には、死んでもらいやすよ」


 弾幕を無視して老人が狩人の隊列に迫る。


 狩人の隊列は一斉に散開し、また一定の距離まで下がって包囲網を構築した。

 徹底した遠距離戦は、老人の戦闘能力を測るためのようだ。狩人は確実に獲物を仕留めるため、能力や弱点の調べを欠かさない。


 狩人は更なる一手として、煙の出る弾を発射して通路を煙に沈めた。催涙性のある煙のようで、狩人達はいつのまにか顔を仮面のようなモノで覆っていた。


 老人は弾丸が迫る煙の中を悠然と迫って来る。


「攻められるばかりじゃ面白くありやせんねぇ。一つあしからも行きやすぜ」


 老人の視線の先が煙が糸のように途切れると、オビトの何人かが細い何かで貫かれ負傷していた。

 負傷者で崩れた隊列を起点に、老人が風のような速さで、狩人達を蹴散らす。

 正体不明の貫通攻撃に加えて、打拳や蹴りの威力も凄まじい。蹴られた狩人が吹き飛び、何人も巻き込んでいる。まるでボーリングで倒されるピンのように、狩人達が宙を舞っている。


 大人数で遠距離武器を持っていた狩人達は、隊に入り込まれるという不利な状況に追い込まれ、反撃する事も出来ず、ただ木の葉のように舞うだけだ。


「そろそろ殺していかねぇと、いつまでも終わりやしねぇですね」


 明らかな殺意を持って老人のギョロギョロとした目が、手近にいた狩人に向かう。


 老人と目が合った狩人は、背負っていた黒い装置を操作すると、瞬時に全身を黒い鎧が覆った。

 ユズツーとキリンちゃんが戦った際に纏っていたボディスーツに良く似ていた。


 いつの間にか、戦闘している狩人全員が黒い装置を背負っていた。

 開戦時は無かった装備が今はある。外界の各森城に用意してあった装備が、柱城へと一斉に持ち込まれているのだ。


 黒い鎧を纏った狩人は、老人の格闘攻撃に抵抗するだけの力があるようだ。爆弾のような威力の蹴りを受けても、体制を崩さない。

 狩人達も近距離打撃で応戦し始めたが、老人に攻撃が当たる事は無い。


「随分と抵抗しやすねぇ。まさか、あしを倒すおつもりですかい?」


 余裕のある老人から、正体不明の攻撃が放たれる。まるで鋭い刃物で切ったように、狩人の黒い鎧が削られていく。

 先程まで線だった攻撃が、密度を増して面に変化している。


 不可視で防御不能の刀剣を振り回すように、老人の周りの狩人達は、切り刻まれている。

 黒い破片が地面に飛び散り、血飛沫が上がり始めた。


 黒い鎧を着た狩人達は、老人から一斉に距離を取り、負傷者も一斉に運ばれていった。


 天井を突き破って、何か黒い塊が降ってきた。


 巨大な三本の尾を持った獣のような姿の狩人が現れた。


 狩人達は、戦闘中に一切声を出さない。負傷しても倒れても悲鳴すらあげない。


 その狩人達が歓喜を持って声をあげる。


「「「「「「「キリン!キリン!キリン!キリン!キリン!」」」」」」」


 最上位の狩人が狩る姿は、オビト達の憧れだ。


 狩人の歴史で誰も名乗る事がなかった名を持った者が現れたのだ。


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