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森林脱出7

 理屈は不明だが、私の居る世界は徒歩で周回できる広さしかない。


 物理を超越した世界と言っていい。

 もしかしたら、意識投影型VR装置の被験者にされているのかもしれない。


 想像の域を出る答えはないが、私の知る常識の範囲外に居ることは間違いない。


 一つはっきりしたことは、私は閉じ込められているということだ。

 ならば、私はこの世界を脱出して、元の日常に帰るだけだ。


 もはや主催者の有無や転移の理由も関係ない。

 私の中で脱出ゲームが開始された瞬間だった。



 ーーー


 夜になり今後の脱出プランを練ることにした。


 私は正攻法でゲームを攻略するタイプではない。システムの粗やバグを突いて有利にことを運びたい人種なのだ。


 後輩からはよくゲームに真正面から向き合っていないと指摘されたものだ。

 最近では対戦ゲームの相手をまったくしてくれなくなった。


 チートはしない。必ずシステムの決めたルールのなかで、最高効率を叩き出す。


 今ある私の最強の持ち札は何か。

 今扱える最も超常的な能力は何だ?


「再生かな」


 あっさり答えが出た。


 損傷を瞬時に直し、肉体に疲労を全く残さない能力だ。私以外のオブジェクトにも適応されており、この世界ではデフォルト能力だ。

 しかし、私の常識からすれば有り得ない能力だ。


 まずは、私に作用する再生を紐解いていくことにした。


 そういえば、私自身に再生が作用するところを見たことがない。


 再生を確認する為には、私が損傷を負う必要がある。


「痛いのは嫌だなぁ」


 30メートルの高さから身を投じた私が言うのも滑稽だが、できれば少ない苦痛で済ませたかった。


 私の臆病さが、体から生えている毛を抜くという名案を捻り出した。


 毛も私の一部に間違いはない。


 早速、髪の毛を一本摘んで一気に引っ張った。


 通常であればあっさり抜けるはずが、全く抜ける気配がない。


 私の腕力は、日々のデスクワークによってここまで弱体化してしまったのか。


 いや、そもそも手答えが何かおかしい。

 頭皮が引っ張られる感覚が殆ど無い。


 しばらく自分の髪の毛と格闘したが、一本たりとも抜くことは叶わなかった。


「もしかして私の耐久力が強化されてる?」


 別に頭皮がカチカチになっているわけではない。体の各部位は今まで通りの触り心地だ。肌を押せばゆっくり沈み込む。


 暗くてよく見えないので、はっきりした跡を残し再生を確認することにした。

 ジーンズを膝まで下ろして、腿を平手で強く打ってみた。わかり易く平手の跡が残るはずだ。


 しかしまた、妙な手答えで平手の跡は残らなかった。


 私の体に起きている現象は、再生というより強化に近かった。

 強い衝撃を受けても、それに抵抗する力が発現し、そもそも体が損傷しないのだ。

 しかも、30メートルの落下に耐え得る強度はあるようだ。


 髪の毛にまで適応されているので、恐らく全身が強化されているようだ。


 確認のしようがない事だが、恐らく脳も強化されている。かなりのストレスを受けているはずだが、自我を喪失するようなことは無い。

 一つ気になることは、眠ると記憶にアクセスできるようになったことだ。

 恐らく強化の影響だろうが、初日はできなかった。


 初日より強くなったストレスから、自身の精神を守るために脳の強化が進んだのかもしれない。


 つまり、一連の強化は成長するということだ。

 強化の発動契機は、恐らく強い衝撃またはストレスだから、より強い刺激を受ければ成長を促せる。


 チートはしない主義だが、とんだチート能力を得たかもしれない。


 強化の検証も含めて明日の探索は捗りそうだ。


 ーーー


 まだ殆ど日が登っていないのに、目が覚めた。


 恐らく視力も強化されている。光を感知する能力は暗視スコープ並みになっているかもしれない。

 昨日、無意識に星明かりの下で平手の跡を探そうとしたので、夜目が効くようになっているようだ。


 本日も果実4個と共に、探索を開始した。


 大樹を始点に南北ルートを移動して、私以外の動物を探す。


 今回は強化の検証と効率アップを目的に、全ての移動を走って行うことにした。

 通常であればマラソン選手並みの身体能力とスタミナが必要になる。駅の階段で少し走っただけで、目眩がする以前の私では、まず完走できない。

 私の身体がどれほど強化されているか確認する。


 大樹から北に向かって移動を開始した。

 辺りは樹齢何千年クラスの太い針葉樹が、西洋の神殿の柱のように規則正しく生えていた。


 走ることによる呼吸や鼓動の変化はまるでおきない。喉の奥に鉄っぽい味の何かが込み上げてくることもない。


 むちゃくちゃ揺れる原付きに乗って走っている感覚だ。疾走感が心地よい。


 走りながら、動物の痕跡、果実のある植物、セーブポイントを探したが、何も無いまま針葉樹林帯を抜けた。まだ、太陽もようやく顔を出したところだ。


 そのまま、ジャングル帯に突入した。

 速度を緩めることなく、木の根が迷路のように入り組んだ場所を駆け抜けた。

 立体的な地形なので、ジャンプを織り交ぜて移動した。


 パルクールの心得があるわけではないので、むちゃくちゃにぴょんぴょん跳ねて、障害物を躱した。

 飛び過ぎることもかなりあった。自分の体だが力加減が良く分からなかった。


 途中、樹木の根がドーム状の天井を形成している場所があったが、動物の痕跡はなかった。

 超巨大なバナナに似た木はあったが、実はなっていなかった。


 南側からあっさりと大樹に到達した。

 正午までにはまだかなり時間がありそうだ。


 汗一滴かいていない。体温上昇が一切ないようだ。

 体に異常もなく疲労もない。


 私の体は走ることに関しては、人類の域を超えているようだ。


 同じペースで走れば、暗くなるまでに世界5周できそうだ。


 奇岩にもたれて果実を一つ食べた。

 朝の運動を終えて食事をとる。私のライフサイクルは健康そのものになっていた。


 かなりの距離を走ったわけだが、空腹感も喉の渇きもさほど無い。果実一つでなんとかなる。

 私の消費したエネルギーがどこから補充されているのか不明だ。

 この果実が凄まじい栄養価を秘めているのだろうか?未だ謎だらけだ。


 強化の具合は、既に人外レベルに到達し始めているわけだが、更なる強化が可能か検証する。


 私の体はかなり丈夫で疲弊しないスタミナが内蔵されている。

 物体は一度動き出すと、動き続けるという慣性の法則が働く。損傷や疲弊の無い私の脚ならば、無限に加速することが可能だ。

 音速を超えれば、相当な負荷がかかり更なる強化が発生するかもしれない。



 検証のため、障害物の少ない西に移動した。


 円を描くように走って出来る限り加速するつもりだ。


「ユズカ選手!位置について…スタート!」


 体が徐々に加速する。

 朝世界一周したときのスピードにあっさり到達し、さらに加速する。


 視界が凄いことになってきた。気色の流れが高速道路の直線を飛ばしている感じだ。足が地面につく間隔が徐々に広がっていく。


 まだまだ加速できそうだったそのとき、私にかつて無い程の衝撃が走った。

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