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月禍脱出8

 破壊神という名は、完全な造語なのだそうだ。


 そもそも、この世界には偶像を有する宗教がほとんど存在しないので、神という概念が曖昧だ。

 最も信仰されている宗教は自然崇拝であり、文明界が今の姿を維持している要因である地脈を神と崇めているのだそうだ。


 秩序と安定をもたらす地脈は神であり、その逆である混沌と変化をもたらす者は破壊神なのだ。

 ただ、混沌や変化が世界的に生じた歴史は無く、破壊神は概念的なモノとして扱われる。


 しかし、過去に一度だけ破壊神の姿がちらついた事があった。

 いつ誰がという記録は無いが、予言術という未来予知にて、抗う事の出来ない滅びが来ると予言された事があったらしい。

 同時期に外界の深奥に何者も存在を維持出来ないとされる空間が観測され、破壊神の舌と命名された。


 その後、予言に破壊が起きるという未来が見える事が無くなり、破壊神という名は世界から薄れていった。

 当時の人々には不気味さが残ったが、予言自体が未来の姿を変える事があるため、僅かな可能性が垣間見えたに過ぎないという考えに至った。


 イリアとメイドと食事をしながら得た破壊神の情報は以上だ。


 破壊神の情報は全く秘匿されておらず、都市伝説程度の信憑性で語られるものだった。


 この世界と無縁な私にとって唯一関連のある事象、それが破壊神だ。今の情報だけではどうしようも無いが、破壊神の予言をした人物の情報が得られれば、何か分かるかもしれない。


 そんな破壊神の話から他愛の無い話に移り、食事が終わる頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。


「じゃあ、そろそろ、げぇむの再開よね。わたしの手番だから始めるよ」


「どうぞ。ただし、あまり夜遅くまでやるつもりは無いから、月が真上に来たら今日のゲームは終わりだよ」


 私と違って血鬼の2人は睡眠を取る必要がある。明日は2人にやってもらう事があるので、休息は十分であってもらいたい。


「わかったわ。それじゃあ、わたしからの要求は、新月国が他国から進行された場合、その進行を一度だけ止めること。対価は新月国にある財の半分よ」


「ふむ。その要求は飲めないね」


「なんで! 対価が足りないって言うの!じゃあ、全財産が対価よ。それでどう? 」


「その対価でも飲めないね。一つ手掛かりをあげるよ。その要求を私が飲む対価をあなた達は持っている。ただ、今、提示されている対価は足りないんじゃなくて、違うんだよ。そのあたりを考慮して対価を考え直す事だね」


 その後、イリアは対価を提示し続けたが、私の求める対価に至る事はなかった。


 ――


 深夜になり、血鬼の2人は自分達で用意した寝床に入っていた。

 飛行艇の中を使っても良いという申し出をしたが、やんわり断られた。今も、1人が見張りで起きており、交代で睡眠を取るようだ。

 この場所が危険地帯だという事もあるが、まだまだ私への信用は深く無い。


「タコちゃん、術は上手く効いているみたいだね」


「今回の術は規模こそ大きいものの、術の効果を得るという点では単純だ。それよりも、刻印は明日になってからで良いのか? 」


「アレはね。演出みたいなものだから、異変に気づかれてからの方がイイんだ。時期は細かく伝えるから、その時はよろしくね」


「了解した」


 刀剣元帥軍への仕込みは終わった。後は拳闘元帥軍への対処だけだ。


 私は飛行艇まで移動すると、荷物から余ったユズカカーボンを取り出した。

 黒い棒状の物体を素手で成形して、拳大の丸い玉に作り変える。玉を破壊しないように握り込んで手型を付け、反対側に文字を彫り込む。


 黒い玉をモランに向けて投げる。砲弾のように射出された玉は、1分後に目的地に落ちた。


 今日出来る準備は以上だ。後は明日にならないと分からないので、星でも見て時間を潰す。


 空には立ちバック絶対拒否座が輝いている。どうしてこんな名前を付けてしまったのか、昔の自分の神経を疑いたい。


 昔の自分を思い出すように、星の光が太陽にかき消されるまで見ていた。


 ◇◇◆


「それで、モランの様子はどうかな?」


「斥候からの情報やと、大騒ぎみたいです。なんでも、軍の重要な士官は眠ったまま目を覚まさなくなり、眠った者の近くには『戦争を始めさせない。モランから退去せよ』という文字が残されているようです」


 モラン近郊で監視をしていたシキから連絡が入ったのは今朝の事だ。

 斥候をモランに入れたのは、竜越者の出方を見る為だ。情報の拡散を望んでいなければ、斥候はモランの士官と同じ目にあう。今のところは斥候に変化は無いので、情報収集を進めている。


 竜越者が知覚する範囲は恐ろしく広い。以前の戦闘で暗号文を兵器の配置で送った際、竜越者が認識した範囲は200猟圏にも及んだ。最大級の都市とされる柱城が5つ入る広さだ。


 姿の見えない竜越者を警戒するならば、凄まじい広さに兵を展開する必要がある。


 今回の件が刀剣元帥が居るバルタールに及んでいない事を考えると、竜越者は新月国側かモラン内部におり、武国の奥深くにはいない。


「シキ、竜越者は拳闘元帥の軍にも何かする。特にブラドの動きは、細かく追うようにしてくれないかな」


「既に5人組を付けてます。あそこには、グライドもおるから協力するように話しときますわ」


 一番把握しなければならないのは、竜越者の居場所と目的だ。


 竜越者は武国を出て欲国に入ったと考えられる。2日前に新月国で干渉してきた事を考えると、それまで何処で何をしていたのか知る必要がある。

 竜越者の後を追わないという約束事をこちらで用意した以上は、積極的に情報探索をすることは避けている。秘密裏に竜越者を追っても、必ず気付かれるだろうから、既にある情報筋から定常的な情報を集めるしか無い。


 数週前に欲国内で巨大空間術の反応があった。竜越者の術は探知する事が出来ないので、恐らく欲国の何者かが竜越者に向けたものと推測している。


 旧月光国関連であれば、欲国内で白鐘の家が出した依頼に対して、暗殺者が送り込まれている。

 暗殺者は冒険者によって撃退されており、白鐘の家の依頼は達成されている。

 依頼を達成した者はタニアという名で、以前に赤札までいった上級冒険者であるが、最近まで引退していた。

 冒険者タニアは5年程前にあった人狩で仲間を攫われ、4年前の新月国進行の際に奴隷となった仲間を失っている。この事件以降、タニアは冒険者を辞め、冒険者組合で働いたが、白鐘の家の依頼は何故か受けている。

 最近では新人冒険者と組んで依頼を受けているが、目立った動向は無い。


 タニアという冒険者と、欲国深部に繋がる白鐘の家は竜越者となんらかの関係があるのではと考えているが、確たる証拠は無い。


「シキ、怪しい匂いのする場所には権限を全て使ってもいいよ。竜越者の情報が最優先だ」


「お屋形様、わかりました。今回は狩人の仕事させてもらいます」


 ◆◇◇


 朝になり、モランは予想通りの大騒ぎになっている。あまりに正確に軍内部の要職者が狙われている事から、内部犯によるのではという噂が広まり、内部統制する者が不足しているため、疑心暗鬼はどんどん大きくなる。


 刀剣元帥軍はもはや戦争どころではない状態であり、元帥の居るバルタールという都市への指示依頼が殺到している。

 頭を失った群は脆いものだ。統制がとれているという事で、最大限の力を発揮する集団ならば、統制を崩せば機能しなくなるということだ。


 拳闘元帥軍は私からの招待状を受け取ったようなので、指定の場所まで来る算段をしている。

 問題は狩猟元帥のオビト達がモランに入り込んでいる。武国中枢に今のモランの状況が伝わる事は望ましいが、拳闘元帥軍の動きは察知されたくない。拳闘元帥が私の招待に応じなくなれば面倒だ。


 オビト達は一旦放置するが、邪魔ならば眠らせるしかない。


 血鬼2人は朝食を食べ終わり、既に高台にスタンバイしている。状況から察するにモランの様子には気付いていない。血鬼の手の者をモランに放っているようだが、リアルタイムの情報共有は出来ないようだ。


 私は高台まで移動した。


「おはよう。今日もいい天気だね。早速ゲームといきたいどころだけど、モランに動きがあったので、そちらの間者にモランの状況を確認してもらっていいかな?私から伝えても信憑性ないでしょ」


「はぁ? いったいどういうこと? モランの情報を確認するのは、すぐに出来ないの。準備が必要よ」


「血鬼術の増幅器を使うんでしょ。私にはもうバレてるから、気にせず使っていいよ」


「ぐっ! あいかわらずなんでもお見通しね。いいわ使ってあげるわよ。ちょっと待ってなさい」


 そう言い残すと、イリア達は寝床の方へ引っ込んでいった。


 ―


 しばらくして、イリアとメイドが青い顔で戻ってきた。


「モランがめちゃくちゃになってる。一夜でこんなことになるなんて信じられない」


 イリアはそう言い残すと、力なく石の椅子に座った。


「武国は戦争どころじゃ無くなったでしょ。これで戦争の半分は止まった。後残り半分も止めるよ」


「もはや、何が起こっても不思議ではないけど、拳闘元帥ブラドは軍が無くても攻めてくるわよ。刀剣元帥と同じ手段は通用しないわ」


 どちらの味方なのかよくわからない物言いだが、イリアの言葉は正しい。

 拳闘元帥は、純粋に戦闘を好む人物だ。眠らせて遅延させても、必ず戦争の火種となる。


 だからこそご招待しているのだ。


「良く知ってるねイリアちゃん。その通りだよ。たがら今から拳闘元帥を殴りに行こうか」


 私の言葉で2人は固まってしまった。







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