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月禍脱出3

 私は血鬼達に恐れられている。


 自己紹介と反省を兼ねて、彼等の攻撃を真っ向から受けた事が、予想外の効果を発揮したようだ。


 一度同じ事をタニアにやったが、どれぐらい強いのか分からないという評価だった。

 タニアは冒険者の中では強い部類に入るが、強さに固執するタイプでは無い。

 一方で血鬼達は強さにコダワリがあったのかもしれない。強者は更なる強者を受け入れる事には抵抗感があるものだ。


 私は彼等のプライドを踏み躙り、尊厳を破壊したのかもしれない。


 そう考えると、私は彼等にとって悪辣な侵略者であった方が都合が良いのだろう。

 強さを見せつけた奴が、何も奪わない何も壊さないという事は、かえってストレスを与える。


「貴方達が戦争するなら相手は私になりますよ。まさか戦争しようとは思わないでしょう?これは貴方達から戦争するという権利を奪ったという事です。私の目的は達せられましたので、他に必要な事はありませんよ」


「私達に無条件で降伏せよという事ですかな? 戦わずして滅ぶならば、戦って滅ぶまでです」


「戦争を始めさせないという言葉は、貴方達だけで無く川の向こう側に居る者達にも当てはまるのですよ。私が居る限り戦争は起きません」


「確かに貴女ならば武国の軍を止められるかもしれません。しかし、そうなる保証も理由もありません。あるのは私達が戦えないという事実だけです。戦えないのであれば、私達が生き残る道を与えて頂きたい。貴女が欲する物はなんでも差し出します。どうか私達に少しでも価値を見出して欲しいのです」


 血鬼達の絶望は、自分達の存在が取るに足らない物と判断されたという、被害妄想から来ているようだ。


 戦争を止める為の抑止力として自分を使用したが、相手からは存在否定と取られてしまった。

 血鬼達は私という存在をより正確に見積もってしまったのだ。


 こうなってしまったら、少しずつ誤解を解くしかない。

 私は力は強いが誰の命も奪うつもりは無い。と言うより、恐ろしくてそんな事は出来ない。


 そんな大した事の無い存在なのだ。


 血鬼達は存亡の危機と勘違いして、冷静な判断が出来なくなっている。

 私の行動原理や思考を体感してもらい、私を侮るようになってくれれば幸いだ。


「では価値があるか見せてもらう為、貴方達の1番大事なイリアさんという方に同行してもらいます。そうすれば、私が武国に対しても不戦を強いるという事実が分かるだろうし、貴方達の事も良く理解できる」


「人質を取るという事ですかな? 貴女が求めている方は私達にとって、拠り所であり希望だ。失われれば私達は滅びたに等しい。貴女の要求を断れない以上は、こちらから護衛を1人付けさせて頂きたい」


 大事な人の割には簡単に許容したものだ。絶望の淵に止むに止まれず大事なモノを差し出した形だが、何も喋らないメイドの感情は異なる。

 血鬼は感覚を共有する事が出来る。交渉役には情報を制限し、迫真の感情を出させる。メイドは完全に情報共有がなされており、地下に情報を送り続けている。

 この一連の交渉劇は地下に居るイリアという少女によってコントロールされている。


 見た目とは裏腹にあの少女は、かなりの策士なのだ。

 最終的に自分が人質になる事を目的としていたようなので、私から率先して切り出してやった。


 地下の策士も、少し肝を冷やしたようだ。


「同行者は何人でも構いませんよ。後、貴方達の名前を教えてもらえますか? これから行動を共にするなら必要でしょう?」


「アンドレイです。月光国の王家で執事長をしておりましたが、今は地下聖殿の番をしております」


「エリザベェータ」


 頭皮の顕な紳士は予想通り執事で、メイドはよく分からない。

 イリアという少女から愛称で呼ばれていた事から、2人は親しい間柄なのだろう。


「3日ほど出掛けるので、イリアさんとお供の方に用意をしてもらって下さい。私はこの宿で待ちますので、明日の朝までに来て下さい。来ない場合は、私1人で出発します」


 要件を伝えると血鬼の2人はあっさりと帰っていった。


 あまり経験の無い私とタコちゃん以外に同行者のいる移動だ。

 私は以前から構想だけはあった移動手段の作成に着手することにした。


 ―


 ベリルの町には、以前の武国進行があった際に発生した、瓦礫の山がいくつも残っている。


 再利用可能なモノは、廃材を扱う商人が商品として扱っている。


 私が目を付けたのは、飛行艇の客室部だけという廃材だ。

 既に客室内の調度品は売り払われており、中はただの箱という状態で放置されている。


 地上で住むには小さく、かと言って飛行艇に戻すような事が出来る設備は残っていない。

 建材としての流用性も引くく、雨風にさらされて朽ちていくばかりのモノだ。

 廃材商の話では、持っていくなら無料で良いとの事だった。


 私は夜の闇に紛れて、客室部を担いで運び、少し開けた廃墟跡に移動させた。


 他に無料で手に入れた廃材で内装を整え、老朽化した箇所を補強した。

 釘や補強材は、炭を私の素手で握り込むことによって作る炭素材を使用する。

 私の掌内は故郷のどんなプレス機にも負けない圧力を生む。炭素を高圧で圧縮して生み出すユズカカーボンは、中々優秀な素材なのだ。


 ほぼ炭代だけで再構築した飛行艇客室は中々の仕上がりだ。新幹線のグリーン席くらいのゆったり感で4人座れる広さがある。

 椅子はユズカカーボンでフレームを構築したリクライニングシートだ。クッション素材や表面の布は現地調達のアリモノだが、レトロ感が出ていい感じだ。


 この客室部をタコちゃんの重力制御術で浮かし、遮蔽術で隠す。

 タコちゃん分体で覆うと、因果隠匿に内包され、内部の生物は発狂してしまうので、今回は外用術で対応する事にした。


 既に飛行試験も完了しており、ユズカカーボンの補強で、時速800㎞に耐える事が出来た。

 推進力は当然、私の吐息であるユズカブレスだ。


 興が乗った私は、すっかり朝まで飛行艇作りをやってしまい。宿はただの荷物置き場となってしまった。


 ―――


 朝になり、赤いスープの激辛朝食をとっていると、青い髪を腰まで伸ばした少女と、無愛想なメイドが現れた。

 青髪の少女は、スリットの入ったホットパンツに皮製のチューブトップという、圧倒的な露出を推した出で立ちだった。

 ここが熱帯で湿度も高ければ、あり得なくは無い姿だが、ベリルは雪国だ。まだ、積雪は無いが、道行人は防寒を主とした服装だ。


 少女の露出が止まらないのは、少女の体温にある。常に40度近い温度を維持しており、発汗も顕著だ。特殊な血鬼だという事は明らかだった。


 主人のせいで霞んでいるが、メイドの紫髪も中々目立っている。アップに纏めた感じが、紫芋のソフトクリームを思い出させる。


「おはようございます。イリアです」


 特に個性は感じ無い、年相応の挨拶があった。

 これで、中々策士なのであるならば、本性は別にあるのだろうか。

 血鬼は長命の傾向にあるので、実年齢は良く分からない。


「おはようございます。イリアさん、エリザベェータさん。早速出掛けますので、荷物を持って付いて来て下さい」


 イリアとエリザベェータはそれぞれ荷物を持って付いて来る。

 2人の関係は、主従というよりは友達に近い。エリザベェータが礼儀をわきまえてはいるが、ある程度対等なようだ。


 飛行艇の客室部がある場所まで案内すると、2人共キョトンとしていた。

 想定していた反応だ。飛行部の無い飛行艇に乗って、何の意味があるのかと思うはずだ。


「中に乗って下さい。荷物は奥の収納へ入れて、席に座って下さい」


 私は淡々と行動を促し、2人を客室に入れ、飛行の準備を始めた。

 客室上部にはタコちゃんが張り付いおり、重力制御と遮蔽を展開する。


 重量制御が始まると、客室部はフワリと空に浮かび始めた?


 姿勢制御や飛行は、ユズカブレスで行うので、ユズカカーボンの管を船体に配置して、ハーモニカのような吹き口で制御する。


「うわっ! 浮かんだ! これ重力制御術だ! 」


「イリア様、座って下さい。転びますよ」


 イリアのテンションが上がり始める。メイドは主人を宥めるのに必死のようだ。


 私達の乗った飛行艇は、飛行部無しで上空6000mに至っていた。


 水平方向のスラスターから空気を噴射して、一気に加速する。


 加速に掛かるGでイリアとエリザベェータは座席に張り付けられ、客室内は静かになった。


 ―


 飛行は巡航になり、客室内は安定した状態になった。


 2人は、借りて来た猫のように大人しくなり、シートに張り付いたように座っている。


 先程の加速を警戒しているのだろう。


「もう歩きまわっても大丈夫ですよ。地上に降りる時には、もう一度同じような事があるので、その時は席に座って下さいね」


 イリアが恐る恐る立ち上がると、客室内を見学し始めた。

 ユズカカーボンには興味があるようで、何か探知関連の術を使用しているようだった。


 ユズカブレスの吹き口がある、客室先頭あたりまでイリアが近付き、私の前で立ち止まった。


「この船はあなたの息で進んでいるんですか?」


 単純な好奇心から来る質問のようだ。


「そうですよ。この吹き口から息を入れて、推進、姿勢制御をしています」


 イリアは、一瞬ポカーンとした表情をしたが、直ぐに何かに気が付いたように、瞳を見開いた。


「あなたはやはり神人しんじんなんですね。血鬼の歴史でも、神人しんじんにあった者は居ません。初めて神人しんじんに出会えて感激です」


 イリアの口から思わぬ名前がこぼれた。

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