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森林脱出6

 地面が見える。



 どうやら、うつ伏せに倒れているようだ。


 何日か経過したのか、全く時間が経っていないのか不明だが、時間は午後三時頃といった感じだった。


 体に全く違和感がない。


 血の一滴も溢れていない。


 お胸の果実が無くなっていたので、恐らく落下の衝撃で破損したのだろう。

 下着に汁べったりかと思ったが、きっちり全て消滅するようだ。


 そもそも着ているものに、汚れが全くつかない。結構歩いたりしているが、服は綺麗なままだ。


 そんなことを考えていると、携帯端末の画面が割れていることに気づいた。故障か電池切れか不明だが、電源が入ることは無かった。


「やってしまった」


 貴重な文明品を破壊してしまったことに後悔したが、私の装備は消滅と再生のルールが適応されないことがわかった。



 とりあえず補給のために、球体のある場所まで戻ることした。



 ーーー



 球体になんの変化もなかった。


「ただいま、セーブポイント」


 遂にもの言わぬ物体に話しかけてしまった。

 昔見た映画に同じようなシーンがあったことを思い出した。今なら彼の気持ちがよくわかる。


 とりあえずあの球体はセーブポイントと呼ぶことにした。


 もうじき完全に陽が落ちるので、今日のところはもう休むことにした。例の果実を囓りながら、明日のことを考えた。

 私以外の存在を探すには、歩き回るしかない。

 とりあえず今いる広葉樹林帯を手広く探索して、別の果実の木を見つけることにした。


 拠点を増やす作戦だ。


 30メートルの岩から落ちても大丈夫な再生能力が備わっているのであれば、多少の無茶が出来る。

 ひとまず景色に変化があるまで歩き続ける考えだ。



 色々と明日のシミュレーションをしているうちに眠くなってきたので、昨日寝た辺りで眠ることにした。


 そう言えば、色々と再生されているのに空腹や眠気はやってくる。後一個の欲求はどうなっているのか考えているあたりで眠りに落ちた。



 ーーー


 また、自分の部屋に居た。


 どうやら意識がない場合、ここに来ることが出来るらしい。頭の中の回線が別なのだろう。


 睡眠中に夢を見るのは、記憶の整理をしているからと何かで聞いた覚えがあったが、案外正しいようだ。


 定位置に座ると、テレビの画面が変化した。


 過去私が行ったであろうエロブラウジングの履歴が新しい順に表示されていた。


 寝る前の思考が反映されたのだろう。


 思わずローテーブルに額を打ち付けてしまった。

 居た堪れない恥ずかしさがそこにあった。


 画面をそっ閉じして寝室のベッドに潜り込んだ。


「もう寝る」


 ーーー



 瞼の裏で光を感じると、バチっと目が覚めた。


 日の出と共に起き、日の入りと共に寝る。

 かなり自然派なライフサイクルになってきた。



 会社に行く訳ではないので、起きたら果実を食べて即行動を開始した。化粧不要の生活は楽で良い。


 果実の装備も完了した。

 私のアイテムストレージは容量が4しかないのだ。ゲームだったら不具合レベルの駄目設定である。


 今回は大樹とは真逆の方角に進むことにした。


 目印があの大樹しかないので、あれを基準に移動する他なかった。


 とにかくズンズン進んだ。


 大樹が次第に遠くなり、徐々に見えなくなっていった。果実の木は一本も無かった。やはりセーブポイント付近が特別なようだ。


 完全に大樹が見えなくなった頃、景色に変化が現れた。


 周囲に背の高い木がなくなり、見晴らしが良くなった。


 遠くにバオバブ的な木が群生している。


「ん?」


 見覚えのある景色だ。


 大樹の上から見た西側の景色に酷似している。


 確認のため景色の変わった方へ移動した。

 バオバブ的な木が次第に近くなると同時に、遠くに特徴的なフォルムの大きな木が見えてきた。


 一旦状況を整理するため、背の低い木の陰で果実を食べた。

 果実の芯を地面に落とすと音もなく消え、手近に生えているクローバーみたいな草を千切ると、再生が起きた。

 この手の確認はもはやルーチンワークだ。


「西と東が繋がってる?」


 ありえないことだが、すごく小さな惑星に居ることになる。

 だがそうすると太陽の傾きとか、重力とか色々おかしい。

 重力十倍なのだろうか?蛇の道を踏破した覚えはない。


 全く同じ地形が互い違いに敷き詰められていると考えた方がしっくりくる。


 あの大樹は同じ形だが別物の大樹2号なのだろう。


 結局行ってみるしかないので、進むことにした。


 最悪、果実の木が向こうにない場合、同じ行程を戻る必要がある。余力は残しておくことにした。


 途中、バオバブ地帯を通った。木の形状は珍しいが特に何がある訳ではなかった。


 大樹が徐々に迫って来た。

 以前奇岩の上まで登った反対側までやってきたわけだが、以前と何も変わっていない。


 奇岩を迂回すると、登頂用スロープもそのままだった。


 空は夕暮れ色に染まっていた。

 かなり長い時間歩いたが、体には何の変調もない。疲労も全くない。


 最後の確認を行うため、再び広葉樹林に入った。

 この場所では比較的慣れた道のりだ。


 そして果実の木を見つけた。


 欠けている果実の数は3個だ。

 試しに一つ食べてみると、果実が一つ再生した。


 セーブポイントもあった。


 私の居る世界は、どうやら思ったほど広く無いらしい。オープンワールドのゲームでも、もう少し広いくらいだ。


 いよいよ世界がレトロゲームじみてきた。


 私は狭い世界に閉じ込められている。




「ここは脱出ゲームの中というわけか」




 何かが私の中で噛み合った気がした。



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