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欲廻脱出20

「タコちゃん、緊急事態なので100倍速で話すよ」


「了解した」


 リュー君に初めて出会って以来の高速会話だ。


 先程現れたアレは、神人しんじんに関わる何かに違い無い。

 問題は因果隠匿の影響下にある私を探しているという事だ。


 アレが現れた位置と、今現在の動作から察するに、私をまだ認識していない事が分かる。

 こちらに接近するでも無く、施設に降りるでも無く、フワフワしている。


 形状は人型だが、内部構造は全く異なるナニカだ。生物のようであり機械のようでもある。

 生命を維持するような内部構造になっていない。まるで外部からのコントロールされているロボットのようだ。


 術は恐らく使用している。

 あの施設の上空に留まるために、周囲の空気が不自然に渦巻いているのだ。

 黄金竜が飛行していた理屈に近い何かで宙に浮かんでいる。


 アズルスはアレの出現に全く気がついていない様子だ。

 恐らく神人しんじんに関わる要素として、役割が異なるのだろう。


 アレは神人しんじんを探したり干渉したりする存在に対して、反射的に生じる仕組みなのかもしれない。


「タコちゃん、神人しんじんが何か行動を起こしたみたいだから、今私が持っている情報を全部伝えるね」


 今この場に居るのは、タコちゃんの分体だけだ。私の知覚ギリギリに居るナニカをタコちゃんが認識する事は不可能た。

 高速会話と岩モニターを使って、私の知り得た情報をタコちゃんに送る。

 状況を伝えていないタニアは、混乱して怒鳴っているが、今は一刻を争うので、しばらく放置する。


 ナニカの仮称を神兵として、姿形、持ち得る力、状況、今後の対策案をタコちゃんに全て伝えた。


「タニア、アズルスには気付かれてないけど、神人しんじんに気付かれたみたい。リュー君を連れて来てほしい。後、移動出来る用意はしておいて」


「任せろ」


 タニアの素早く離れる足音から、状況を察してくれた事が伝わった。

 最悪の事態となり、タコちゃん、リュー君、タニアに神人しんじんが迫る事になれば、三人には転移術で武国の白竜山脈まで逃げてもらう予定だ。


「ユズ、神兵は我々の存在を認識しているわけでは無いが、アズルスに何らかの害意が向けられた事に気付いたようだ。恐らく我々のような隠匿術を使用した相手からの攻撃を事前に対策している」


「私はタコちゃんの因果隠匿で、誰からも存在に気付かれない理屈はよくわからないけど、竜やオビトがタコちゃんには気付けないけど、分体によって造ったユズツーは認識出来たと同じなのかな?」


「理屈の上ではユズの言うとおりだ。因果隠匿は我々と観測者の間に発生する因果を断つ。我々は認識される事は無く、行動や術行使の結果さえも、別の要因に書き換わって認識される。だが、他者の意思に起因する行動は、その行為自体が隠される事は無い」


「因が私であるから、タコちゃんの存在は隠れても、果であるアズルスへの暗示術は認識可能なわけだね」


 神兵に認識されているのが私だけならば好都合だ。向こうの三人が逃げる事も容易だろう。


 神兵は私が通って来た空間に何かしている。施設から私付近までの空間が見えない何かに覆われる。

 私はその内部に囚われる事は無かったが、広大な範囲が見えない壁によって隔離された。


「空間断絶術だ。高位術を広い範囲で使用しているので、神兵が持つ術力は外界の生物単体よりも多いぞ。オビトの使用した黒い巨大術具に匹敵する術力だ」


 神兵は顔に空い穴を大きく膨張させる。まるでクジラの口の様に開いた穴は、断絶した空間の内容物を飲み込み始めた。さらにこちらに向かって高速移動も開始している。

 約3分後には、私の居る場所へ到達する。


 行動から判断するに、私の通った痕跡を探る手段を神兵は持っている。

 ただ、空間を飲み込みながら進行して来るという事は、私の正確な位置は分かっていないという事だ。


「タコちゃん、神兵がこちらに向かって来ているから、近くなったら術に関する情報を教えてね。特に私を探知している方法が知りたいかな」


「了解した。ユズを探知した方法は、恐らく熱記憶と空間記憶でユズが推進力に使った空気の流れを追ったのだろう。他の探知術も検知すれば伝える」


 探知方法さえ分かれば逃げ切る事が出来る。今も因果隠匿は機能しているから、追加情報さえ与えなければ私の行方を知ることは出来ない。


 一つ気になる点は、神兵が発見した敵対者を探しきれないまま、諦めてくれるのかという事だ。

 今あるタコちゃんの分体量ではユズツーを造れないので、身代作戦も出来ない。

 仮に出来たとしても、今度は私を覆う分体が無くなるので、存在がはっきりと露見してしまい、追跡を断つ事は出来なくなる。


 神兵が諦めてくれる事を祈るしかない。諦めない場合は最終手段に出る。


 神兵は断絶した空間全てを飲み込み、私の100m前で停止していた。


 私は推進用のユズカブレスが探知要因と聞いているので、今は空中で完全停止している。

 何もしなければ、因果隠匿で完全に隠れる事が出来る。


「ユズ、神兵の頭部にある穴は、別空間への門だ。常に転移術を展開して、対象物を取り込むと同時に、術に使用する術力が供給している。あの門の先に神人しんじんが居る可能性は高い」


「空間ごと飲み込んでいるから、先にはそれ相応の罠がありそうだね。今は門の先を警戒しておいてね」


 タコちゃん的には神人しんじんの正体に迫りたいだろうが、戦力の分からない状態で攻めるべきではな無い。


「神兵が再び空間断絶を使用するぞ。かなりの範囲を巻き込むつもりだ。ユズの能力ならば脱出可能だが、掛かる力に分体は耐えられない」


「タコちゃんの分体を巻き込んじゃうけど、中に残るね。危なくなったら最終手段を使うから大丈夫だよ」


「了解した」


「タコちゃんも危なかったら、私を気にせず逃げてね。神人しんじんの正体を攻めるのもありだよ」


 神兵が広範囲の空間を隔離する。今回は地面も範囲に入っているので、地面に深い溝が走った。


 このまま、中身を全て吸い込むのだろうか?範囲が前回の比ではないので、吸い込むにも時間がかかる。


 神兵は吸い込むのでは無く、空間内部の温度を急上昇させた。

 空気は一瞬で燃焼し、地面の岩肌はジリジリと音を立てて白熱化する。


 なるほど、敵対する相手を生存させるつもりは無いようだ。


 タコちゃんの分体はこの高温空間に耐えられるようで安心した。私は言うまでも無く何の影響もない。


 神兵のオーブン攻撃はしばらく続いたが、特に成果を得られなかったのか、攻撃手段を変え始めた。


 高温の次は低温、強酸性ガス攻撃、空間断裂によるシュレッダー攻撃と手を変え品を変える。


「ユズ、そろそろ分体の耐久が限界だ。次の術で分体が崩壊し、ユズへの術も切れる」


「わかった。最終手段を使うよ」


 私の最終手段は、相手を力でねじ伏せる事だ。振動エネルギーを込めた拳で相手を殴るただそれだけだ。


 タコちゃんに襲いかかって以来、初めて何かに攻撃をする事になる。


 周りを気にせず振動エネルギーを解き放つ事は出来ない。タコちゃんの分体を破壊してしまう。

 私の体の芯に振動エネルギーを閉じ込め、神兵に針のような鋭さで叩き込まなくてはならない。


 タコちゃんの分体能力を借り、重力制御によって神兵の正面へと移動する。


 飛行モードの球面に穴を開けて、私は右腕だけを外に出した。

 神兵からは、いきなり腕が生えたように見えただろう。


 私は握り込んだ拳を神兵の穴へとねじ込んだ。


 以前タコちゃんから聞いた転移術の仕組みでは、私という巨大な存在は門を破壊するため、転移出来ないという事だった。

 神兵の力の根源は、顔の穴である転移門なのだ。そこに私が振動エネルギーをと共に入り込めば、結果は明らかだ。


 私の込めた振動エネルギーを神兵の門の先に流し込み、門自体は私の右腕が入り込む事で、あっさりと破壊された。


 周囲を覆っていた隔離空間は消滅し、真空状態だった内部に空気が流れ込み、凄まじい突風が吹き荒れる。


 神兵は体が白く枯れたようになり、発生した突風でバラバラになってしまった。


「ユズ、神兵の術によって、周囲の熱記憶と空間記憶は大いに乱されている。姿を隠すならば、今移動するべきだ」


「タコちゃん、ちょうどいい風が吹いているから、風を受ける形状になって移動しよっか?」


「了解した」


 飛行モードに風を受ける用の膜を張り、風に乗って帰る方向へと向かう。


 神兵の追撃は無いようだ。


「ユズさん!大丈夫ですか?」


 タニアは予定通りリュー君を連れて来てくれたようだ。

 タニアの事なので、最悪の事態想定でリュー君に情報が伝わっているはずだ。心配そうなリュー君の声がそれを物語っている。


「心配かけてゴメンね。割と大した事なかったよ。今から帰るから、待っててね」


「はい…」


 これは私が生きるか死ぬか的な内容が伝わっている気がする。


「なんだ。あっさりヤリやがったのか。お前が神人しんじんを気にしてやがったから、どんな奴かと思ったら、楽勝なのかよ」


「楽勝ではあったけど、私以外の誰かに相手をさせる訳にはいかなかったかな。私が行って正解だよ」


 神人しんじんはタコちゃんのような存在の対策すらしていた。今後も気を付けなくてはいけない。


 私は神人しんじんに腕だけとは言え、存在を認識されたのだ。しかも、戦線布告という形でだ。


 私の力はやはり世界に向けてはいけない。その思いは変わっていない。

 ただ、一つ疑問が生まれた。この力は何に向けるためにあるのか、何者のどんな意図なのか。


 私の中に答えの出ていない事象があり、それが小さな私を少しずつ蝕んでいた。

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