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欲廻脱出17

 ◇◇◆


 タコさんの銀の腕が輪になると、凄まじい術力が込められる。

 とても僕では扱う事の出来ない、奇跡のような術が発現する。


 輪の中の景色が歪むと、中から背の高い人が現れた。

 茶色というよりは赤に近い髪を頭の後ろでまとめて、髪と同じ色の瞳をしている。


 咄嗟に探知で調べてしまったが、気にする様子は無いようだ。


 布に包んであるが、細長い荷物は剣だ。

 手足は太く、森の動物と同じくらいの力はありそうだ。

 力は強そうなのに、凄く静かに歩く。

 まるで狩で他の動物を殺す獣のように、足音がしない。

 後は、女の人にある胸のでっぱりが大きい。


 赤い髪の人は、僕を見た後、直ぐに星を見ていた。

 ユズさんが前言っていたが、星で自分の居る位置を確かめる事が出来るらしい。

 この人も場所を確認しているのだろうか。


 風貌や仕草から、本で読んだ冒険者に似ている。

 この人は、冒険者なのだろうか。


「お前がリューンクリフか?」


「そ、そうです。あなたは誰ですか?」


「あたしはタニア。ユズカの知り合いだ。タコって奴は見えないと聞いているが、ここに居るのか?」


「居ます。あなたの後ろに」


 タニアと名乗った人は、背後をチラッと見ると、近くの石に腰掛けた。


「あたしには全然わからん。まあ、見えないし話しが出来ないんじゃ、挨拶は無理だな」


 僕にはタコさんを見ることが出来るが、他の人には出来ないと聞いている。


「あなたは冒険者なんですか?」


「元冒険者だ。今は冒険者組合でメシ作ったり、酔っ払いを追い出したりしてる。どこにでもいる給仕人だよ。リューンクリフ、お前はここで何をしてるんだ?ここは危険地帯なんだ。冒険者だって入りたがらない。子供が居ていい場所じゃねぇぞ」


 僕を見る目は変わらないが、急に声が引くなった。目の前のこの人が、恐ろしいモノに変わったように感じる。


 僕が怖さで体を硬くしていると、空から飛んで来る丸いモノを探知した。

 特徴から、タコさんの一部であることがわかった。


 丸い物体は少し離れた川の辺りに降りると、中からユズさんが出て来た。


 ◆◇◇


「やあ、タニアにリュー君、揃っているね」


 タコちゃんボール型隠密航空形態の試運転を兼ねて、ヤクトから急ぎ飛んで来た。

 タコさんの因果隠匿が機能するので、ヤクトのど真ん中から堂々と離陸して、最高速度で帰って来た。片道2分の行程だ。


「ヤクトから来るの早くねぇか?転移術は使えないんだろ」


「飛んできたんだよ。タニアがリュー君をいじめないようにね」


「いじめてねぇよ!それよりこの場所はどうなってんだ?危険地帯なのに獣の気配が全くしないぞ」


 タニアにしてみれば、納得できないことばかりだろう。私も立場が逆なら、警戒せずにはいられない。


「危険地帯でも、強い獣がいる場所には他の獣は近づかないでしょ?ここも同じだよ。まあ、正確に言うと、獣が逃げ出す音を出しているんだ」


「転移術なんてもんを軽く使ったかと思えば、危険地帯で通用する獣避けかよ。とことん非常識な奴だな」


 私もタニアも強めの言葉を使っているので、リュー君がハラハラしている。あまり心配をさせてもかわいそうなので、本題に入る事にする。


「タニアには後で細かい事は説明するよ。術具が動き出しそうだから、追跡を開始するよ」


「お前、連絡手段はどうするんだ?木霊笛なんて高級品はねぇぞ」


「そうだねぇ。タニアの座っている岩を使おうか。ちょっとどいてね」


 タニアが岩から離れると同時に、タコちゃんの分体には岩に入り込んでもらう。

 ゴツゴツした岩の上面が、鏡のように平らになる。


「この岩で私と会話できるし、私から映像を送ることも出来るよ。こんな感じに」


 私から手動で入力した情報をタコちゃんが岩の上面にそのまま表示するという手法だ。

 ようは、テレビと同じ仕組みだ。映像情報を信号化して、それをタコちゃんに伝える。タコちゃんは、岩を媒介にしたモニターとして、信号を映像化する。


 今私が見ているリュー君の像を岩に投影している。


 音声の伝達も可能で、岩と私の服というタコちゃん分体が入った物の間で、連絡が可能になる。


 映像は一方通行だが、音声は双方向だ。


「わあ、僕が岩に写っています!」


 リュー君は子供らしい反応を見せているが、タニアはポカーンとしている。


「これで連絡手段は問題ないよね。私は急ぐからこっちはよろしくね、タニア」


 私は球体飛行モードに移行すると、ヤクトの空港目掛けて飛び上がった。


 ―


 私の追跡は順調だ。完全に姿を消した状態で、術具が乗っている飛行艇と並走している。


 一つ気になることと言えば、球体飛行モード中は、内部の私が全裸だということだ。

 服を変形させて、某戦闘民族の小型宇宙船のような形状にしてあるので仕方の無いことだが、マジックミラー号のような背徳感がある。


「おい、ユズカ。お前がむちゃくちゃなのはわかったが、追跡は大丈夫なんだろな?絶対に気づかれるなよ?後、独断で無茶すんのも禁止だからな!」


 タニアからは質問責めにあったが、なんとか納得してもらった。

 ヤクトの地下室で、私のポテンシャルは洗いざらい話したつもりだったが、どうやら話半分に聞かれていたようだ。

 目の当たりにして、ようやく信じてもらえたようだ。


「わかっているよ。それより、あの飛行艇は正規航路に全く沿ってないね」


 岩のモニターに、正規航路図と現在の航路を重ねて表示しながら説明する。


「特権階級の奴らが使う、独自の航路だろ。普通の商船がやったら厳罰ものだ」


 飛行艇の航路は、全て経路が決まっており、違反したものは飛行艇の没収と禁固刑が待っている。

 街道にある航路塔と飛行艇で通信がされており、航路違反はすぐにバレる仕組みになっている。


 特権階級とは、高額納税者の事だ。

 王と行政を補佐する賢人会という組織の構成も、王選の年までに積み上げた納税額で決まる。

 王選と税金を管理する王の秤という組織も特権階級に属する。


 欲国において、王、賢人会、王の秤は雲の上の存在だ。

 法は特権階級より下に適応される。最も欲深き者が全てを制する国、それが欲国だ。


「向かう先に大きな都市は無いね。地図に無い施設に向かう感じかな」


「上の奴らは、秘密の居城くらい持っているだろ。後は王の秤が金を貯めこんでる金庫かもな」


 一般に流通している地図には描かれていない施設というものは多いそうだ。


「そういえばユズさんは何をしに行っているんですか?」


 良く考えたらリュー君には何も説明していなかった。理由はリューの暗示を解くためなのだが、本人には説明しずらい内容だ。

 場合によっては国家に喧嘩を売ることになるので、リュー君は気負ってしまうかもしれない。


「あたしの探し物を手伝ってもらってんだよ。あんまり口外出来ない物だから詳しい事は言えねぇが、危ない橋は渡らさせねぇつもりだ」


 タニアが自然にフォローを入れてくれた。やはりタニアのお節介レベルは高い。一個借りができたようだ。


 もうじき、タニア、リュー君、タコちゃんが私の知覚圏内から外れる。

 ここから先は音声による連絡のみとなる。私としては知覚圏内に三人がいない事に不安を感じる。


  いつの間にか、私は自分の能力に依存していたのだ。

 相手の全てを把握していなくては不安で仕方ないなど、あまりに傲慢だ。恐ろしい思考ですらある。


「ユズさん、危ないことはしないで下さいね」


 音声だけのリュー君の言葉は、冷ややかに聞こえた。


 私はやはり小さな存在なのだ。まだ、何も信じられないでいる。


「余計なことすんなよ。早く終わらせて帰って来い」


 タニアはどこまで見切っているのか。確かに今の私は早く帰るべきだ。


 ――


 リュー君は発作などもあり、先に寝てもらった。


 飛行艇は、岩山の頂上にある円筒形の巨大な建物に向かって、既に着陸態勢に入っている。


 建物の内部は、多くの金品が収められた倉庫のような構造をしている。

 中にいる人の数は50人にも満たない。多くの荷物を運び、様々な肉体労働をこなしているのは、石で出来たゴーレムのような人形だ。


「そいつは機兵だ。並みの金持ちじゃ、持つことすら出来ない高級品だぜ。性能も恐ろしく良くて、武国との小競り合いで負けないのは、機兵の戦果らしいぜ」


 タニアによると、機兵は警戒すべき相手のようだ。私にとっては、大きめアクションドールといったところだ。


 術具は、施設の深部へと運ばれてる。私の認識ではガラクタ置き場にしか見えないが、術具に取り付いているタコちゃん分体からの情報によると、全て精度の高い術具だらけの場所だそうだ。


 施設の奥に居る、異彩を放つ人物を発見した。


 スキンヘッドと太い黒眉の特徴的な、ムキムキマッチョおじさんが、ゆったりとした法衣のような服を着て、くつろいでいる。


 周りにいる人々は、彼の事を無意味な単語で呼ぶ。まるで正しい名前を知らないかのような振る舞いだ。皆、彼を正しく認識出来ていないという印象だ。


「ユズの見つけた人物からは、高位の認識改変術である論理迷宮の反応がある。恐らく文明界の術士にはありえない能力を持っている」


「そいつの顔は見たことあるぜ。前の王のときに賢人会に居たアズルスって奴だ」


二人とも彼には並々ならぬ印象を持ったようだ。


しかし、私が持った印象は違う。


彼の体の中には見慣れない臓器がある。脊椎に直接繋がった握り拳3個分ほどの大きさのサヤエンドウのように




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