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猟域脱出13

 今日はここ数日で一番いい天気になった。山の天気は変わりやすいと言うが、この世界でも同じようだ。

 まだ、嵐が来たり霧に包まれたりと天気は目まぐるし変化した。付いて来ているオビト黒マント12人衆はなかなか不憫な感じだ。

 不憫と言えばうっかり捕まえた茶トラのオビトも眠りっぱなしで数日過ごしいる。

 タコちゃんの触手が色々な所に接続される事で、この状態でも一カ月くらいは健康体を維持出来るらしい。

 タコちゃんの能力は医療面でも万能のようだ。実は出来ない事なんて無いのかもしれない。


 そろそろ白竜山脈登山も終わりに差し掛かっている。辺りは山林地帯という感じで、広葉樹の緑に彩られた美しい渓谷が続いている。

 後少し行けば、隣国に繋がる荒野に出る。荒涼とした草地に、誰が転がして来たのか不明な丸っこい巨岩がゴロゴロしている。

 あまり起伏も無く、野生動物が食物連鎖に勤しんでいるばかりだ。


 広葉樹の林が途切れ目の前に広大な草地が広がった。この世界の人達は土地に興味がないのだろうか。平な土地がこれだけ広がっているなら、農地なり牧草地ならやりようは幾らでもある気がする。

 人が生存出来ない何かがあるのだろうか。


「妙に広い土地だけど、誰も住んでないね。 私には知覚出来ない術的な害がある場所なのかな?」


「害は無いがこの辺りは地脈が枯れている。文明界では地脈を利用して都市という大きな仕組みを動かしている。地脈の枯れた土地は文明界人にとって価値がない」


 土地の良さは地脈の有無が基本らしい。土地が広大に開けていても地脈がなければ0点のようだ。

 ちなみに地脈とやらを私が知覚することは出来なかった。今まで進んで来た白竜山脈には地脈ががっつりあったそうなのだが、何かを感じ取ることは無かった。


 太陽が真上から少し過ぎた頃、知覚の端に変化があった。

 上空3000mを高速で飛来する物体が現れた。明らかにユズツーに向けて飛んで来るソレは、オビトからの開戦合図のようだ。

 ユズツーを監視している黒マントに動きが無いということはオビト側の暴発か、または秘密裏に遂行された作戦行動なのだろう。

 かなりの飛行速度で飛来するそれは、およそ1分後に着弾予定だ。

 雷のような轟音を放ちながら接近するソレに黒マント達も気がついたようで、全速力で退避を開始した。

 どうやら作戦の存在は知らされているが、実施時間と場所は知らなかったようだ。私に情報を渡さないためとはいえ、組織としての統制は本当に素晴らしい。


 飛来物の構成は大体把握した。全長20mの小さな塔のような形状で、先端は鏃のように尖っている。色はただただ黒い。後部は10本に枝分かれしており、今は寄り集まって閉じている。印象としては空飛ぶ巨大な黒いイカだ。

 閉じた枝の根元、イカで言うなら口がある位置にヒトが乗っている。どうやらミサイルの様な超遠距離殲滅兵器ではないようだ。

 しかし、無謀な突撃にしか思えない。安全に着地するような機構も無いし、なにより減速の意思が感じられない。このまま地面に突き刺さるつもりのようだ。


「ユズ、接近する飛行物から218の術反応がある。予想出来る術の効果、発生時間、範囲を事前に教えられる。必要ならば言ってくれ」


 術のスペシャリストには丸見えのようだ。私には全く何も感じられない。


「私達に効果が及ぶものだけ教えてくれればいいよ。危ない場合は逃げてね」


「了解した」


 元々、戦闘訓練のつもりなのだ。術認識力なしの見てから対応でどこまでやれるか知りたい。

 イカの搭乗者は3人だ。2人はキリンちゃんとシキさんだ。残り1人は初めて見る顔だが大体察しはついている。尖った耳に白い肌、整った顔立ちからモリビトと思われる男性はシュラ様だろう。


 イカの内部に居るので肉眼で確認していないが、初の生エルフ遭遇イベントに間違いない。

 この世界のエルフも例に漏れず顔面偏差値が高い。

 シュラ様はカワイイ系のイケメンだ。前評判無しならシュラ君と呼んでいたに違いないが、策謀と興奮の入り混じった悪い笑顔がカワイイ路線を全否定している。


 狩人3人を乗せた黒いイカは、ユズツーを確実に狙っている。あの巨大な鏃の様な先端でユズツーを貫き潰すつもりらしい。

 流石のユズツーも音速で飛来する大質量体が衝突すれば、粉々に砕け散ってしまう。

 ユズツーはタコちゃんによってオビトの体構造を限界まで再現してもらった。体毛、皮膚、筋肉、内臓、骨に至るまで再現しているので、切られれば血液が漏れ、骨が折れば動きが鈍る。ただし、全ての構成物の強度は竜並みに強い。中枢から末端に至る神経はタコちゃんの分体だけで構成している。


 ユズツーの最高速度があれば振り切る事が出来るが、私の制御圏内から大きく外れてしまう。タコちゃんの自動操縦に切り替わるので、上手くやり過ごせると思うが、事実上の試合放棄になるのでやりたく無い。

 ここはギリギリまで引きつけて回避し、黒イカを地面に激突させるしかない。

 そうと決まれば、ユズツーをこの場から一歩も動かす必要は無い。回避において必要なことは、いかに相手に気付かれること無く動き始めるかだ。狙いは衝突の瞬間がベストだろう。ユズツーに当たることを相手が確信し、地面との衝突を緩やかにする術を発動した瞬間に回避する。


 黒イカが正面上方から轟音と衝撃波を携えて突っ込んで来る。一発勝負なので、相手の思考、感情、反応を細かく読み取って最高のタイミングを待つ。

 上空20m辺りで相手に動きがあった。竜と遊んだときに読み取った、術を発動するための体の反応を認識した。今回は黒イカ周辺の空気の温度が低下していることから、凍結現象を利用して減速するようだ。

 ユズツーに当てればそのまま縫い止める事ができ、地面に潜ることも阻害出来る。過去のユズツーの動向を良く理解して対策をしてあるとは恐れ入った。

 回避方向は決まった。黒イカの向かって来る方向に僅かに角度をずらして躱す。最も危険な先端さえ躱してしまえば、シュラ様達の居る安全な場所に退避できる。

 ユズツーの足裏からユズツーブレスを噴出させ、ノーモーションで飛び上がる。空気を凍らせながら迫る巨大な先端を紙一重でやり過ごすと、滑らかな黒イカの表面に足をつけて走りイカ足の根元辺りに到達する。

 寄り集まっていたイカ足が突然、花のように開いて、ねずみ返しのように行く手を阻んだ。


 シュラ様達の行動は迅速だったが、だが私はその動きを予見している。

 キリンちゃんとシキさんがユズツーとの直接戦闘に出てくる事は凍結が始まった辺りから気がついていた。

 イカ足の壁がユズツーと向こうの2人を隔てている。どうやってこちら側に攻撃をするつもりなのだろうか?


 シキさんが裏側からイカ足にズブズブとめり込み始めた。シキさんの入ったイカ足は変形し、巨大な人型になる。

 あのイカ足はどうやら着るタイプの術具らしい。シキさんはゴリラのようなフォルムの重装甲鎧を纏って、ユズツーに飛びかかって来る。

 長く伸びた腕が更に変形しながら、まるで鞭のように飛んでくる。一度ユズツーに向けて斬り込んだ回避不能の斬撃より、早く鋭い一撃が複雑な軌道で迫る。

 ユズツーは垂直に近い黒イカの壁面を駆け上がっている状態だ。シキさんの攻撃をまともに回避する余裕は無い。しかしまともでなければ回避可能だ。足裏からのユズツーブレスを再度噴出して黒イカから距離を取る。

 ユズツーは空中に投げ出され、少し離れた地面に黒イカが突き刺さった。地面が波打つように盛り上がるも、凍結効果によって歪んだ形状のまま白く凍りつく。


 地面の凍結は範囲を広げて、辺り一面を白い氷の世界に変えている。氷原の中心には黒い塔がそびえ立ち、塔の上部は8本に枝分かれして不気味に蠢いている。

 塔の上部でシュラ様が何か術の準備をしている。そしてシキさんとキリンちゃんは黒い術具を着てユズツーへと迫っている。


 これがオビトの持つ最高戦力なのだろうか? 火力は申し分無いが、ユズツーを狩るには仕掛けが足りない気がする。

 足りない何かの答えはすぐに姿を現した。黒イカと同じように巨大な黒い直方体が、空を飛んでこちらに接近している。

 私に仕掛けを見破られないように、後付けで術具を追加し続けるつもりのようだ。

 中々良く考えた作戦だ。私達がこれまでオビトと関わった際に、向こうに伝わったであろう情報を良く分析している。


 ユズツーの狙いは決まった。時間経過によって、増えた術具による大量攻撃が始まる前に操者を減らす。最後に残った相手と相打ちになる。

 中々に高いハードルに燃えてきた。ナメプとは言えこの世界に来て初めてかもしれない苦戦の予感だ。


 迫る2体の黒い狩人に向けてユズツーを走らせる。

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