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森林脱出3

 ………


 その現象は音も無く起こった。


 地面に置いた葉は綺麗さっぱり消えてしまった。


 千切った元の植物を見ると、何事もなかったかのように、葉が復元していた。


「再生した!?」


 声が出てしまうほど、不自然な現象が起こったのだ。


 思わず心を揺さぶられたが、むしろ興味が湧いた。


 発生条件は何なのか?適応範囲はどこまでなのか?


 今の状況を打破出来る要因になるかもしれない。

 私の思考が動き始めた。

 今出来る限りの検証がしたいと。


 ひとまず別の植物の葉も千切って地面に置いてみると、同様に掻き消えた。今回は千切られた元も注視していた。千切った切断面から失った部分が押し出されるように生えてきた。


 次に千切った葉を手近な木の枝の上に置いた。これも私の手を離れた瞬間に消え、葉が再生する結果となった。発生条件は地面への接触では無いようだ。


 千切った個所に異物があるパターンも、異物を押し退けるかたちで再生された。融合したりはしなかった。


 草を根元から引き抜いた場合は、消えた直後、草のあった地面から一本丸々生えてきた。


 その他に、バラバラに千切って撒いてみたり、二本同時に引き抜いて位置を入れ替えたりした。

 どれも私の手を離れた瞬間に消え、元どおりに復元した。


 まだ確証はないが、この森は破損を自動で復元する仕組みが組み込まれている。

 つまり植物を破損させる存在である動物が暮らす前提の環境である可能性が高い。


 食べられる植物を見つけることが出来れば、飢える心配は無いかもしれない。一つプラス要素を得た。


 明日、明るくなってからは、とりあえず食べられるものを探すことにした。


 後は出来るだけ疲労しないようにするだけだ。


 無理してでも眠ることにした。


 ループ再生していたアニソンを止めると、全くの静寂が訪れた。


 これだけ無音ならば小さな物音でも気がつくだろう。


 パーカーのフードを被り、袖の中に手をしまい。柔らかい草の上で仰向けになった。

 この森で唯一恐怖より感動が勝った星空を見ていれば、少しは心が休まるように思えた。


 さっきまでのアニソンがまだ頭の中でループしている。よく考えたら、激務で昨日は三時間くらいしか寝ていない。


「とにかく寝よう…」


 自分に言い聞かせて目を閉じた。



 ーーーー




 チラチラと光が射す気配を感じる。



 まだまだ寝られる気分だか、チラつく光が邪魔で仕方がない。



 …………



 朝だ、恐らく朝だ



 恐らく?



 私は文字通り跳ね起きた。

 一気に心臓がフルスロットルになり、気持ち悪い汗がブワっと吹きでた。



 辺りはすっかり明るくなっていた。

 一瞬にして夜の出来事が頭を巡った。


 とりあえずあの球体を見たが、何の変化もなかった。



 よくもまあ、こんな状況でぐっすり眠ったものだと、自分に感心してしまった。

 しかし、眠ることが出来た事実は大きい。


 昨晩に気がついた、この森が植物を保全し、動物も生育可能に整備されているという仮説が成立ちそうだ。

 動物の生育も加味しているのであれば、ある程度安全も保証されていると考えたが、割と正解のようだ。



 この仮説が正しければ、恐らくなんらかのライフラインがあるはずだ。


 不思議と空腹感はあまりなかったが、ライフラインの発見を目的とした周囲の探索を始めた。



 私にガチの自然で生存する能力は無いに等しい。安全地帯から出ることは極力避けなくてはならない。安全地帯を球体周辺と仮定するなら、球体が目視可能な範囲から探索をするべきである。


 もはや臆病と言われても申し開き出来ないレベルの消極性を発揮して、球体の周囲10メートル圏内を探索し始めた。


 明るくなって周りが確認できるようになり、森の偽物感がより顕になった。落ち葉一枚落ちていないのだ。

 表現力の低い時代のゲームのフィールドのように、余計なものが何も無いのだ。

 おかげで探索はスムーズに進んだ。

 植物の再生が発生する範囲も把握するため、草を千切りながら歩いたが、どの場所でも再生は発生した。


 すぐ近くに開けた場所があることに気が付いた。


 人工的に下草が刈られ、明らかに種類の異なる樹木が等間隔で植えられていた。

 ただ、樹木を育てている形跡は無く、一時的にこの場所に集めただけという印象があった。

 箱庭ゲームで、必須オブジェクトを置いただけで放り出した感じによく似ている。



 しかし放置の過ぎるこの場所こそ、私の目的地であった。果実が実った樹木があったのだ。


 この場所も再生圏内ならば、この果実は無限に収穫することができるはずだ。


 枝から垂れ下がった赤い果実は、少し甘い香りを漂わせていた。片手で掴んで引っ張ると簡単に枝から外れた。手に持っている限りは、消滅したりもしない。


 後はこの果物が食べられれば問題ない。とは言っても生存能力の乏しい私は、この果実を食べる他無いのだ。


 意を決して果物に齧りついた。



 ………



「結果甘いな。梨みたいな味だ」



 気の利いた食レポは出来なかったが、食べられることがわかっただけで充分だった。

 さらに良いことに果物は再生した。一齧り目で再生が始まったのだ。


 食べるという行為では、若干再生ルールに差異があるようだ。これは複数の動物を同時に生育させる想定で設計されているかもしれない。



 安全地帯にライフラインの確保、かなり順調にことが運び、少し気が緩んだときに、それはやってきた。



 そう、人は食べたら出さなくてはならない。

 食事によって内臓が活動したせいか、ごく自然なそれがやってきた。


 お外でする覚悟を全くしていなかったが、身体は待ってはくれない。


 とにかく場所だけでも決めなくてはならなかった。

 食事の場からは離れた場所にしたかったので、果実の木から離れた木陰で致すことにした。


 途中、この転移主催者が状況を監視しているのでは、という思考が湧いて、私の羞恥心に火が付いた。


 もし、主催者とやらが居たとしたら、同じ目に合わせやると心に誓った。


 ちなみに、私から排出されたものは、綺麗サッパリ消滅したのだった。




 色々あったが、状況は良くなったと言ってよい。


 とりあえずライフラインは確保した。


 次は、今いる場所がどこなのか調べる必要がある。元居た場所に戻るために最も重要なことだ。


 果実の木がある周囲は少し小高くなっているので、周辺の地形を確認することにした。


 鬱蒼と茂る木々の端にソレは姿を現した。


 巨大な奇岩を、押さえつけるかのように生えた異形の大樹が空を覆うように枝を伸ばしていた。


 私が次向かうべき場所はあそこだ。


 元居た場所へ、いや、元居た世界に帰るために確認しなければならないことがある。


 恐らく一つの答えが出るだろう。





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