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猟域脱出9

 巨大な黄金の竜が空にある。なんともファンタジー的に絵になる光景だ。


 翼を殆ど羽ばたかせず空に浮かんでいるということは、なんらかの術理が働いているのだろう。

 術に対する知覚が全く働かない私にとっては、術が現象になるまで何が起こるか分からない。


 目の前に居る黄金竜は、重力を制御して空にある訳では無く。周囲の空気に干渉する事で空間に固定されいるような状況だ。


「ユズ、あの竜は高位の術を使う。ユズツーが損傷する可能があるので、攻撃された場合は出来る限り直撃は避けてほしい」


 珍しくタコちゃんが警戒している。


 私としても術を察知する方法がほしい。ユズツーは極端な加速や、瞬時に爆発的エネルギーを発生させたりは出来ない。

 私の知覚で現象を察知しても、既に回避不能な場合もある。

 オビトのシキさんの斬撃も回避出来なかったので、軌道を曲げる事で対処した。斬撃の構造は解析済みなので、次は事前情報から回避可能だと思う。


 今回は竜相手に術の起こりを察知する練習をするつもりだ。

 術という超常現象も、思考から生まれる行動に過ぎない。思考の起こりを察知出来れば、術の発生を予測出来る。

 思考は肉体というハードウェアに少なからず影響を与えている訳だから、肉体の反応や予備動作から思考を読む。


 黄金竜は動きを見せない。匂いから戦意がある事は感じられる。オビトに恨みのある竜なのかもしれない。

 しかし、ユズツー視点から見れば空で自由が利く相手に上空を取られている訳だ。

 かなり不利な位置関係なので、回避出来ないレベルの広域破壊術などが来ると練習どころでは無くなる。


 不意に竜の周囲の空気干渉が消える。竜の匂いがユズツーの背後に移動すると、竜の姿がブレて消える。

 恐らくは転移術の類だろう。


 背後を取るなど、中々バトル展開の解った竜だ。ここは更に背後を取り返すお約束をやるしか無い。


 まだ、背後に象を結んでいない竜に向かってユズツーを高速バックジャンプさせる。

 竜が背後に転移する間に、更に背後へ回り込む。


 竜の転移は、タコちゃんのような空間を繋ぐ術では無く、指定した位置の空気と自分の体を入れ替える仕組みのようだ。

 状況から察するに、飛翔術とは同時使用出来ないらしい。

 ユズツーが移動を終えると、しっかり地に足を着けた状態で竜の体が現れた。


 ユズツーには私に出来る事がある程度最適化されて実装されている。ユズカブレスの小規模版、ユズツーブレスが使用可能なのだ。しかも、排気は体のどこからでも可能という便利機能があるので、予備動作もない。

 バックジャンプ中からユズツーブレスによって、移動方向を前に変える。竜の背中に取り付くためだ。


 黄金竜の翼の間にユズツーが取り付く。相手の状況判断力と知覚方法を確かめる。


 竜は視界にユズツーをとらえていないが、確かに知覚している。空気に干渉する術に長けているようなので、空気の変化からユズツーの位置を認識しているようだ。


 竜から警戒と殺意の匂いが濃くなる。ユズツーに触れられて何かのスイッチが入ったようだ。逆鱗には触れていないのに、キレ易い竜だ。


 周囲の温度が上昇している。恐らく空気を一気に加熱して、辺り一面を焼き尽くすつもりだ。

 ユズツーが触れている竜の表皮から鱗を毟り取りつつ、全力キックの反動で距離を取る。


 白い山肌よりも白く竜周辺が白熱化する。空気の燃焼による爆発と熱波が壁のように押し寄せる。

 ユズツーを素早く移動させ、被害の無い手近な高処に逃れる。


 ユズツーの手には毟り取った鱗が3枚ある。一枚が手のひらほどある鱗は、透き通った水晶に金の糸が無数に閉じこめられたような見た目だ。

 保存用にユズツーの体内にしまっておく。後ほど食べて竜をしっかり理解するつもりだ。


 竜は爆発してスッキリしたのか、今は落ち着いている。これ以上攻撃するつもりも無いようだ。


「お前オビトでは無いな? 何者だ? 遊びで竜を滅ぼしに来たのか?」


 唸るような低い声で竜から問いかけがある。


「私はココを通る必要があるだけです。貴方達が何もしなければ、私は何もしません」


 ユズツーの声で返事する。私本体が現れたりするとより面倒なことになりそうだ。顔バレは避けておく。


「嘘をつくな。儂の術を遊びで躱していただろう? お前は戦いを楽しんでいる。竜に喧嘩を売りに来るなど、余程の戦狂いだな」


 私が竜を練習台にしたことはバレているようだ。正直ユズツーの操作は楽しかった。格ゲーに似た感覚がある。


「まあ、竜と相対する期待はありました。しかし、皆さん穴の中に篭ってばかりで退屈でしたね。あなたのような大きな方と手合わせ出来たので満足です」


 とりあえずこの場は去ることにしよう。この黄金竜はめんどくさそうな予感がする。


「お前は何も知らんのだな? 今の竜はオビトを侮ったりはしない。機を見てお前を殺そうとしている」


 なんだ?この竜は私を嘘つき呼ばわりする割に、自分も嘘をついてくる。

 嘘の匂いは一番わかりやすい。それに、穴に篭っていた竜達は、私に警戒はするが襲うような気配は微塵もなかった。

 よほどオビトを恐れているのだろうか。


「私は竜狩りに興味がありません。竜が殺したいなら、穴の中の怯えた竜を引き摺り出して、首を毟り取ります。竜の術に興味があったので、少し戯れただけです。あまりお騒がせしても悪いので私はもう行きますね」


 事実を話しておく、私は嘘だけで通すことが出来るほど演技力がある訳ではない。


「勘違いするな! 我らが敵対しているのはオビトでは無い。オビトを率いるシュラと言う名のモリビトだ。お前もただでは返さんぞ!」


 予想どおりめんどくさい竜だ。ユズツーで闘って勝てなくは無い相手だが、時間がかかりそうだ。出来る限り交渉で切り抜けたい。


「ではそのシュラという人に対抗できる手立てを教えましょう。それで私を見逃して下さい。いいですか?」


 黄金竜には若干の混乱が見えたが、直ぐに興味に変化した。


「何故、我らに加担する? お前には何の見返りも無い筈だ。それにお前には我らを滅ぼす力がある。何故力で押し通さない?」


「今は少しオビトに困ってほしい理由があるだけです。あなた方はオビトに対抗でき失う物は何も無い。いい話しでしょう?」


 交渉ごとは苦手だ。見知らぬ相手と信頼関係を結ぶ苦労はしたくない。ある程度暴力をチラつかせて、条件を飲んでもらいたい。


「確かにいい話しだ。しかしお前が真実を語る確証が無い。この話しを進めるならば竜の契約を結んで貰うぞ? 我らの契約は重いぞ」


 随分と一方的な申し出だ。どうしても相手の上に立ちたいらしい。


『タコちゃん、竜の契約ってのは何? 相手の行動を縛る術ってこと?』


『契約術の一種だろう。条件を決め、意に背いた相手の精神を操る術だ。生命樹の精神領域が相手と同等以下の場合に効果があるが、我々やユズには全く無効な術だ」


『そっか、ありがとね。どうなるか興味あるから、竜の申し出を受けて見るよ』


 無知を装って返事をする。ユズツーは完全なポーカーフェイスが可能だ。


「竜の契約を受けましょう。正式な決め事にするのであれば、私からも条件を出させて貰います」


 竜の表情は良く分からないが、どうやら私の申し出にしてやったりのようだ。


「いいだろう。お前からの条件が無ければ契約は成立しない。好きな条件を言うがいい」


 随分と自信があるようだ。今まで散々契約で立ち回ってきたのだろう。


「私の教える対抗策はオビトから攻撃があった場合にのみ使用すること。侵略に使用した竜は、私の家畜になって貰います」


「それでいいのか? 我らはお前が真実を話す事を求める。嘘偽りがあった場合は、お前に我らの子を産んで貰う」


 何やら妙な事を言い出した。高圧的な奴だと思っていたが、まさかここまで失礼な奴だとは思わなかった。


「契約に問題ありません。そんな条件で良ければどうぞ」


「我ら竜はどんな種族とでも交わることが出来る。お前は中々強力な血を持っていそうだ」


 なるほど、種として既に貪欲な訳だ。今まで色々な種と交わって今の形になったのだろう。

 オビトに怯えた姿に同情したが、無用のようだ。


 竜とユズツーの間に光で描かれた文字が現れ、球状に集まる。

 やがて全く同一の2つの球となり、1つは竜の中へ1つはユズツーの中に消える。


「契約は完了した。さあ話せ。シュラに対抗する手段とやらをな。そんな物があるならばな」


 どうやら私を竜族の繁栄に使うことが本命らしい。


 思考を放棄した存在というものに未来がない。そしてそれに気付くことも無いのだ。

 私から送られるものが種を滅ぼすかもしれない劇薬だとは思はないだろう。

 あわよくば竜がそれに気がつき、真っ当な種に変わることを祈るのみだ。


「では手短に説明します。オビトが使う術具を無力化する方法について」

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