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森林脱出2

「ふぁっ!?」


 思わず変な声が出てしまうほどに、視界の変化は突然やってきた。


 ただ振り返る、すると背後の景色が知らない森になっていたのだ。


 突然の変化に尻餅を付いてしまい、咄嗟についた手に地面との強い摩擦を感じた。


 警戒心と恐怖心は途端に全開になった。

 体から滲み出る変な汗が一向に止まる気配がない。自分の鼓動と荒い呼吸が周囲に響いている。


 私から発せられる音以外なんの音も鳴っていない恐ろしく静かな空間が広がっている。


 時間は夜のままなのだろう。辺りは真っ暗と言っても過言ではない。私を覆い隠すような無数の木の影と、土や草の匂いが、ここを森と認識させていた。



 平静を取り戻す一心で、手に持っていた携帯端末を慌てて確認すると、電源は入っている状態だった。


 ………


 通信表示は圏外だ。


 震える指で端末ロックを解除する。


 ネタで設定した後輩のコスプレ写真が表示され、心に少し平静が戻ってきた。


「すごく良かったよ、アリス」


 思わずコスプレ元のテンプレセリフを発してしまったが、おかげで平常運転に戻ることができた。


 後輩に感謝である。



 立ち上がり周りを見回すと鬱蒼とした森が広がっていた。周囲は星明りでぼんやり視認できる程度だ。

 月は月齢の関係か角度の問題かは不明だが、見つけられない。


 ………


 空は満天の星が埋め尽くしていた。都会に暮らすリーマンはまずお目にかかることの出来ないレベルの星空だ。久しぶりに二次元以外で感動した。


 しかし残念ながら私に天体関連の知識は全く無い。フィクションの世界でも精々、帝国と同盟の位置関係を把握している程度だ。

 星から得られる情報は無いので、別のアプローチをすることにした。


 まずは現状把握からだ。


 服装や所持品は対コンビニ装備そのまま。

 周囲には動物の気配なし。

 木が茂っているだけ。

 気温や湿度は体感だが、5月中旬といった感じ。

 体調に変化は無い。

 とにかくすぐ家に帰りたい。

 3メートルほど前方に鉛色の球体がある。


 あまり怪しいそれは、大きさにしてバランスボール程度で、原理は不明だが宙に浮かんでいる。

 ただ空間に固定されたように宙にある球体が、星明りで薄っすらと光っていた。


 先程からこの転移的な現象の、理由や目的を説明する何らかの存在が現れる気配がない。


 どうせ主催者から天の声があって、目的が提示されるものだと思っていたが、一向に進行役が現れない。


 独力でなんとかするタイプだと私の思考が動き始めた。あの球が起点になる可能性は非常に高いと。


 ………


 恐る恐る近付いてみると、球の表面は細かい紋様で埋め尽くされていた。


 微妙にグロいデザインだ。


 小さなフジツボがびっしり表面を覆った球状の甲殻類が眠っているようにも見える。


 ネットで見た怪談に似たような丸いやつがいた事を思い出して、私の背筋がゆっくり冷たくなるのを感じた。


 思考が良くない方向に向かっている。

 体の奥から恐怖心が湧き出してくる。


 だが私には文明の集結した携帯端末がある。

 気を紛らわせるため、動物モチーフの元気いっぱいなアニソンをループ再生してやった。


 恐るべきアニソンの力。その場の雰囲気さえ明るくなったようで、私のメンタルは全快した。実に易いメンタルだ。


 アニソンが流れる夜の森で、謎の球体と相対しているという、全くシュールな状況ではあるが、私は冷静になっていた。


 かなり大きな音を出しているが、周りから一切の反応が無い。小さな虫さえ居ないどころか、風さえ吹いていないのだ。


 この森はまるで作りもののような無生物感を漂わせている。


 何者かが創り出した偽物の中に居る。

 そんな考えが頭に広がり、私は覚悟を決めて球体へと手を伸ばした。



 それは独特な質感だった。触った際に音すらなく、エネルギーが全て吸収されたように手ごたえが無かった。


 ………


 そして予想外に何も起きなかったのだ。


 これは本格的に厄介なことに巻き込まれた。


 何か現状を把握できる要素があれば動きようがあるが、今を持ってして謎しかない。

 意図不明。理由不明。場所不明である。おまけに夜で何も見えない。後色々怖い。


 マイナス要素が多すぎる。



 ここはマイナス要素を減らすため、一旦朝を待つことにした。

 夜の森を歩くほどのサバイバル能力も根性も私には無いのだ。


 恐らく眠ることは出来ないであろうが、何処かで楽な姿勢を取りたいので、周囲で地面の柔らかい場所を探した。

 草や木にはしっかり手ごたえがあり、本物感があった。異質なのは今のところあの球体だけのようだ。


 ようやく良さげな場所を見つけて休もうと思ったが、どうも地面に直接触することに抵抗感があったので、手近な葉っぱで寝床作りをすることにした。


 近くにフキのような植物が生えていたので、葉を一枚千切って地面へ置いた。



 その瞬間にその現象は起こった。



 地面に置いた葉がまるで溶けるように消滅したのだった。


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