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禁域脱出6

 高位術が扱えないと、法国には入れ無い。いきなり私の行く道が絶たれた。


 高位術以前に術が認識出来ないのだから、全くお話にならない。


「え? 私は法国に入れないって事? さっき門の先は認識出来たのに、入るのは無理?」


「ユズの場合は、単独で入る事が出来ないだけで、仲介者が居れば入れるだろう」


「うーん、わからん。どういう事なのタコちゃん」


「高位術は、生命樹の認識軸が3以上ある者が扱える術だ。ユズの場合は、恐らく認識軸が高次過ぎて、術を術として認識出来ないだけだろう。先程の門の中が認識出来たのであれば問題無い」


 生命樹というのは、精神領域と肉体領域に分かれている。この二つを軸と考えるなら、以前に図式化して見せてもらったリュー君やタコちゃんの生命樹は二軸だった。

 私の生命樹が真っ黒な何かに塗り潰されていたのは、三軸以上の物を二軸で見た為だろうか。


 とりあえず、私は法国に入る事が出来るようだが、他のメンバーはどうなのだろうか。

 タコちゃんは、生命樹は二軸だが高位術を扱う事が出来るので、入国は可能だろう。

 リュー君、ミトラ、ブラドはよく分からない。全員、いけそうな要素を持っていそうだが、術の事がまるで分からない私には、識別することはできない。


「タコちゃん、他に法国に入れる人は居る?」


「ブラドは可能だろう。リューとミトラは無理だ」


 リュー君がこの世の終わりのような顔をしている。


「そんな!なんとか僕も入れないですか!法国が存在しているのなら、入る事自体は可能なんじゃないですか?」


「法国を認識出来なければ、仮に入れたとしても、リューは樹木の中に居ると認識する。最悪、呼吸が出来なくなり、死に至るだろう」


 リュー君は私と来たいようだが、今回は難しいようだ。


「まあまあ、こんな事でリュー君の命を危険に晒したくはないし、今回はミトラと待っててよ」


「ですが…」


「2日したら、何があっても戻るから。安心して。なんたって私を止められるモノは、この世に無いからね」


 渋々という表情で、リュー君は頷いた。


 本来であれば、リュー君には自分の時間を楽しんでもらいたい。あまりに私に傾倒した生き方は、狭く過酷な人生だ。

 リュー君には歳相応の好奇心がある。それを無用な義務感で押し込めさせてはいけない。


「では、2日の間に僕に出来る事はありますか?」


「それなら、ここにも冒険者組合があるから、顔を売っておいてほしいな。私とタニアが師事した冒険者は、優秀だって事を知らしめないとね」


「わかりました。緑の依頼は1人で出来るようになっておきます」


 リュー君の冒険者としてのキャリアは、順調に積まれている。

 一部タニアが手伝った依頼はあれど、独力で緑の冒険者証に到達しており、過去最速記録で昇格しているのだ。

 緑の冒険者証を持っているレベルならば、冒険者業単独で財を成す事が出来る。

 それ程に信頼出来る技術が身についているのだから、私の些事に付き合わせて、先の成功を奪う訳にはいかないのだ。


「ミトラは放っておいていいよ。どうせリュー君には付いていけないと思うし」


「俺がどうしたって? どこかいくのか? 俺はいかんぞ」


 さっぱりした様子のミトラが戻ってきた。


「法国に行こうかと思ってね。その算段をしてたとこ」


「モリビトの巣に行くのか。俺はモリビトの術は分からんからな、興味ない。至高の術を扱う奴ららしいが、俺とは方向性が違う」


 モリビトの術式に興味を持つかと思ったが、趣向が違うようだ。どの道、法国には行く事が出来ないので、ちょうどいい。


「じゃあ、私達は勝手に行くから」


「リューンクリフはどうするんだ?」


「僕は別の用事があるので、今回は残ります」


「おっ、いいじゃないか! 行ってこい。しばらく帰ってこなくていいぞ」


 リュー君が嫌そうな顔をしている。


「さっと行って来るね。タコちゃんよろしく」


「タコちゃんって誰だよ」


 タコちゃんの銀の触手が空間を撫でると、丸い穴が音も無く開いた。

 この時点で、リュー君とミトラは穴の存在に気がついていない。法国を認識出来ないというのは、本当のようだ。


 ブラドは、自分で空間に穴を開けると、さっさと行ってしまった。


 私もなんとなく穴を潜ると、白亜の高級宿の室内から、いきなり空の見える外に出た。

 穴が閉じると、リュー君とミトラが認識出来なくなった。ここは、樹壁都市ユリスから私の認識範囲を越えた場所だ。


 地面は、樹木の枝が隙間なく寄り集まって、僅かに傾斜を作っている。恐らく中心に向かって浅いすり鉢状になっているようだ。

 広さは、私の認識範囲を遥かに超えている。夜ではないが、星の配置から、この領域が北海道並に広大である事が分かる。


 地面に構造物は殆ど無いが、空には巨大な木が無数に浮かんでいる。

 木の根は液体の球を捉えており、まるで空飛ぶ水耕栽培の大樹だ。

 樹木の内部、外部は、人工的に加工されており、モリビトの生活の場になっているようだ。


 この領域に侵入した私達に関心を示す者はいない。何かに襲われるでもなく、歓迎されるでもない。

 モリビト達は、普段通りと思われる行動を続けている。


 先に入ったブラドが、少し先で方向を確認している。


「こっちだ。前言ったモリビトはここにいるぞ」


 ブラドは法国の中心部と思われる方向へと歩き始めた。


「歩いていくの?」


「あんだ? 急ぐのか?」


 そう言うと、ブラドは腰巻の中に手を突っ込んだまま、音速を突破した。

 ブラドの踏み込みに、樹木の地面はびくともしない。


 私はブラドの後を追い。同じ速度で移動した。


 特にスピード違反で捕まる事も無く、私達は異常に大きな空中樹の真下に到着した。


「上にいるぞ。少し匂いが妙だが、同じ奴だ」


 ブラドは、吸血鬼がモリビトに作られたと知る、最古クラスの吸血鬼だ。

 当時のモリビトとブラドは交流があった。その頃に居た人物が、今、この場所に存命しているらしい。

 どれくらい昔の話かは、知らないが、少なくとも数百年単位のようなので、旧知というスケールがでか過ぎる。


 ブラドは、強く地面を踏みしめ、反動で大きく飛び上がり、例の空気噴射で空中樹へと到達した。


 空中樹は、大体地面から2000mは上空にある。まだ、モリビトの移動手段的なモノを見ていないので、この国での移動手段がさっぱり分からない。

 高位術を扱うのであれば、転移術が一般的なのだろうか。


 私は、垂直跳び感覚で到達出来る高度なので、ピョンと飛んで空中樹に到達した。


 外から飛んで来たので、空中樹の端に着いたのだが、誰もいない。

 特に手入れもされていないので、蔦のような植物が生い茂っている。


 土が無いせいか、草や別の樹木が生えるという事は無いようだ。

 まるで石のような空中樹に、蔦が絡み、キノコや寄生木が生える、独特の植生だ。


 少し行くと、メンテナンス用のハッチのような蓋があった。

 空中樹の内部は空洞になっていて、内部に町がある。

 私達の居る場所は、空中樹の根が捉えている水のような塊から、何かを循環させている装置の一部のようだ。


 ブラドがハッチを素手で剥がしていた。どうやらロックがかかっていたようなので、力ずくで解決したようだ。


 内部は人気の無い白い通路が続いていた。殆ど人が来ない区画なのか、若干埃っぽい。


 廊下は、他の根と合流するので、途中いくつもの道と交わっていたが、ブラドは悩む様子も無く、スタスタと歩いている。


 少しずつ人の居る領域に近づいている。管状の通路だった道には、吹き抜けが入るようになり、装飾のある壁が目立ち始めた。


 やがて、小さな子供の声がし始めた。


 覗きまとめてから外を見ると、巨大な根の上に、巻貝のような方の建物が無数に建っている。


 そこは正しく空中都市であり、そして私達が居る建物は、恐らく学校だった。

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